第37話 サキュバス相手にソロは不利

 玉座の間は豪華な作りであった。


 海外に在る王宮のような作りで、私がここにいるのも恐れ多く感じる。


 そして玉座の間の奥に祭壇が置かれているのを確認すると、私は深呼吸をして祭壇に向って歩き出す。




 祭壇の上にある石が紅く輝きだし、紅いダンジョンゲートが開く。


 そして中から現れたのは美しい女性であった。その女性は肌の露出が多く、女性らしいふくよかなバストとヒップが腰回りの細さを印象づける。


 女性型モンスターは背中の翼を広げると、歌うような声で私に話しかけてくる。




「20層へようこそ。私の可愛いペット達で楽しめましたか?」




 突然話し掛けてきた女性型モンスターに、私達は戸惑う。




「喋った……」


「喋ったな」




 マッドエクスキューショナーも喋ったが、この女性型モンスターは日本語ペラペラだ。このモンスターと少しお話をしてみようか?




「スケルトンなどのアンデット達がペットなの?」


「ええ、あの白く太い大腿骨って素敵じゃない?」




 いえ……全く……。


 私はそんな趣味は無いし、世の中の大多数は大腿骨が好きだなんて趣味は持っていない。……だよね?




「頭蓋骨を並べると個性があって楽しいのよ。貴女も私のペットにならない?」


「丁重にお断りします」


「あら残念」




 まるで人と話しているみたいにモンスターと会話が出来る。


 上手くすればダンジョンのモンスターと、友好関係を築き上げられるのでは? そんな事を考えていると、ルル様が私に注意を促す。




「気をつけるのだ、ほのりん。奴はサキュバス。巧みな話術で相手を貶める。特にスキル【魅了】は異性の相手に特に効くが、同性でも効かない訳ではない。気をつけて戦うのだ」




 ルル様の言葉に身構える。ここは20層のボスの部屋だ。


 モンスターはサキュバス1体なので、サクッと倒してしまおう。




「フフフ。まずはこれをプレゼントするわ」




 サキュバスの手の平からバスケットボールくらいの大きさの炎の塊が現れると、その炎の塊が私に向って飛んできた。


 先手を取るつもりが、先にやられてしまったけど大丈夫。


 私はまじかる☆シールドを展開し、炎の塊を弾き返すと右手を突きだす。




「まじかる☆グリッターネイル!」




 サキュバスの目の前で激しい閃光が迸ると、すかさずオタマトーンを向ける。




「お色気モンスターに、きらきらミラクル☆まじかる☆スターライト!」


「キャアアア!」




 サキュバスは私が放った魔法と同時に翼を羽ばたかせ、まじかる☆スターライトを既のところで回避し、広い玉座の間を蛇行しながら逃げ回る。




 くっそ〜!? 避けられちゃた。確実に殺れたと思ったのにな〜、翼があることを失念してたよ。目眩ましはここぞと云うタイミングで使わないと、逆に手間が増えるかも。




 やがて目眩ましの効果が消えたのか飛び回ることを止め、上から私の事を見下ろすサキュバス。


 空を飛んでいる相手では私の方が不利だ。




 どうやってサキュバスを倒そうか思考を巡らせていると、サキュバスが私に投げキッスをしてきた。


 同性同士でモンスター相手に投げキッスされても…………ん? 




『魅了状態になりました』




 何かがおかしい……一瞬目眩がした途端、頭がほわほわする。サキュバスに何かされた? ん? サキュバス? サキュバス……。


 なんだろう……サキュバスしか考えられない。




 サキュバスって凄い綺麗でスタイルが良いな〜、あんなメリハリがある身体がとても羨ましい……そして、あの唇。ふっくらとしてて水々しくて、あれに触れたい……。あゝサキュバスってとても可愛い……ギュッとしたい!




