第12話 生きてるって素敵
「お腹空いた……」
城神高校の学生を見送った後、私はダンジョンの探索を開始した。
病院で飲んだラテ3杯の効果も薄く、空腹の為に胃が痛い。
そんな空腹を我慢し、お腹を擦りながらダンジョン1階層を歩き回るには理由がある。
まず、お金に変わるアイテムを少しでも見つける為に、モンスターや宝箱を見つける必要がある。
講習で習った内容には、モンスターは稀に魔石以外にアイテムをドロップをすることがあり、それは高価なアイテムだったり怪我を治す薬だったり、さらには食料品までドロップすることもあるそうだ。
モンスターから換金出来るアイテムや、食料品さえ手に入れば、ダンジョンでの探索を進められるのだ。
最悪、ゲート前で倒れて病院で点滴を打つハメになるな〜……また迷惑かけるのもアレだけど。
緊急時にはダンジョンゲートでお医者さんのお世話になるしかないが、次は本気で怒られそう。
医療費の未払いもあるので確実に親に連絡が行き、実家に連れ戻される可能性があるのでそれは避けたい。
ダンジョンを彷徨き、うさ耳カチューシャに集中すると、この先にある突き当りの部屋に何かがあるのが分かる。音は騒々しく全容が掴めない。
人でもないしモンスターでもない? なんだろうこれ……?
音の原因がする場所へと向かうと、広いフロアに出る。
そのフロアは洞窟ではなく、石造りの遺跡や神殿風の見た目をしており、中央の祭壇のような場所には何か物が乗っているのが見える。
祭壇にあるのって……何かのアイテム!?
あれを売ればお金になるもかもしれないじゃん!
私は祭壇に近づき、その上に乗る黒く輝く石を取ろうとした瞬間、黒い石が紅く怪しく輝き紅い光を飛ばす。
「な、何これ……」
紅い光の先に紅いダンジョンゲートが開き、その中から子供の背くらいの生物がゆっくりと出てくる。
その生物をじっくり観察すると、目は大きく鼻と耳は尖っており、腰布1枚と棍棒を持っている。あれはゲームでもお馴染みのゴブリンと呼ばれるモンスターだろう。
私はオタマトーンを構え、ゴブリンを迎え討つ。
「ギャッギャギャ」
ゴブリンが何かを喋っているが日本語じゃないので理解ができないが、それでも私に対して悪意を向けているのが分かる。
これからゴブリンと戦うのに気をつけないといけないのが棍棒だろう。
見た目はただの棍棒だが、あれで殴られたら痛いし、ビッグイヤーラビットとの戦闘で魔法少女の衣装の耐久値も90%になってしまっている。
怪我を治す手段もないので攻撃は受けずに魔法で確実に倒したい。
何度もモンスターに魔法を当ててきたし、このゴブリンも大丈夫……な、ハズ……。
いざ魔法を撃ち込んでさっさと終わらせようとした瞬間、目を疑う光景が私の目に映った。
それは、紅いダンジョンゲートから2体のゴブリンが追加で現れたのだ。ゴブリンが2体出ると紅いダンジョンゲートは消えていく。
新たに現れたゴブリンは錆の浮いたナイフを持ち、もう一方のゴブリンは特に何も持っていなかった。
1対1の戦いで楽勝かと思いきや、1対3の不利な状況に陥っていしまった。これでは囲まれた時に対処ができずに、攻撃を受けてしまう可能性が高い。
それならばゴブリン達が動き出す前に、先に攻撃をするのが最善かもしれない。
まずは先手必勝で1匹倒して数を減らさないと!
「ゴブリンさん! 優しい心を取り戻して☆彡 きらきらみらくる、まじかる☆スターライトー!」
『まじかる☆スターライト 発動』
「ギャ!? ギャァァァァ……」
最大威力で放たれた、まじかる☆スターライトは、一直線に正面にいる棍棒を持ったゴブリンに向かい直撃すると、キラキラ輝く星になって消えた。
残り2匹のゴブリンは慌てて左右に離れた事によって、まじかる☆スターライトに巻き込まれるのを避けていた。
ゴブリンのような人型って知能が高いせいか、判断が早いような気がする……。
ゴブリンは正面から向かうのは不利と判断したのだろうか1匹は祭壇の裏に隠れ、残りの1匹は柱の裏に隠れてこちらの様子を窺っている。これでは中々決着がつかない。
ナイフを持っているゴブリンに近づくのは危険なので、柱の横に回り込んで即まじかる☆スターライトを放ち、ナイフを持ったゴブリンに命中すると光の粒子になって消えていく。
1階層の弱いモンスターなら、最小限の動きで魔法を使えば簡単に倒せそうだ。
「よし、後1匹~」
ジリジリと武器も何も持っていないゴブリンに近づき、怯え隠れるゴブリンを追い詰めていく。
「大丈夫、痛くしないよ〜……フフフ」
今の私の顔は人に見せられないほどに邪悪になっているだろう。これも生き残る為の尊い犠牲だよ……。
▽
『ゴブリンの魔石を3個取得し、スキルポイントが3ポイント追加され、スキルポイントの合計は、6ポイントになりました』
「よしよし、ポイントも沢山手に入ったぞ……」
