2.バレーボールの試合

 猫山高校のバレーボール部は練習がハードなことで有名だ。

 顧問や先輩たちがすこぶる厳しく、毎年4ダースくらい集まる新入部員は、2年になると半ダース近くに減るらしい。だから3年が引退したあと、1年でもレギュラー入りできるチャンスがある。


 瞬く間に半年がすぎ去り、わたしたちは新しい年を迎える。

 3学期の初日、タイシュンくんは右手に包帯を巻いて登校してきた。周囲に数人の男子が寄ってくる。


「タイシュン、どうした!」

「まさか指の骨、折ったのか?」


 秋に2度目の席替えがあって、彼の席は今、わたしの1つ後ろになっている。

 だからわたしも、すぐに言葉をかける。


「ねえタイシュンくん、なにがあったの?」

「冬休みの練習で、やっちまった」


 タイシュンくんにむらがる級友たちが、いっせいに溜息をもらす。


「新人戦は?」

「無理だ」

「そっかあ、残念だね」

「まあな。これでおれは、やめることにした」


 すると男子の1人が、教室の他の人たちに向かって叫ぶ。


「おーい聞いてくれ! タイシュン、部活やめるってよ」

「お前、いちいちアナウンスとかすんな!」


 タイシュンくんが左手をふりあげたので、余計なことをした男子は逃げる。

 そんなわけでわたしは新人戦の応援に行く必要がなくなったけど、2週間後、クラスにいるバレーボール部マネージャーから、ある話を持ちかけられる。


「ねえ旬子じゅんこ、明日あいてる?」

「あいてない」

「じゃ、バレー部の新人戦、応援しに行こうね」

「あんたは、どんな耳してんのよ!」

「こんな耳です」


 その女子が、わざわざ長い髪を手でどけて、両の耳を見せてくれた。

 わたしは折れることにする。


「そのエロ可愛い耳にめんじて、つきあってやろうぞ小娘」

「やった、そうこなくっちゃ! 朝8時ごろ、迎えに行くね」

「らじゃあ!」


 翌日、小雪のチラつく寒い中、市立体育館まで足を運んだ。猫山はシード校なので試合は2回戦から始まる。

 相手は犬沢商業と云う学校になった。猫山勢には、序盤から「バシバシ」とアタックを決めまくる選手がいる。


「あの人、めちゃ格好いい!」

「うちのクラスに弟いるよ、西浜にしはま鯛春たいはる

「え、それマジ?」

「うん。まあ鯛春くんは、バレーやめちゃったけど」


 わたしは、準々決勝で敗退となるまで猫山勢を、と云うか西浜先輩個人を、熱烈に応援し続けた。ぶっちゃけ、完膚なきまで恋に落ちていたのだ。

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