クラムスクール

@yiyunmar

第1話

先生、私と結婚して


付き合ってなんて恥ずかしぎる。恋愛偏差値三〇の私には無理だ。だから大袈裟な表現で私の気持ちにベールを覆った。好きだとちゃんと伝えたい。それはこの三ヶ月思ってきたことだった。でもやっぱり自分の気持ちと向き合うのがきまり悪くて、冗談混じりの告白をしてしまった。

 

結婚!僕なんか辞めた方いいよ、きっとこれからもっと素敵な人に出会えるんだからさ


 振られたーショックだわ、と笑いながら答えたけれど内心本当に傷ついたことも本当のことだった。半分ジョーク半分本気の告白を言ったところで、そもそもこの先生に彼女がいるのかと疑問に思った。



 てか先生は彼女いるの?

 いないよ、作ろうと思ったことがない

 ふーん、じゃあまだ私が入る余地はあるかもね

 ないない、先生な微笑しながら私のことをあしらう。

 ほらほら下らん話は置いといて勉強するぞ


ペンを握り、紙に染み込んだ英字を眺め始める。一つの長机に一対一で教える個別指導塾に私は通っている。高校二年生の九月から通っており、今やクリスマス前夜だ。英語が大の苦手で通い始めたもののやはり三ヶ月で好きになるなんて虫の良い話はないらしい。文字の羅列が崩壊しかけてきた。気の紛れることをしよう。


 クリスマスイブなのに勉強かよ

 いいじゃん、僕からのプレゼントだと思ってくれ

 こんなんいらんわー、こんなささいで愛おしい会話がずっと続けば良いと私は思った。


個別指導様々だ。先生との距離が近い。

 緊張するよね、でも大丈夫だよ、新卒の僕も君と同じく新米だ、一緒に頑張ろう、よろしくね、と入塾したばかりの時にリップヴァンウィンクルのように辺りを見回す私に掛けてくれたセリフだ。

勉強するフリをして、先生の横顔を横目で見るのが私の日課だ。新卒入社なので他の先生たちよりもずっと幼くみえた。周りの高校生と見間違えそうな風貌だった。いつも黒髪のどこかがランダムに跳ねていて眠そうな顔をしていた。正社員だと聞いているがスーツではなくいつも白かグレーのシャツに黒ジャケットを着ていた。今日も同じ服装だ。着回してるんだろな、と私は思った。そんな風にして忍足の目で先生を見つめながら勉強はそっちのけで物思いに耽るのが日常だったが、今回は違った。

目が合ってしまった。さっきの冗談めかした告白が意外にも動揺させたのか、盗み見がばれてしまった。


 どうした、質問?

 あ、いや、えっと・・・


不意を突かれて口籠ってしまった。本当の気持ち、好きという気持ちが悟られていないか不安が襲ってきた。何とか体裁を整えようとしたが別の方向で墓穴を掘ってしまった。

 

模試が近いからさ、どうしようかなと思って、とっさに思いついた言い分だったが、近いとは言いつつ1ヶ月先のことだと気づいた。

 いつ?

 一ヶ月後くらい・・・かな、そんな先のことを考えだすなんて絶対変わり者と思われる。

 計画的で偉いねえ、よし模試対策は次からするとして、今はこの問題やろか、一瞬眉を潜めた気がしたが、目の前の勉強に集中するよう舵を取ってくれた。


多分、悟られていない、良かった、でも変わり者だと思われたかもしれない、恥ずかしい、と顔が赤くなり始めたのところで先生が尋ねてきた。


 そういえば、今君の偏差値ってどれくらいだったっけ。聞いても大丈夫?


 結構良かったよ、見て驚けよ


以前受けた模試を鞄から取り出し、勝訴と書かれた紙を報道陣に見せつけるかのように提示した。


 三・・十・・・伸び代しかねぇな

 だろ


低いのは恋愛だけでなく学力も低いのが私なのだ。

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