ドラキュラ伯爵は静かに暮らしたい!

彩乃亜

第1話

気づいたら狭い箱の中にいた。

昨日は深夜を回った頃に帰宅して、服を脱ぐこともなく眠った気がする…

いや、ベッドまで辿り着けた記憶がない…

ここはどこなのだろうか?


明かりがないため、あまりわからないが、とりあえず体が箱に横たえられていて蓋がしてあることだけわかった。

狭い場所に横になっているせいか、何日も同じ姿勢でいたかのような身体の強張りもある気がする。

箱に閉じ込められているとなると、誘拐されたのだろうか?しかしこんなおじさんを誘拐なんぞするだろうか?

とりあえず、状況を把握するためにも箱から出てみる。


俺の横たわっていた箱は、小綺麗な棺だったようだ。部屋は暗かったが、人感センサーのライトがあったのか、立ち上がったと同時に灯がついた。


生きている人間を棺に横たえるなぞ、俺を誘拐した奴はとてつもなくヤバそうだ。

とりあえずここがどこなのかわからないことには行動もできない。誘拐犯がこの建物にいるのかもわからないが、そいつが戻ってくるまでに何かしらの手がかりを手に入れて逃げたいところだ。



部屋中を物色した結果、どうやら俺は誘拐されたのではなく、"転生"したらしいことがわかった。

部屋の片隅にあった、机の上の古びた日記は、どうやら以前のこの体の持ち主が書いたものだったようで、その日記によると、今から約500年前に眠りについたらしい。

そして目覚めてみたら俺が乗り移っていたと。

「まったくもってよくわからないが、腹が減ってはなんとやら。まずは食事をどうにかしよう…」

日記によると、この城は状態保存の魔法がかけてあるようで、確かに500年の年月を感じさせないくらい清潔感がある。

記憶を探ってみると、どうやら地下に食糧庫があるらしい。

このドラキュラ伯爵の城には、特に使用人などはおらず、眠りから覚めた時に必要に応じて城下の街から人が招集されるらしい。

若い頃のドラキュラ伯爵は血の気が盛んで、何かと城下の街へと降りて、たくさんの若い血を求めたらしい。


ここで少しドラキュラの生態について話しておくが、血液は1ヶ月に50〜100mlも摂取できれば活動できる。特に喉元に噛み付く必要もなく、コップ一杯の血液を飲めればそれで生きられる。

それもできれば人間がいいが、最悪獣の血液でも問題はない。

もちろん血液だけでなく普通の食事もきちんと摂らなければならない。

100年スパンで眠りにつき、一度眠ると次いつ起きるかはわからない。起きるたびに人格が変わるらしく、俺で4人目の人格らしい。

どうやら2人目の人格のせいで、ドラキュラ伯爵はかなり恐れられているらしいこともわかった。





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