噺家志望でも恋したい

紅灯空呼

1.落語研究会のプラン

 わたしは中学3年のとき、なぜかしら落語にすこぶる興味を持ち始めて、噺家になろうと決めた。

 だからプランを用意する。高校1年から大学3年の終わりまでの6年間、落研で研鑚を積んだのち、女子大生落語家としてデビューするって。

 だがしかし、スベリどめで受かった高校には落研がなかった。

 ちょいと微妙な「お笑い研究会」と云うのがあるけど、妥協したくないわたしは入部せず、人を集めて落研を作ることに決めた。

 中学時代からの友だちを中心に声をかけまくる。男女を問わず4ダースくらいの人数にアタックするけど、全員から「ノー」と云うレシーブを返された。


 もう真夏は始まったんだと思える暑い日、クラスで席替えをした。1つ前の席は、わたしとは違う中学校にいた西浜にしはま鯛春たいはるが座った。

 同じ日の昼休み、そいつが、落研を作ろうと奔走を続けているわたしに向かって話をしてきた。


「なあ赤貝あかがい、落語研究会どうなんだ?」

「まだまだ無理。まるで駄目金」


 これは「出目金」を捩った洒落のつもりだった。

 だがしかし、彼は吹き出さずに、紙パックのミックスジュースを「ジュジューッス」と鳴らして飲み込んでから、その口を開く。


「おれと賭け、しないか?」

「えっ、賭けごとって、ご法度でしょう」

「なにも金を賭けるんじゃないよ」


 この男子は、他の男子たちから「タイシュン」と呼ばれている。

 それまで「西浜くん」と呼んでいたけど、初めてそのニックネームを借用する。


「それじゃ、タイシュンくんの体を賭けるとか?」

「いや、売春行為もご法度だろ」

「冗談よ、ふふ」

「あのなあ、冗談は駄目金くらいでやめとけ」

「わざと、スルーしたんでしょ?」

「おう。て云うか、おれにジュースを吹き出させるには、まだまだ修行がたりない。重力が地球の1.14倍ある海王星で特訓してこい」


 噺家になるわたしとしては「てやんでえ、聞き捨てなんねえ! 表へ出ろい!」とでも返したかったけど、話が拗れるのがイヤなので堪える。


「で、どんな賭けよ?」

「おれが新人戦まで鬼練習に堪えきれたら、試合の応援にきてくれ」


 4月上旬にわたしが落研へ誘い、きっぱり断ったタイシュンくんは、バレーボール部員になっている。


「堪えきれなかったら?」

「もしバレー部やめたら、落語研究会を作るのに協力してやる」

「悪い賭けじゃないわね。よおし、乗った!」

「絶対、応援しにこさせてやる!」


 彼がやけに強気なので、わたしは、ちょいとマズったかもと思う。

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