かんかんじてい

カラサエラ

ケース1

足取りが重い。

ただ階段をのぼってるだけなのに息が切れる

走ってるわけじゃない

歩いてるだけ。それもすごく遅く

胸が痛い。締め付けるように痛い。

気分が悪い。お腹の中から何かが込み上がってくるのを感じる。


僕は近くのビルの階段を登る。心臓の鼓動が早まる。緊張で小刻みに体が震える。いつもは気にしていないことが頭に残る。夕焼けの色、カラスの鳴き声、車の音、壁に跳ね返る自分の足音、全てが全て頭の中で反響して何度も何度も渦巻く。


短い人生だった。みんな憐れむだろうな

でもこれでいい。僕はこれでいい。

僕なんていない方がいいんだ。生まれてこなければ良かった。このまま生きていても、周りから白い目で見られるだけ。昔から何をしても失敗する、人より秀でているところがない、そのくせなんの特徴もない

このまま生きてて楽しいのか? 楽しい人生が待ってるのか?

幸せになるのか?


そんなに簡単だったら今こうしてここを歩くこともなかったのに。


目の前に古びた灰色の扉があった

屋上に着いた。

フェンスは低い

それは下から確認した。

足を引っ掛けて、大股で乗り越える。

フェンスの外側にもたれかかる。

手すりを強く握りしめて体を乗り出す

準備はできた。

さあ飛ぼう

今すぐに


手を離そうとした、

でも離れなかった。

頭ではわかってる。でも体は動かない。

脚が震えてしゃがみ込んでしまった。


飛べない。怖い

できない

こんな時ですら僕は失敗する

こんなこともできない。


【なんでみんなが普通にできることが

できないの?】


親に言われた事が頭の中でフラッシュバックする。

気分が悪い。吐きそうになる


なんで僕がこんなことを‥‥


一瞬そんなことを考えてしまった。その途端何故か涙が溢れてきた。

駄目だ駄目だ


僕は何もしてないのに


考えるな、そんなことは考えるな!

ちくしょう、覚悟を決めろ

戻るんじゃない!

飛べ!

早く!!


目をつむり、フェンスを持っていた手が離れるのを感じた。体が風を切る。

頭が真っ白になった


夕暮れの街の一角で鈍い音がした



鈴原一斗 (16) 無職

死因:廃墟となったビルからの飛び降り自殺

動機:高校受験での失敗

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