第20話 使者とレイドボスと私
『スキルポイントを100ポイント消費し、まじかる☆スキル【まじかる☆ボックス〈☆〉】を取得しました』
『任意で【まじかる☆ボックス】を利用できます。【まじかる☆ボックス】は生物以外なら収納できます。出し入れは自由なので上手に使いましょう』
「おお〜! これは凄いやつきた!」
自由に物を入れられるなら、あの蜘蛛の糸も持って帰れるかもしれない。
早速まじかる☆ボックスを使用するとウインドウが表示される。
『ウインドウの中に投入して下さい。入れた物はウインドウに一覧として表示されます』
早速蜘蛛の糸をウインドウの中に入れてみる、と、ウインドウに『蜘蛛の糸 × 1』と表示された。
アイテム管理も持ち運びも激的に楽になるのは間違い無しだが、魔法少女的にアイテムを自由に出し入れできるのはかなり強いだろう。
アニメや漫画ならボスか中ボスが使いそうな特技だ。
「私が中ボスなら主人公は誰かな?」
私は主人公の魔法少女も好きだが、敵役も好きだ。その中にも憎めないキャラもいるし格好いいのもいる。
稀に悪役の魔法少女が出てくると、とても可愛い娘なのだ。あれはズルい。
見た目も可愛いし何より強い。最初から本気でやれば主人公達を倒せたんじゃないかとツッコミを何度も入れた記憶がある。
閑話休題。
「最後のスキルクリスタルと魔法少女の相棒を取得しちゃおう」
『スキルクリスタルを使用し【跳躍】を取得しました』
「……跳躍? スキルの説明がない…」
魔法少女〜、まじかる〜の名前が付いたスキルは取得するとヘルプウインドウが開きスキルについて簡単な説明がついてくるが、光合成や毒耐性、跳躍はスキルの説明が無い。まじかる☆スキルと通常のスキルとは違うのだろうか? 謎である。
「気を取り直して大本命いきますか! スキルポイント100ポイント使います! ぽちっ」
『スキルポイント100ポイントを消費し、まじかる☆スキル【魔法少女の相棒】を取得しました』
『ダンジョンデータベースから構築中……』
『……』
何か様子がおかしい。
普通ならすぐにでもヘルプウインドウが出て説明が出てくるのだが……。
『……使者が召喚されます』
「使者? 悪い予感しかしない……」
地面に突如として幾何学模様の魔法陣が現れ、地鳴りがダンジョン内に響くとパラパラと天井から砂埃が落ちてくる。
魔法陣の光が強くなり視界が白く染まる。
「…………」
ゆっくりと目を開けると目の前に謎の生物が浮いている。モンスターだろうか? それとも……。
「始めまして」
やたら渋く太い声の謎の生物は、見た目が白猫とオコジョを足して2で割ったような見た目をしており、頭の上には天使の輪が浮かんでいて、背中にはコウモリの小さい羽が生えている。この謎生物が魔法少女の相棒で、詰まる所の使者だろうか。
「え〜と、使者様?」
「我の名はルルだ」
「ルルよろしくね」
「ルル様と呼ぶがいい」
「様!? ……ルル様私の相棒なの?」
「そうだ。ほのりんを最高の魔法少女にする為にやって来た」
「お〜、魔法少女の定番マスコットっぽい」
「……」
謎生物で喋り方に少し癖があるが、何だか可愛く思えてくる。
ルル様はどんな力があるのだろうか? 折角なので色々聴いてみたい。
「ねぇねぇルル様?」
「何だ?」
「ルル様は私を最高の魔法少女にしてくれるって言ったけど具体的に何をしてくれるの?」
ルルはくるっと空中で一回転すると機嫌良く喋りだす。
「良くぞ聞いてくれた! 我は、ほのりんのサポートに徹する為に来たのだ!」
