亡霊燃ゆ

「危ないところだったよ」

 第三小隊の小隊長が「キエフの亡霊」の面々と握手をする。と、またレーダー基地がロシア軍の航空機をキャッチし、警報が鳴り響いた。第二小隊のMiG-29四機が緊急出撃したが、直後にロシア軍航空機から直接「離反したのでウクライナ空軍に協力し、投降する」という無線が送られてきた。それも一機ではない、一四機から投降すると入電したのである。

「では付近の民間飛行場に着陸されたし」

 そう送ると、「了解」との通信があった。基地の司令が命じる。

「速やかに着陸予定の民間飛行場に兵士を展開させ、ロシア軍のパイロットを確保せよ」

 破壊を免れた民間飛行場に、Su-35戦闘機一二機とSu-34戦闘爆撃機二機が着陸する。機から降り立ったロシア人パイロットは両手を挙げて、おとなしくウクライナ軍兵士の指示に従った。Su-35とSu-34はウクライナ軍兵士たちによってトレーラーに乗せられ、陸上輸送で午前六時頃にウクライナ空軍の基地へと運び込まれた。「キエフの亡霊」をはじめとしたウクライナ空軍のパイロットたちが見守る中、一四機の元ロシア軍機はウクライナ空軍の国籍マークと識別番号及び識別塗装を施され、ウクライナ空軍機として生まれ変わった。また、新たな戦力として元ロシア軍パイロット一六人がウクライナ空軍の一員となった。

 二七日正午になると、レーダー周辺の見張員がミサイルの接近を報告した。レーダーの電源を切って攻撃を避けていると、数分で司令部に通信が入った。

「第三警戒塔より司令部」

「見張員から直接です」

「こちら司令部、どうぞ」

「ロシア空軍のSu-27戦闘機が八機ないしそれ以上接近しています。ミサイルを満載して低空接近中!」

「迎撃機を上げろ!」

 「キエフの亡霊」と第一小隊のMiG-29合計八機が出撃し、上昇していく。Su-27は分散しつつ一斉にMiG-29に接近し、機関砲を撃ちまくる。MiG-29は機首を上げ、宙返りをしつつ華麗なまでの反転でSu-27の後方につくと、機関砲を撃ちまくった。Su-27も機体を上下左右に不規則に振り回し、撃墜されないように弾切れを誘う。ウクライナ空軍のMiG-29にはミサイルが二発しか積まれていない。搭載する機関砲弾も少ない。しかし見事なまでの射撃技能でトカーチ少佐機が追っていたSu-27一機に数発を命中させると、Su-27のフラップは弾け飛び、Su-27はきりもみしながら墜落した。

「よし、一つ」

 トカーチ少佐はそう言って、他の一機への射撃を開始した。そしてもう一機にミサイルを放つ。ミサイルは呆気ないほどすぐに命中し、機銃を受けたSu-27に少し遅れてミサイルを受けたSu-27が墜落する。そしてロシア空軍機はなおも戦いを挑み、ボーンダル大尉の機を残る五機で集中して狙い撃つ。トカーチ少佐はSu-27一機の射線に割り込むと、ミサイルを発射した。一機が回避機動を取ると、トカーチ少佐は機銃を放って他のSu-27を撃墜する。そしてボーンダル大尉のMiG-29を襲っていた五機はボーンダル大尉機に至近弾を与えただけで一機を残して全滅した。残る一機はミサイルをウクライナ空軍の六機に向けて全弾発射するが、その直後ミサイルを受けて爆発、空中に残ったミサイルも電波妨害装置の妨害電波を受けて軌道を逸れ、至近弾となって数機のウクライナ軍機を揺らしただけだった。ウクライナ空軍の八機は軽微な損害を受けたのみで基地に帰投する。ただ、第一小隊のMiG-29一機の電波妨害装置が破損したためその機は応急修理を受けることとなった。

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