第25話初めての夜と温室




静香が三つ指を軽く床につけて、ていねいに礼をしてきた。


バクン・バクンと心臓が高鳴っている。

これは昔風に言う初夜のあいさつなのか・・・このままではいけない。


「ちょっと待ってくれ」


「待てとは・・・母上に聞いたのと違いまする」


「いや嫌いとかでなく、君はまだ若い。16歳になった時にあれをしよう。・・・それがいい」


日本では女性の結婚できる最低年齢が、16歳から18歳にかわるらしいが、16歳になればOKだったのだから大丈夫だろう。


「なぜなのですか・・・」


「え!えーーと、子供が出来てしまうと、14歳の体には負担が多すぎるんだ。君のことは好きだけど君の体が心配なんだ・・・これでも医術の知識があるんだよ」


「見知らぬところへ来てしまったのです。あなただけが頼りなのです。どうか1人で寝ろとは言わないで下さい。今でも胸が痛いのです」


俺はそっと静香の手を取って、回復魔法を掛けてみた。

なんだ、ただ興奮しているだけだ。


「あなたに握られて、心が静かになりました。おそばで寝てもいいでしょうか?」


「まあ、寝るだけならいいかも」


このまま彼女を帰す訳にもいけない。

下手に帰して悪い噂がたつと、彼女が可哀想だ。


心を落ち着かせて深呼吸をしよう。


「スーハー、スーハー」


なんだか落ち着いてきた。


「この掛け布団をめくって寝るといいよ」


「あら、やわらかい。これが噂の布団ですね」


スススと布団に入って、安心したのか10分程で寝息を立てていた。


「可愛いな・・・俺も寝るよ・・・」


少し恥ずかしかったので、背を向けて寝てしまった。





俺と静香はガラスで出来た温室に入っていた。

このガラスは、割れにくいガラスで建てた。

台風が来ても、飛ばされない程の頑丈さを持っている。

支柱も地面深くまで突き刺しているからだ。



「この赤い実がイチゴですか?」


「そうだよ、白いのはまだ食べられないから気をつけてね」


そう言いながらもぎ取って、ヘタを取ってから渡した。

少しだけかじって「美味しいです」とニコリと笑っている。


俺もイチゴを取って、食べた。

ああ懐かしい味だ。このイチゴは、俺が食べた中で一番美味しかった。

自画自賛じがじさんで、自分自身をめてやりたい。


知らない間に、静香は沢山食べていた。


「あまり食べ過ぎると、マスカットが食べられなくなるよ」


その途端に手が止まった。そして「うふふっ」と笑っている。



次に入った温室には、マスカットが育っていた。

ガラスが紫外線を通しにくいという特徴から、皮が柔らかく、繊細せんさいな味わいに仕上がっていた。


静香は、背伸びをして取ろうとするが、指先しか当たらない。

困り顔で俺の方を見てくる。


「仕方ないな・・・このマスカットでいいのか?」


「はい」


ハサミを取り出して切って渡すと、皮ごとパクリと食べていた。

種無しのマスカットでよかった。

皮も美味いのか、次の1粒もパクリと食べている。


「あまい水が広がって美味しい」


「そうか、美味しいか・・・」



最後には、高級メロンを切って、スプーンを渡した。

キョトンとした顔をしている。


「こうやってすくって食べるんだよ」


すくったメロンを、静香の口へ持ってゆくと、またもパクリと食べた。


「ああ!これも美味しいです」


なんだか、殺伐さつばつとした戦いと違って、凄く癒された感じだ。

俺には、こんな時間が必要なんだと思う・・・





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