第78話鳴門の渦潮




何故そうなった。

安易な返事が、こんなことになってしまった。



目の前の海は、鳴門なると渦潮うずしおが発生してうねり合って復数が干渉かんしょうし合っていた。


これは潮汐ちょうせきよって渦潮が発生するのだ。

簡単に言えば「潮の満ち引き」だ。

鳴門海峡の狭い海峡に一気に海水が流れ込んで出来る現象だった。

大きなうず巻きが、あっちにも向こうにもこっちにあった。

あのうず巻く海は小型船をも、楽に海中へと引き込んでしまう恐ろしい鳴門の渦潮だ。

それだけの海流が、渦巻きの下に発生している。


「凄いですねーー、この海を泳いで渡ることなどできませんわ」


「そうだな、あのうずなら30メートルもありそうだ」


そんなことを言いながら・・・俺なら泳いで向こう岸まで辿り着ける気がする。

それに俺がここに来たのも仕事だと言うのに、静香は観光気分だ。

子供たちは乳母に任せて、ここまで付いて来てしまった。




淡路から四国を見渡していた。

その間を鳴門の渦潮にさまたげられている。

ここに海底トンネルを掘れって、無茶な要求をしやがった。

四国のバカ大名が将軍家に願い出て、将軍も困っていた。


九州も本州とつなぐ海底トンネルを願い出てきた。

もうめちゃくちゃだよ。


本人がするならいいが、その難しい工事が俺に降り掛かってきた。

俺の身にもなってくれ。


そして、公家などにも協力を求めて、金を渡している。

大名と公家から言い寄られて、最後は天皇の一言だ。

将軍も渋々しぶしぶに受ける羽目になった。



事の発端は、パナマ運河だ。

秘密だぞ、と言っておいたのに何処からか、その情報が洩れてしまった。

あの運河が出来るなら、海にも簡単に渡れる方法があるとにらんだ。

その答えが海底トンネルだ。

この時代の常識をくつがえす発想だ。


京と紀伊の山のトンネルが不味かった。

結構な観光スポットになって、大勢の人たちが見に来るのだ。


その噂は御所まで広がる。

天皇も熊野神社に参るついでに、トンネルを楽しみにしているらしい。



こんな話が出たのも、色々と裏話があるみたいだ。

これは九州や四国と対岸の国の大名が、結託けったくしたことに違いない。


忍者を海外へ出し過ぎた。平和になったので、役に立つ仕事を任せ過ぎたのが原因。

国内の最新情報が手に入らない。


パナマ運河も忍者隊が運営している。そして大勢が移り住んでいる。

親、兄弟も連れてだ。

最初は「暑い暑い」と文句を言ってたのに・・・


東京にも多くの忍者が移住して、優雅な生活をしている。

俺からの支援を受けて、商売が繁盛して支店まであっちこっちに建てている。

今から呼び戻すと不満が出そうで出来ない。




「静香、今から仕事をするから遠くで見ていなさい」


「そうですか? もう仕事をなさるのですね」


喜んでいた顔から、一転して沈み込んでいた。

ごめん静香、ちゃちゃっと仕事をかたずけるからな・・・



岸から遠く離れて、ゆるい傾斜を付けて、土をごっそりと収納しながら、土魔法を展開してゆく。

落盤しないようにトンネルの周りを強化して頑丈な作りにしてしまう。


ずんずんと収納して強化してひたすら突き進む。

空気中の酸素が少なくなってきた。

風魔法で空気の流れを作り、外から新鮮な空気を補充だ。


「あーー、新鮮な空気だ・・・何・・・静香、こんな所まで来たのか?」


「だって、心配だったのよ」


うつむいたまま、ねたふりをしてきた。

そんな拗ね方がたまらん。いやいや仕事に集中だ。


そんな静香を気にしながら収納して進む。

ここからは平行に収納して進み、今度もゆるやかに傾斜を付けて地上に向かう。

地上にようやく到着。振返ると静香が駆け寄って来る最中だった。

そして俺に抱きついた。


「殿、仕事が終わりました。食事をしましょう」


「そうだな、ここの国のうどんは美味いって有名だぞ」


「それなら、一緒に食べましょう」


静香が笑っている。


その「うどん」も伊勢が最初だった。

四国攻めに同行した料理人が教えたのがはじまりらしい。



トンネルは、電車が通る大きな穴と一般人が通れる穴に分けて作った。

緊急時にその穴へ行けるドアも設置。

空気の入れ換えは、大型ファンを設置して解決済みだ。



「こら、勝手に触るな!第一種電気工事士の免状を持っているのか?」


「すいません、ただ見ていただけです」


「下手に触ると感電死してしまうぞ」


「感電死って何ですか?」


「体に電気が流れて死ぬ恐ろしいことだ・・・感電死を見た事があるが、凄い形相になるぞ」



もしもの事を考えて、強力排水ポンプも複数設置工事を進めている。



何処かの国のように、完成したトンネルが水で水没しない工夫だ。




電車も1年前から運行されていて、京と紀伊の間は貫通している。

そして伊勢を通って尾張まで海岸沿いに走っていた。

海岸沿いの景色が良いって評判だ。



電車を通してくれと、大名からも願い出ている。

お金を出すなら引き受けると言うと、言葉をひごす連中だった。


鳴門トンネルが開通したので、淡路と本州のトンネルを掘らなくてはならない。

ああ、疲れた。



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