第52話南蛮船とクジラ




俺は公家を相手に力説していた。

この当時の南蛮船の宣教師は、アジアへ宗教を広げながらスパイ的な活動もしていた。

そして、むごいことに日本人を奴隷として買ったり誘拐をもしていた。


海外に連れ出せば、ばれることもなく金になるのだ。

日本にも奴隷が居たが、海外へ連れ出された日本の奴隷を想像するだけで悲惨ひさんだ。


たしか豊臣秀吉は、海外に連れ出された日本人を買い戻した話を聞いたことがある。

なんでも九州遠征に同行した秀吉の御伽衆の一人が、なんたらの日記みたいなものに記録として残していた。

「日本人が数百人、男女問わず南蛮船に買い取られ、獣のごとく手足に鎖を付けられたまま船底に追いやられた。地獄の呵責かしゃくよりひどい」

そんな経緯いきさつで、バテレン追放令をだしたんだ。



たしか豊臣秀吉は、布教の最高責任者と会ってきつく問いただしたことがあった。


なぜかくも熱心に日本の人々をキリシタンにしようとするのか。


なぜ神社仏閣を破壊し、坊主を迫害し、彼らと話し合いをしないのか。


牛馬は人間にとって有益な動物であるにもかかわらず、なぜこれを食べるのか。


多数の日本人を買ったり拉致して、奴隷として国外へ連れて行くようなことをするのか。



この質問の後で、バテレン追放令を発令した。

何故そうしたのか、日本植民地化計画を瞬時に看破したからだ。

それは徳川幕府にも引き継がれて、インドやフィリピンのような植民地にならなくてすんだ。




そして、金と銀の交換比率も海外と日本と違っていた。


外国では金と銀の交換比率は、金1:銀15。

それに比べて日本は金1:銀5と銀の価値が高い。


なので貿易は対馬を限定して、日本の情報の流出を制限するよう説き伏せた。

勿論、宣教師の入国も禁止だ。

キリシタン大名を増やせば、自分の領地も宣教師に渡してしまうからだ。

それ程に信仰心は恐ろしいものなのだ。

それに、今ならまだ間に合う。キリシタン大名にまだなっていない人が多い時期だから・・・



公家との交渉を何度も繰り返した。


そして天皇の勅命ちょくめいを頂いた。

天皇はいたく共感したらしく、俺宛用に自筆での書状をも頂いた。



そしてようやく九州に、将軍の名で『バテレン追放令』が発令された。

南蛮船は対馬以外での貿易は禁止。

宣教師の入国禁止。

アヘンの持込禁止。

奴隷貿易禁止。

金銀の取引きは、海外比率で取引きを行なう。


対馬では、土木隊が派遣されて貿易しやすい港や幅広い道を建設中だ。

それに防衛基地などを建設をしている。


そして、駆逐艦対馬が入港。

対馬専用の防衛を担う役目で、急ぎ造船した駆逐艦だ。

スピード重視に造船した為に、他の駆逐艦より若干小さい。



対馬国の領主の宗将盛そうまさもりは、始めは対馬ごと乗っ取られるのかと疑ったが。

しかし、貿易が始まり利益が入ってくるようになると、いたって協力的になってきた。

もともと朝鮮との貿易を行なっていた。

なので貿易のうまみもよく知っている。




白浜城の天守閣から捕鯨母船ほげいぼせんの入港が見えていた。


「殿、あの船はなんですか?」


「あれは捕鯨母船だよ。捕獲したクジラを解体用の甲板へ引き上げて解体する船だな。念願の冷凍庫が出来たので、鯨肉冷凍加工設備や塩蔵加工設備があるんだ」


「クジラですか?」


「ああ、クジラを知らないのか、あそこにある蔵よりでかい魚が海には生きているんだ」


「あの蔵よりもでかいのですか・・・また嘘を言っているのですか?」


「嘘じゃーないよ。海の広さは知っているよね、そして海ってあの山よりもとても深いんだ。その海には巨大な生き物が沢山生きているんだ。あの蔵に引けを取らないイカもいるよ」


「あのイカですか・・・」


目をつぶって考えてる顔も可愛い。




そしてクジラから取れる鯨油からは、灯火用の燃料油やろうそくの原料や機械用潤滑油などが取れる。

それにクジラの肉も食肉として食べられる。クジラは残すところなく使い切れるのだ。



それに龍涎香りゅうぜんこうが取れた。

龍涎香は未知なる香りとして、西洋や中国で愛用されていた。

西洋では香水が流行っていて、龍涎香がかもし出す香りは、柔らかく、暖かく、それでいてセクシャリティも感じさせる香り。


そしてその正体は、腸内で作られる『結石』で、クジラは1日に何百キロもの魚と1トンのイカを食べる。

イカのクチバシなど消化できないものが、特殊な脂肪でできた分泌液によって結石化される。

それが龍涎香だった。


形はただの石や岩のような形で千差万別。

色も灰色や黒や黄色など様々だ。

持った感じは軽石みたいな感じだ。


これが結構な値段で売れるから、たまらない。



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