「……サポートに徹するだけ? 一緒に戦ったり、合体したり、武器になったりしないの?」
「しないな。我は自慢ではないが弱い。スライムにすら勝てん」
「…………」
私を最高の魔法少女にすると言いつつ戦いには参加しないようだ。
「サポートって?」
「ほのりんが知らない事を教えたり、困った時のお助けすをする」
なるほど、ヘルプウィンドウの強化版だと思えば良いかもしれない。戦闘はできないがサポートに徹するなら役に立ってくれるだろう。
「じゃあ、ここの女郎蜘蛛の巣について知っている事を教えて欲しいの」
「ここは渋谷レイド、女郎蜘蛛の巣だ」
「渋谷レイド? 渋谷ダンジョンじゃなの?」
「渋谷レイドとは、渋谷ダンジョンの大人数参加型のダンジョンだな。この渋谷レイドは大量のモンスターとそれを率いるボスを倒すクエストだ」
「え! 私1人で来ちゃったよ……どうしよう……」
「心配しなくていい。ほのりんの実力ならこの程度のレイドは余裕だ。スキルポイントもアイテムも独り占めするだぞ? そして1番大事な豪華なクリア報酬も穂華にとって必要な物だ」
渋谷レイドの事を聞いて、1人ではボスを倒すのが難しそうと考えていたが豪華なクリア報酬と聞いた瞬間やる気が出てきた。
「ねぇねぇ、ルル様。豪華なクリア報酬の中身を教えて!」
「それはナイショだ。クリアしてからのお楽しみだな」
それはそうか、クリア報酬を知ってしまっては面白味が欠ける。
強敵を倒して報酬を得て達成感を得る。これがダンジョンでの最高の娯楽とも言えるのだ。
「ほのりん、先に進むぞ! ボスを倒して報酬を手に入れるのだ!」
「よーし! ルル様、サクッとやっつけちゃおう〜♪」
私と1匹? が薄暗いダンジョンの中を進む。
道中、ビックスパイダーやレッドスパイダー、ポイズンアラクネーが出てきたが魔法で処理して奥へ進む。
次第にダンジョンの雰囲気も変わり、蜘蛛の糸が辺りに張り巡らされた空間へと出る。
そしてその空間の奥に、長い足を広げこちらをジッと見ている蜘蛛が見えた。
その巨体もさることながら注目するのは派手な模様だろう。
外で見かける小さな女郎蜘蛛の数百倍の大きさのはあるだろうか? 私が小さな虫になった気分だ。
とても強そう……でもデスボールほどの絶望感は感じない。、
絶対絶命に陥ったあの時は死にたくない一心で戦ったが、今目の前にいる女郎蜘蛛に対して少し余裕を感じるている自分がいる。
「女郎蜘蛛は牙に毒があるぞ。気をつけるのだ!」
「ありがとう分かったよ!」
私が女郎蜘蛛のテリトリーに足を踏み入れるとビックスパイダーを始め、大量の蜘蛛たちが蜘蛛の巣から糸を伝いこちらに向かって襲いかかって来る。
「ちょ…数多すぎだよ!」
「蜘蛛の糸に注意しろ!」
ルル様の警告した蜘蛛の糸は辺りに張り巡らされており、これに触れたりしたら動きを封じられてしまうだろう。
蜘蛛モンスターも糸の種類によって構造は違うかもしれないが、用途に応じて蜘蛛は糸を使い分けていると思われる。大まかに巣を作る為に強度が高い糸や、獲物の振動を感じる受信糸と獲物を捕獲する為の糸だ。
特に注意しないといけないのは獲物を捉える粘着球と呼ばれる物質が付いた糸である。
この糸は名前の通り、粘着性の球体が均等に糸に付着しており、これによって獲物を捕らえたり糸を固定しているのだ。
私は魔法の使用回数を最小限に抑える為に、先程通った通路に戻ると、正面から迫る蜘蛛達に対して、まじかる☆スターライトを放つ。
「まとめて駆除しちゃうよ! まじかる☆スターラーーイト!」
