第17話 モンスターがスキルポイントに見える

 必死に走って彼らから距離をとった。


 うさ耳カチューシャから聴こえる音から後をついて来る様子はない。


 もしついて来てたら痴漢って叫びながら他のパーティーに向かった……いや、それはないか。




 今いる場所は分からないが、うさ耳カチューシャはダンジョンゲートを2箇所聞き分け、モンスターのグループも聞き分けている。


 そして、1層のボス部屋特有の音も聴こえるので、モンスターを倒しつつボス部屋に向かうのがベストだろう。




 音を頼りにモンスター達を探し歩き、遭遇したモンスターを倒していく。2層のモンスターはガイドブックに乗っているとおり2体で固まっていることが多く、たまに3体いたりするので注意が必要だった。


 遭遇したモンスターに、まじかる☆スターライトを何度もテストしたが、威力が高過ぎるのか掠った程度でもモンスターは光の粒子になってしまう。


 41層のモンスター達もそうだったが直撃さえしてしまえば、どんな凶悪なモンスターでも倒せてしまうかもしれない。強いモンスター相手にも要検証である。






『スライムの魔石を2個取得し、スキルポイントが、2ポイント付与されました』









『ゴブリンの魔石を3個取得し、スキルポイントが、3ポイント付与されました』




 最初の頃に比べるとモンスターを倒すのも抵抗が無くなった。今はモンスターがスキルポイントに見える。




「はぁ、スキルポイントが全然貯まらないのは仕方がないとして、アイテムドロップが渋すぎる……」




 手に入れたアイテムはビックスパイダーから手に入れた蜘蛛の糸の塊がひとつだ。


 このアイテムがどんな効果があるか分からないし、価値も分からないので、捨てるのはとても勿体ない。




「咲さんにリュックサック借りてくれば良かったかな……」




 魔法少女の事で頭が一杯だった私は、ダンジョンで必要な物を一切持ってきていない。


 ダンジョンガイドブックにもしっかり載っているが、ダンジョンに向かうときに必要な物は武器と防具と食料だ。


 初心者用の武器は木刀か木製のバットが売られている。


 防具は非常に高価だが絶対に購入した方が良いとされており、初心者ハンターにありがちな私服でダンジョンに入る行為は自殺に等しい。


 そして最後に食料だ。これはダンジョンに入って1日目で痛感し、マジドナルドの肉厚バーガーが泣くほど美味しく感じたのつい昨日の話だ。


 何も準備をせずにダンジョンに行くのは、普段着で何も持たずにエベレストへ登山するくらい無謀な行為だ。その無謀な行為をしたのは私自身なので、要反省だ。






 ボス部屋らしき広い空間に出ると、やはり1層のように神殿のような作りに祭壇があり、その上には黒い石がある。


 あの石から紅い光が出ると紅いダンジョンゲートが開きボスが出現する。


 ダンジョンガイドブックによると、レッドスパイダー1体とビックスパイダーの2体が現れるらしい。




「よし、いくぞ!」




 祭壇に近づくと黒い石が紅く光り、紅いダンジョンゲートが開く。




「先手必勝!」




「きらきらみらくるー! まじかる☆スターライト!」




『まじかる☆スターライト 発動』




 紅いダンジョンゲートから出て来たレッドスパイダーは避ける暇もなく、まじかる☆スターライトの直撃を受け星になり、次に出て来たビックスパイダーも出落ちする形で次々と星になって消えていった。




「我ながら酷いと思う」




『レッドスパイダー、ビックスパイダーの魔石をを取得し、スキルポイントが12ポイント付与されました』




 蜘蛛の中にはジャンプ力が高い蜘蛛が存在する。有名なのがハエトリグモだろうか。


 ハエトリグモは自身の体重の6倍の距離をジャンプする事ができるのだ。




 もし蜘蛛のモンスターが開幕から私に向かって飛びがかかって来たら、怪我をしていた可能性があった。モンスターの特性も知らずに、戦いを挑むのはとても危険だ。




 祭壇の前に黒いダンジョンゲートと宝箱が出現し、ウィンドウがポップする。




『渋谷ダンジョン3層へのアクセスが可能になりました』




 これでいつでも3層に行けるだろう。


 私はウィンドウから宝箱に視線を移す。


 ボスを倒すと宝箱が必ず出てくるのは確定だったら、何度もボスに挑むのが美味しいかもしれない。




 高まる気持ちを抑え、宝箱をゆっくりと開ける。




「ん? 鍵?」




 謎の鍵が出て来た。


 長さ30cm程度の長い鍵で細かい細工がされており、素材は真鍮製だろうか? とても綺麗な鍵だった。




「高く売れそうだけど、何の鍵なのかな? ダンジョンで使う物だと思うんだけど……」




 謎の鍵はゲームではよくある設定では鍵の掛かった部屋に入る為の鍵だったり、高価なアイテムが入った宝箱を開ける鍵だったり様々な物に使えるが、はっきり言って何に使うか分からない。しかも大きいので邪魔だ。




「帰りますか」




 私はダンジョンゲートに向かいゲートに触れる。






 どこに転移しますか?