「おい、ほのりん! 気を確かに持て! 魅了にかかっているぞ!」




 ルル様が必死にほのりんの頬を叩くが、柔らかい肉球がプニュプニュするだけで、魅了を解くことは不可能だった。




 サキュバスが、ほのりんの前に降り立つと優しく抱擁する。




「ウフフ。大丈夫よ力を抜いて」




 サキュバスの唇が、ほのりんの唇を奪おうとした瞬間、白い影が猛スピードでほのりんとサキュバスの間に挟まる。




「おのれ! この淫乱モンスターめ! この娘はまだ生娘なのだぞ! 同性とはいえ、やってはならん!」




 ……生娘? 何でルル様がその事を? 私は生まれてからこの方、一度も殿方とお付き合いもした事がありませんけども何か? 幼稚園の時に、男の子と手を繋いだくらいしか無いですが何か? 小学校から大学まで女子校でしたので、勿論そういった経験もありません。23にもなって彼氏もいないし、男友達もいない私が生娘なのは当然でしょう?




『魅了状態が解除されました』




『加速』『剛力』




 私は目の前のサキュバスの腹部に無言で高速ボディーブローを打ち込むと、サキュバスは一瞬で光の粒子になって消えてしまい、残されたのはスキルクリスタルのみだった。




『サキュバスの魔石を取得し、スキルポイントを10ポイント取得しました』




『魔法少女専用クエスト【20層をクリアする】を達成しました。クラス、魔法少女が〈☆☆☆→☆☆☆☆〉になり、各ステータスが上昇しました』




 レベル なし


 称号 徘徊する者を狩る者


 クラス 魔法少女〈☆☆☆→☆☆☆☆〉


 ひっとぽいんと ☆☆→☆☆☆


 まじかるぽいんと ★★★☆☆→★★★★☆


 ぱわー ☆☆☆→☆☆☆☆


 たいりょく ☆☆→☆☆☆


 まじかる ★★★☆☆→★★★★☆


 はやさ ☆☆☆→☆☆☆☆


 うん ☆☆☆→☆☆☆☆




 魔法少女のランクが上がり、各ステータスの☆がひとつずつ増えている。


 実感は無いけど、また強くなってしまった。






 ステータスウィンドウを閉じ、そして私はルル様に振り返り、怒気を強める。




「ルル様、随分と私に詳しいようですね」


「……そ、それは…我はほのりんの相棒だからな!」


「私のプライベートな事は、今後口にしないように」


「むむむ……分かった」


「分かりました?」


「わ、分かりました!」


「よろしい」




 ルル様を叱った後、私はサキュバスが落したスキルクリスタルを拾い、祭壇の前のダンジョンゲート付近に現れた宝箱を開けた。




「お、クラスチェンジオーブが1個入ってる」




 クラスチェンジオーブは出現率がとても低いと言われているけど、ボスの宝箱以外でも何度も出ている。私にとっては使い道が無いので売る以外用途がない。欲しい人が世の中には沢山いるので、クラスチェンジオーブは直ぐに売れるだろう。




「よし、今まで集めたアイテムを鑑定してやろう。我の前に出すのだ」




 私は20層で得たアイテムを全て取り出した。


 今回の目玉はエクスキューショナーから得たスキルクリスタルとサキュバスから得たスキルクリスタルとボスクリア報酬のクラスチェンジオーブだろう。道中で手に入れたアイテムも、ルル様に一気に鑑定してもらおう。




