ドライフラワーの家
お題:なし
※今朝見た夢を起きて直ぐに文字起こししたものです。野々村あこうとは著者自身の名前。カノジョとは、一緒に暮らしている三本足のカラスの名前です。
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『背景、野々村あこう様。私の結婚生活は、決して円満と呼べるものではありませんでした。私はドライフラワーを作るのが趣味でしたが、結婚してからはそれに没頭する時間すら無く、仕事と家事を両立するのに必死な日々。旦那は仕事中心で、なかなか家には帰って来ませんでした。それでも、結婚というステータスには憧れていましたし、実際友人からも羨ましがられていました。しかしある日、旦那が記憶喪失になりました。彼が覚えているのは自身の母親のみで、しかもその母のことを奥さんだと勘違いしている様子でした。また、私のことは急に家へ押しかけてきた浮気相手だと認識していたようで、どんなに結婚指輪や書類を見せても信じてはくれませんでした。今まであれだけ面倒に感じていた旦那のことが、この時になってようやく大切だったんだと気づいたのですが時すでに遅し、でした。ある日、突然旦那は消えてしまいました。警察がどんなに探しても見つかることはなく、彼は蒸発してしまったんです。どうか、彼を見つけてください。いや、せめて手がかりだけでもいいのです。お願いします』
という手紙と、家の鍵、住所が書かれた紙切れの入った封筒を手に、カノジョさんと一軒家に向かった。
家のテーマカラーは白。バルコニーには真っ白なテーブルと椅子が二脚。
棚にはドライフラワーが飾られており、その全てが黄色い花だった。
キッチンの食器棚にもドライフラワーが入っており、食器は一枚もない。
代わりに、リビングのテーブルに二人分の食器が並べられており、その全てが綺麗に洗われており、埃が積もっていた。
小生は喉が渇いていたので蛇口を捻る。
勢いよく水が出てきた。ライフラインは止まっていないらしい。
水をコップになみなみ注ぎ、グイッと飲み干す。
喉の乾きが止まらない。胃の中に水が落ちた感覚すらない。
一杯、また一杯、さらにもう一杯、小生は何度も水道水をコップに注いではそれを飲んだ。
「カノジョさん!カノジョさん!」
水を何度も飲みながら叫ぶ。
「ねぇカノジョさん!コレ見て!」
一方カノジョさんは、テレビをつけてソファーの上でくつろいでいた。まるで亭主関白さながらのご様子で、一切こちらを振り返らずに「凄い凄い」と流してくる。
「ちが、違うんだって。ねぇカノジョさん!見てよ!」
また水を飲む。
どんなに飲んでも喉の乾きは潤わない。むしろ先程よりも増して喉が渇いた気さえする。
「カノジョさん、どんなに水を飲んでも飲み足りないんだよ!これヤバくない!?ねぇ、これヤバくない?」
「ハイハイすごいすごい」
カノジョさんはこちらを全く振り向かない。テレビを見ながら、はははと笑っている。
しかし、遠目に見てもテレビは砂嵐で何も映っては居なかった。
「ねぇあこう、金沢市長が『早く結婚しろ』ってメール送ってきたよ」
「やかましいわ、なんで市長に言われなあかんねんwしかもカノジョさん国籍ないじゃん」
「ほんまに。私カラスやもん。しかもオスやし」
等と軽い会話はできる。
それでもカノジョさんはこちらを向いてくれない。
小生は喉の乾きが全く収まらず、食器棚のドライフラワーにそっと手を出した。
なんだかそれを飲めばいいのではないかという気がしてきたから。
その瞬間、アラームが鳴り響いた。
聞き覚えのあるアラームに、慌てて目が覚める。
全部夢だった。
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