第24話夢を見た




足利義輝が俺と向かい合っていた。


木刀を握る足利義輝が、上段に構えている。

睨み付けている眼には、鋭さがみなぎっていた。


足のつま先で、ぐぐぐいと地面を締め付けている。

2人とも相手のスキをうかがって、1時間も動かない。





俺は太原雪斎の呼び出しで、京まで出かけた。

急な呼び出しで、用件も書かれていなかった。


屋敷の狭い部屋に通されて、2人きりでの対面だった。

そして、深刻そうに話があると切り出された。


「足利義輝さまと、最悪の仲になっている。このまま放置すれば一大事になること必定」


仲を取り持つことは、不可能だろうと言っている。

そして太原雪斎は、足利義輝を将軍職から退位させて、今川義元を将軍にしようと企てた。


何もしなければ、足利義輝を殺す以外ないと言い放った。

天皇や公家にも手を回して、密約を取っていた。

どれ程の貢物を送ったか定かでないが、俺が送った銭からみても相当な銭が動いた。


足利義輝に退位の話を迫ったが、ことごとく打ち倒された。

殺したのでなく、木刀による試合で打ち倒された。


足利義輝は、腕に自身があったのだ。


「勝ってから、話を聞こう」と話を一切聞かない。

その意志は強く、ゆるぎない。


足利義輝の最後のプライドだったのだろう。

今川家から、剣豪と呼ばれる者が幾人も挑んで倒された。

そして、ついに俺まで回ってきた。




速い動きで足利義輝が打ってきた。

俺は意図せずに体が勝手に動き、かわしてから木刀を振り下ろしていた。

あれ!頭を叩いていた。

そのまま足利義輝は崩れるように倒れた。


ピクリともしない。

不味いと思った俺は、駆け寄って回復魔法をほどこした。


あれ!なにか一瞬だが光った。


「ううう、ここは何処だ!」


「ここは、屋敷に御座います」


なにやら驚愕きょうがくする足利義輝であった。





またもや、足利義輝と2人だけで向かい合っていた。

広い部屋で、もやもやするように足利義輝は、考え込んでいた。

またも、1時間も沈黙が続いた。

そして、独り言を言うように話した。


「夢を見ていた」


「夢ですか?」


「そなたが生きていた世の夢じゃ。凄いビルや車に乗った夢じゃ。あんな時代を生きていたのだな」


なにを言っているんだ。ただの夢ではない。

もしかして、あの一瞬で俺の人生を体験したのか?


「本にて己の最後の死に様を読んだ時に、ようやく分かった。足利は不要だと・・・」


たしか、三好によって殺されたんだ。

足利義輝の近臣は、先に討ち死にしていた。

残ったのは足利義輝だけだった。

自害説や奮闘ふんとうして何人も殺して、最後に力尽きて殺されたなど、色々と書かれていた。

そんな本を読んだらショックだよな。


「退位の話は受けよう。そなたのお陰で生きているのだから・・・」


俺を体験したことで、時代が変わったことも納得している。





なんで俺の屋敷に居るんだ。

足利義輝は暇なのか?京から俺に付いて来てしまった。

無下に出来ない。退位をしないと言いかねないからだ。

京だと肩身が狭いのか?それとも俺に興味をもったのか?


足利義輝の近臣の2人が一緒に付いて来ていた。


残りは、今川義元の家臣となった。

太原雪斎によって足利義輝を裏切っていたのだ。

それに対して、足利義輝は怒ることも無く素直にそれを受入れた。




大事な事は、それだけではなかった。

太原雪斎と公家によって、すでに決まったことだった。


俺に嫁さんが出来てしまった。それも14歳だ。

たしか中学2年生になるのかな。

幼い顔をしている。名前は近衛静香このえしずか


なんか、知らない間に婚姻を決められ、公家とのつながりまで背負わされてしまった。

どうしたもんか、ただ戸惑うばかりだ。

それに引き換え、付いてきた竹中半兵衛は、あっちこっち京を飛び回っていた。

今後の活動の準備だと言ってたなーー。



近衛静香は、近衛前久このえさきひさの養女らしい。

どこぞの下級公家の娘であると、本人が言っている。

寂しくないのかと聞いたら、寂しいがいたしかたないとポツリと人事のように言っていた。


なので、京を去る時には、それなりの銭を実家に送っている。





近衛前久って人物は、行動力のある人物であるらしい。

1度会っただけで、あまり話もしていない。

いや向こうが一方的に早口に話していただけだ。

それも公家言葉で話すものだから内容がよく分らなかった。


なので後で竹中半兵衛から、近衛前久の人物について詳しく教えてもらった。


越後国の長尾景虎(後の上杉謙信)が上洛した際に、前嗣(改名前)と景虎は互いに深く話合い、血書の起請文を交わした仲だった。

なにやら、この日本の行く末に思うところがあったみたいだ。

前嗣は関白の職にありながら景虎を頼り、越後まで行った人物だった。


公家でも何か出来ると思っての行動だった。



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