「まず、アンデット達から回収したアイテムを順に鑑定していこう。まずは素材関連だな」




 恨みの魂魄 ×5


 黒い骨 ×8


 エクトプラズム ×1


 アンデットの灰 ×18


 金の歯 ×3


 ナイトアイの目玉 ×4


 シャドウの爪 ×2


 ストーカーの舌 ×2


 ゾンビドッグの牙 ×6


 ゾンビゴブリンの胆嚢 ×3


 叫ぶ者の声帯 ×1


 魔鉄 ×6


 ミスリル ×1






「ルル様、この素材って何に使うの?」


「これらの素材は主に錬金術や鍛冶で使う物だな。外界の人間達は、それをさらに発展させた物を作っているようだ」




 なるほど、世界中の国や企業がこぞって集めているのが、ダンジョンの素材なんだ。


 私の両親やおじいちゃんもダンジョン産の素材を使って何かを作っているらしいが、詳しい事は分からない。


 それらの素材から生れた物は、日本の発展にも繋がっているのは現代の常識だ。




「武器と防具は拾ってないよ」


「そうだな魔法少女は専用装備しか効果が出ないから拾う必要はない」




 度々武具関係はドロップするが扱えなかった。


 私がナイフや剣を使うとウィンドウがポップアップし、ステータスにデバフがかかるのだ。


 仕方ないので拾わず捨てている。例外として、オークから手に入れた深緑色のローブは羽織る程度なら大丈夫だった。




「それじゃあスキルクリスタルとクラスチェンジオーブの鑑定をお願い」


「どれどれ、まずはエクスキューショナーのスキルクリスタルだ。……このスキルは【恐怖耐性】だ。効果はその名の通りで恐怖に対して耐性がつく」




 あ、これ使いたい。モンスターと戦う時って怖くて怖くて仕方がないのよね。


 マッドエクスキューショナーに掴まれた時、怖くて身体が強張ってしまった。あの恐怖を思い出すと背筋が寒くなる。




「サキュバスのスキルクリスタルは【浮遊】だ。サキュバスには魅了などの強力なスキルがいくつかあるが、浮遊はハズレだな」


「そうなの?」


「浮遊のスキルは浮遊するモンスター倒せば稀に手に入るからな」


「スキルクリスタルって落とすモンスターによって違うの?」


「スキルクリスタルのスキルは倒したモンスターの特技が結晶化し、スキルクリスタルに変化するのだ」


「へ〜、知らなかったよ。そういえば私、最初に光合成ってスキル覚えたんだけど、あの効果って何なの? 効果が分からないのよね」


「光合成のスキルは光を浴びている間は、空腹軽減の効果がある」


「……」




 何となく納得したよ。何時間もダンジョンに潜っていても、夕食まで小腹が空いた程度だったもん……。なので、ダンジョンにアタックする時は携帯バランス栄養食と水しか持ってきていない。




「しかし、スキルクリスタルは様々な力を得られる反面、リスクがある」


「どういう事?」


「必ずしも便利なスキルだけでは無いという事だ。たとえば、ゾンビやスケルトンが持っている【アンデット化】だ。名前の通り、アンデット化するスキル…と言うより特性だな。スキルクリスタルは使用するまで効果が分からない。鑑定もせずに使うと悲惨な目にあう」




 う……それは嫌だ。




 私が何も考えずにスキルクリスタルを使用してアンデット化したら、アンデット魔法少女ほのりんに成っていたかも知れない……。


 しかも普通のスキルは変身解除後も効果が持続する。


 アンデット穂華とか社会復帰不可能じゃん……私のロハスな生活が永遠に失われるところだった……。




「我がいるからそんな事は起きないが、気をつけるのだ」


「はーい」


「それでは最後にクラスチェンジオーブだな……ふむふむ。これは【聖騎士】のクラスだな。攻守のバランスが良く、回復魔法も覚えられる強力なクラスだ」


「お〜、って私には意味ないけどね」


「売っても良いし、知り合いに上げても良いし好きにするが良い」




 ダンジョンで活動する知り合いがひとりもいない。


 私は孤独だけど、別にいいもん! 私魔法少女だし…………。




「最後に魔法少女専用スキル覚えて帰ろうかな」




 私はまじかる☆スキルブックを呼び出し、【魔法少女は諦めない】を選択する。




『スキルポイントを150ポイントを消費し、【魔法少女は諦めない】を取得しました。まじかる☆ドレスの耐久値が50%を下回ると全ステータス大幅に上昇します』




 これは保険になるスキルだね。なるべく50%を下回る戦いは避けたいが、強力なモンスター相手には効果があるだろう。




 さて、今日は疲れたので早めに切り上げる事にしますか。






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