細い通路に犇めく蜘蛛達はまとめて星になり消えていく。必要最小限の動きで最大の効果を発揮し、迫り来る蜘蛛達を倒していくと、ルル様の応援に熱気が帯びてくる。
「フハハハ! ほのりん、すごいぞ! 天才だな! この調子でモンスターを根絶やしにするのだ!」
「フッフッフッ……私にかかればこんなもんよ!」
「……! 危ない!」
正面ばかりに気を取られ、背後から忍び寄る蜘蛛モンスターに対応が遅れる。
「きゃ!」
球体の蜘蛛に飛びつかれ魔法が中断されると、通路から続々と蜘蛛が押し寄せ、私に糸を巻き付けると簀巻きにしていく。
「わわわっ、ちょ…嫌っ! 離してよ!」
「キシャー!」
「こらっ! ほのりんを離せ!」
ルル様の攻撃も虚しく、身体を糸でぐるぐる巻にされボスの女郎蜘蛛がいる場所へと吊るされると、女郎蜘蛛の複数の目が私の事を見ていることに気がついた。
女郎蜘蛛のその目は獲物を得た事による歓喜の色をしていた。
「キチキチキチキチ」
女郎蜘蛛の口から鋭い歯が見えてる。
あの牙から麻痺毒を流し体液を啜るの? 蜘蛛の糸が頑丈で、う、動けない……こうなったら、一か八か…!
「まじかる☆スターライト!」
『条件が不足、威力が50%減少しました』
蜘蛛の糸で身動きが取れない状態でも魔法は使えた。威力が半減でもその効果は十分で、身体に巻き付いた蜘蛛の糸は崩れるように星の粒子にななった。
「ほのりん!!」
拘束が解かれたのは良かったが足場は無く、そのまま落下していく。
「わぁーー! 落ちるーー!」
落下中に私の視界に蜘蛛の足が迫ってくるのが見えた。女郎蜘蛛が落下する私を捕らえに来たのだ。
私は必死にその攻撃を空中で身体を捻ると、鋭い足先の爪を回避すると同時に、女郎蜘蛛の足に手を伸ばす。
「こんのー!」
無我夢中で足に掴まり落下せずに済んだが、オタマトーンを落してしまった。
「……あっば…れるっなー!」
「ギギギギギギィィ!」
暴れる女郎蜘蛛に対して振り落とされまいと必死にしがみつくが、これでは倒せいない。
どうしようかと悩んでいると、ルル様の声が聞こえてくる。
「ほのりんー! 女郎蜘蛛の弱点は眉間だ! ここに魔法を撃ち込むのだ!」
「そんなこと言われてもー!」
「まじかる☆ウエポンは呼べば戻ってくるぞ!」
「戻ってきても持てなーーーい!」
そんなことを言われても無理だよ! 暴れる女郎蜘蛛に必死にしがみついているのに、この状況で女郎蜘蛛の眉間に魔法を放つのは至難の技ってやつよ!
地面には大量のビックスパイダーを始め、様々な蜘蛛モンスターが蠢いている。あの中に落ちるのは御免被りたい。
「……ならあのスキルを使ってみるしかない!」
私はタイミングを見計らい、足に力を入れる。
「今だ!!」
『跳躍が発動しました』
「ひぃ!?」
「ギィギィ!?」
タイミングを見計らい、女郎蜘蛛の足を踏み台にしてスキル【跳躍】を使用した瞬間、信じられないくらい飛んだ。
オリンピック選手も真っ青の飛距離を助走無しに飛び、女郎蜘蛛の眉間に運良く取り付く事に成功した。
「ほのりん! まじかる☆ウエポンを呼ぶのだ!!」
「オタマトーン!」
手を掲げオタマトーンを呼ぶと光りの粒子が集まり落してしまったオタマトーンが手に収まる。
「益虫だけど人を襲う蜘蛛は害虫なので駆除します! まじかる☆スターライト!」
『まじかる☆スターライト が発動』
「ギッ…ギィギギギギッ!」
零距離から放たれた魔法は女郎蜘蛛の弱点である眉間を貫くと、女郎蜘蛛は苦しみだし暴れだす。
そして暴れだした女郎蜘蛛に驚き、足元にいた蜘蛛たちは正に蜘蛛の子を散らす様に逃げ出す。
まだ倒せない? 身体が大きいから?
