間違いだらけ

「それで?何でこの年にタイムトラベルしてきたの?」

 「そんなのこの年が歴史的な年だからですよ!!」


 「歴史的な年?」


 「はい!だってこの時代は」

 佳代子さんはキレイな青い目を輝かせながら続ける


 「関ケ原で源頼朝が勝って、室町幕府を開いて」

 ん?

 「織田信長が本能寺で」

 うん、ここはあって・・・

 「森蘭丸に暗殺されて」

 はぁ!?


 俺は間抜け面で彼女の話を聞く

 「伊藤博文が韓国で襲撃されて、田中角栄内閣が郵政民営化解散して、平清盛が征夷大将軍に任命されて、法隆寺で柿を食べると鐘が鳴って、足利尊氏が太政大臣に任命されて鎌倉幕府が出来て、卑弥呼が奴国の王で、大久保利通が暗殺されて、豊臣秀吉が江戸幕府を開いて、北海道の五稜郭で西南戦争が起こって、坂本龍馬が暗殺されて、二・二六事件があって、五・一五事件があって・・・・」


 「ストッープ、色々間違ってる!っていうか幕府が3つあるし・・・あと暗殺多いな?!」

 俺はそう言うと佳代子さんに、1つ1つ丁寧に間違いを訂正した



 「なるほど、つまりこの年にそういったことは起きてないと・・・」

 「そう・・・何か悪いけど、この年に卑弥呼も信長もいないんだ・・・」

 

 「分かりました・・・」

 佳代子さんはしょぼくれた顔で答える



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 2人の間に気まずい空気が流れるのが分かる


 「・・・・・なぁ」

 「何ですしょう?」

 「何か気になるものとか無いの?この年で・・・」

 「この年で、ですか?」

 「そう」

 この年での風習とかだったら俺が教えれば良いし、食べ物だったら高くないものだったら買ってきて食べさせてあげられる・・・・・そう思って俺が聞くと


 「じゃあ、国会議事堂ですかね・・・・」

 「国会議事堂?」

 俺は予想外の答えに思わず聞き返す


 「はい、実は・・・・」

 そう言うと佳代子さんは腕につけている時計のようなものをいじる


 (ブォン・・・)

 小さな音が鳴ると、俺たちが見慣れた国会議事堂がカラーフォログラムで写し出される


 「私達の時代にはこの姿の国会議事堂は無くてビル型になってて、一度で良いからこの姿の国会議事堂を生で見たいなと思ってたんです・・・・・」


 「なるほど・・・・」

 俺はなんと答えれば良いか悩む


 「もしかして、国会議事堂もこの時代には・・・」

 佳代子さんが不安そうな顔をする

 「いや、国会議事堂はまだこの姿だ」

 「そうなんですか!?」

 佳代子さんの表情がパッと明るくなる


 「ただ・・・・」

 「ただ?」

 

 「ここから国会議事堂までかなりの距離がある、すまないが俺には国会議事堂まで行く財力を持ち合わせていない、だから・・・・」

 この時代のカップ麺でも食べて満足してくれ・・・と俺が言おうとしたら


 「それでしたら心配ご無用です!」

 「え?」

 佳代子さんは腕の機械をいじると

 

 「テレポ♪」

 その掛け声と同時に俺の回りの壁が、ボロボロの土壁から立派な壁に変わる


 「あのー・・・佳代子さん・・・ここは・・・?」

 俺は佳代子さんに声を震わせて尋ねる


 「あれー・・・国会議事堂の外にテレポしたはずなんですけど・・・」

 佳代子さんはダラダラと汗を流して答える

 「じゃあ、何で壁と天井があるの?」

 「えーと・・・」

 佳代子さんが答えようとしたその瞬間


 「おい!誰だ、お前達!!!」


 まずい!そう思った瞬間には俺と佳代子さんは走り出していた


 「座標間違えましたーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る