 ダンジョンセンター前


 渋谷ダンジョン 1層


 渋谷ダンジョン 2層〈現在地〉


 渋谷ダンジョン 3層


 渋谷ダンジョン 41層


 女郎蜘蛛の巣 






 ウィンドウに見慣れない文字を見つけた。


 女郎蜘蛛の巣とはなんだろうか? これもダンジョンだと思うが突然何の前触れもなく表示されたので困惑する。




 3層が行けるようになったのは良いけど、女郎蜘蛛の巣の発生条件って何だったんだろう。


 ふと左手に持った蜘蛛の糸と謎の鍵を見る。もしかしたら謎の鍵はダンジョンゲートで使う為の鍵なのかもしれない。


 もし、本当にこの鍵が女郎蜘蛛の巣に入る為の鍵ならば高く売れるかもしれないが、1人で入れば中のモンスターを独占できるかもしれない。


 そうすれば他のパーティーと会うこともないし、モンスターの取り合いも無くなるので、スキルポイント稼ぎには丁度良いかもしれない。




 私は変身を解くと渋谷ダンジョンセンター前を選択し、渋谷ダンジョン2層から離脱した。




 ▽




 時間帯としては17時過ぎだろうか、思ったよりダンジョンの中に入っていたようた。


 早くアイテムを売って帰らないと咲さんに怒られちゃうかもしれない。




 これからダンジョンアタックを始める人が多いせいか、アイテム換金所は比較的空いていた。


 私は空いている受付に蜘蛛の糸と鍵を出し、買取査定を出して貰う事にした。




「この2点で宜しいでしょうか?」


「お願いします」


「少々お待ち下さい」




 受付の人がPCをカタカタ打ち何かを調べているようだ。




「こちらの蜘蛛の糸は25,000円、こちらの鍵はデータが無いので鑑定に2週間ほどかかりますが、私共でお預かりしても宜しいでしょうか?」




 蜘蛛の糸は25,000円……ゴクリ。それよりも鍵だ。恐らく…いや確実に別のダンジョンへ行く為の鍵で間違いないだろう。


 あの鍵のデータが無いのは意外だったが、鑑定に2週間もかかるのは少し困る。


 効果が予想出来る以上、ダンジョンセンターに預けてもメリットは無いので断る事にする。




「蜘蛛の糸だけ買取お願いします」


「よ、宜しいのですか? 新規アイテムは報奨金が出るのですが……」




 へ〜、お金貰えんるんだ……昨日の私なら売っていたかも……。




「はい、蜘蛛の糸だけでお願いします」


「手数料を差し引いた買取価格がこちらになります。現金か振り込みができます、いかが致しますか?」




 タブレットに買取価格が表示された額は、22,727円だった。




「現金でお願いします」




 時給約3,800円、ダンジョンで命を賭けるには安いだろう。


 私は蜘蛛の糸を売ったお金を受け取ると渋谷駅に向かい、電車に乗って帰る事にした。




 ▽




「ただいま〜」


「おかえり、夕食まだ作ってないから空いてる席に座ってて」


「はーい」




 喫茶しぐれには数名のお客さんが珈琲を楽しんでいた。


 店内の漂う珈琲の香りを嗅ぎながら店内に備え付けられたテレビから流れるニュース番組に視線を移す。




《昨日アメリカの Los Angeles グリフィスダンジョンで、最大深層58層に到達したことを現地メディアが発表しました。その偉業を達成したのが、ダンジョンランキングでも1位に君臨するエバンス氏が率いるパーティーです。彼はアメリカの特殊部隊出身で、退役後は自身で私設部隊を設立、ダンジョンが世界中に出現してからは常に第一線で活躍している人です》




 Mike R Evans 彼を知らない人はいないだろう。


 私も詳しくは知らないが、彼の名前だけは知っているので、それだけ有名人なのだ。


 ダンジョンで出てくる未知のアイテムの3割は彼らのパーティーが発見したとまで言われているし、Top15には彼の仲間が2人も入っているので実質世界最強パーティーだ。


 そんな彼を追うのが中国やロシアにイギリスの有名ハンター達だ。


 彼らも国や企業から支援を受け、自分の国にあるダンジョンを攻略している。


 日本もそうだが深層に到達することを競っている印象を受けるのだが、ダンジョンの最下層には何があるのだろうか? 非常に気になるが……。




「穂華、今日はこれを食べて」




 咲きさんがテーブルに置いたのはデミグラスカレーだ。カニクリームコロッケが2つ乗っており私が好きなメニューの1つだった。




「わぁ〜久しぶりに食べるね」


「ごめんね店のメニューで。今日はちょっと忙しくて作れなかったのよ」


「私は気にしませんから大丈夫です」


「それ食べたら悪いんだけど、まひると一緒にお風呂入ってくれない?」


「いいですよ〜」


「いや〜助かる〜」




 居候中の私は率先して手伝う義務があるだろう。……本当はまひるちゃんとお話しをしたいのが本音だが。




 その夜は浴室から楽しそうな笑い声が響き、1日が終わった。




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