確かにルル様に言われた場所に魔法を放ったけど、女郎蜘蛛は暴れるだけで光りの粒子になって消えない。
「あっ!」
女郎蜘蛛から振り落とされ落下しそうになるが、蜘蛛の巣から垂れている糸を掴み落下を免れた。
運が悪ければそのまま地面に叩きつけられていたかもしれない。
「この距離なら!! 届け煌めく流星、まじかる☆スターラーーーイト!」
一直線に星とハートが虹色の粒子を放ちながら飛んでいき女郎蜘蛛の大きい胴体に命中すると、黄色と黒の派手な模様の体が一瞬にして細かい星に変化して大爆発を起こす。
うわ〜綺麗だな〜まるで宇宙空間にいるみたい。
女郎蜘蛛が居た空間が満天の星空のように輝く。それは地球上何処に居ても見れない景色に溜息が溢れる。
「らぶり〜ど〜る、まじかる☆が〜る♡ほのりん☆ミが悪い子をやっつけたぞ♡」
ぐっ…また勝手に身体が…。
「やったなほのりん。我のサポートが早速役にたったな」
「うん! ありがとう」
凄い。私、あんな大きいボスを倒せたんだ……。
ピコン。
『レイドボス 女郎蜘蛛 を撃破しました』
『世界で初めてレイドダンジョンをクリアしました』
『世界で初めてソロでレイドダンジョンをクリアしました』
『メジャーアップデート後、チュートリアルをクリアすると特典が配布されます』
『条件を達成し、魔法少女のランクが〈☆☆→☆☆☆〉になり、各ステータスが上昇しました』
ひっとぽいんと ☆☆
まじかるぽいんと ★★★☆☆
ぱわー ☆☆☆
たいりょく ☆☆
まじかる ★★☆☆☆
はやさ ☆☆
うん ☆☆☆☆
『スキルポイントを消費し、EXスキルと魔法の強化が可能になりました』
『まじかる☆アタッチメント【精霊のポンチョ】を取得しました』
『女郎蜘蛛の魔石を取得。スキルポイントが、1000ポイント付与され、スキルポイントの合計は、1095ポイントになりました』
目の前にウィンドウが大量に表示され目を通すだけで凄い時間がかかる……。なんか魔法少女のランクが上がってステータスが上昇したみたいだね。体感は……無い。
他にもスキルや魔法の強化が可能になったようだ。これ以上強くなって私は何を目指しているのだろうか?
他にも新しいまじかる☆アタッチメントも手に入ったしルル様に詳しく聞いてみようかな?
「ねえルル様?」
「穂華よ。悠長に話している時間は無いぞ?」
「え?」
「レイドボスである女郎蜘蛛は倒された。時期にダンジョンは閉ざされ、渋谷ダンジョンセンター前に強制的に飛ばされる」
それはマズイ。魔法少女の格好で人前に出たら恥ずかしくて精神的も社会的にも死んじゃう。
「そこの宝箱の中身を回収し、変身を解いて地上に戻る事をお勧めする」
ルル様が指? を差した場所に宝箱があった。
取り敢えず中身を見ると、スキルクリスタルが3個とクラスチェンジオーブが3個、更に用途不明の瓶に入った薬が数本出て来たので、まじかる☆ボックスに投げ入れ、ダンジョンゲートに走って戻る。
「ルル様は地上に出たら大丈夫?」
「我は魔法少女を解除すると実体化できない。今日はここまでだな。なに、実体化できなくてもやる事は沢山あるから、我の事は気にしなくてもよい。家に帰ってゆっくり休むのだ」
「わかった。ありがとうルル様。また来るね」
私はルル様に別れの挨拶を済ますと、魔法少女から変身を解き、ダンジョンゲートを通り抜けた。
『ワールドクエストの条件が達成されました。メジャーアップデートが開始されます』
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