ゴブリン3匹で3ポイントということは、倒せば倒すとほどポイントが手に入る。
しかし新たなスキルを出現させるには新たなモンスターを発見する為に、さらに下層へ行かないと成長できないということだ。
しかし今は戦闘に馴れる為にも下層へ行くのは時期早々だと思う……。
『渋谷ダンジョン1層ボス、ゴブリンを討伐しました』
『2層へのアクセスが可能になりました』
ウィンドウの内容を確認し祭壇を見ると、黒いゲートが開いた。各階層のボスを倒すと次の階層へ行くダンジョンゲートが開くみたいだ。
そして、ダンジョンゲートの前に宝箱があるのに気がつく。
「あっあれっ! あれは宝箱!?」
急いで駆け寄り宝箱に触れる。
「初めて見つけた……金目の物……」
渋谷ダンジョンに来て2日目、1日目はひどい目に遭い病院送りに。そして今日、2時間以
上ダンジョンを彷徨って初めて宝箱を見つけた。
ボスを倒せば確実に宝箱が出現するかは知らないが、今後各階層のボスを倒すのも良いかもしれない。
「フヒヒ……早速中身の確認をっと……」
木の宝箱を開けるとそこには綺麗な小瓶が1つ入っていた。中身は綺麗な緑色で少し光っているように見える。
「ん〜、薬かな?」
中身を揺らしてもよく分からない。
ダンジョンセンターに持っていけば分かるかもしれないし、もし売れれば電車賃にはなるかもね? 一度ダンジョンから出るのもいいかもしれない。
お金が無ければ移動もできないし、食べ物も買えない。緊張が解けてくると一気に疲れがくるから、ここが潮時かも。
まだ1層のモンスターを全部見つけてい可能性もあり、暫く1層に通わないといけない。2層の探索はまだ先になりそうだ。
うさ耳カチューシャで辺りの安全を確認し、魔法少女の変身を解くと、祭壇の前にあるダンジョンゲートに飛び込む。
『条件を達成しました』
『EXスキル【魔法少女の相棒】のロックが解除されました』
ダンジョンから出た瞬間、ウィンドウが開き何かの条件を達成したようだ。
そして、魔法少女の相棒……可愛らしい見た目とは裏腹に鬼畜な所業を繰り返す例のアイツ……かもしれない。
「おかえりなさい……ってあれ、昨日倒れた子ですよね。…大丈夫ですか?」
ダンジョンゲートから出て表示されたウィンドウを見ていると、見覚えのある人が出迎えた。私が疲労と空腹のあまり気絶したときに、介抱してくれた人だ。
「昨日はご心配おかけしました。今日は大丈夫ですよ」
「君のような若い子が倒れても連日ダンジョンに入るなんて何か事情でも? 何だったら相談にのるけど……」
ダンジョンセンターの職員だし、悪い人に見えない。本当に心配してくれているのだと分かるけど、先日の暴漢2人組の件もあり男性をすぐに信用するのは危険よね。
「いえ、本当に大丈夫です」
「……そうですか」
適当にはぐらかし、渋谷ダンジョンからダンジョンセンターへと向かう。
現在の時刻は15時を過ぎており、平日でもダンジョンセンターを利用する人で溢れていた。
早速アイテムを売買できる場所に行くと、丁度受付が開いてる場所を見つけ、そこへと向かう。
「すみません、これって買取できますか?」
緑色の小瓶を受付の人に渡す。
「ポーションですね。現在の買取相場は5,000円で手数料10%引かれますので、4,500円で宜しければ買取を致します」
手数料が掛かるのは仕方がない。4,500円あれは電車賃と食べ物が買えるので売却一択である。
「買取お願いします!」
「お支払い方法は振り込みか現金になりますが、いかが致しますか?」
「現金で!」
ダンジョンライセンスカードと口座の連携はしていなかったので現金のみだ。
受付の人から現金4,500円を受け取り、そのお金をポケットに押し込むと、足早にマジドナルドへ向かう。
ダンジョンセンターの連絡通路を使い渋谷マルコのオシャレカフェでも良かったが、節約の為とジャンクフードが無性に食べたくて、私の胃が悲鳴を上げている。
ふらついた足取りでマジドナルドへ辿り着き、セットメニューを注文し、商品を受け取り席に着席する。
あぁ……2日ぶりの食事だ……。
ダンジョンに入ってからは病院の点滴とラテ3杯しか口にしていない。
通算6時間以上ダンジョンの中にいた事になり、既に体力の限界を迎えていた。
私は肉厚のバーガーが入った包装紙を開き、中身に齧りつく。
肉汁が口に広がり、あまりの美味しさと急に胃に食べ物が入ったせいか、胃に激痛が走りると目から涙が溢れガチ泣きしてしまった。
お腹が痛い…でも美味しい……。生きてるって素敵……。ううぅぅぅ……。
人目もはばからず、ガチ泣きしながら肉厚のバーガーを齧りつくその姿を見た周りの人は、なんかヤベー人がいると察したのか、特に声も掛けずに距離を取っていた。
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