第38話 地下牢

牢屋の錠がかけられる音が、地下牢に鳴り響く。

 僕は膝を抱えて床に座りながら、その音を呆然と聞いていた。

 アールディス家の地下に作られた牢屋だから、ネズミも汚物の匂いもしないことは幸いか。

 冬でも寒くない毛布と、地面の冷気が伝わらないようにベッドがある。

 でも今のぼくは杖も剣も取り上げられ、火属性の魔法も剣術も使えない。

 どこで、間違えたのか。

 子供の頃から、何をやってもいちばんだった。

 剣術も、勉強も。同年代の人間に負けたことはなかった。

 一流の家庭教師に、厳しくも優しい両親。

 公爵家の跡取りという立場があれば、皆彼をちやほやした。

 でもマギカ・パブリックスクールに入学して、栄光はすぐに崩れ去った。

 アンジェリカ姉さんに、いちばんの座を奪われたのだ。

 剣術や勉強は、なんとかいちばんをキープできた。でも、魔法だけはいくらやっても姉さんには勝てなかった。

 姉弟ほぼ同時に上位魔法を習得しても、威力の差は歴然。

 どれだけ努力しても、家庭教師に特訓を申し込んでも、駄目だった。

 一時期目標にしていた最上位魔法の習得も諦めた。アデラ叔母様を見て憧れる時期もあったが、魔法で勝負するのはもうこりごりだった。

 勝てば皆が当然のようにぼくをほめちぎる。だが負けると何を言っていいかわからない、誰かが慰めの言葉をかけるのを遠巻きに眺めているのだ。負ける勝負は絶対にしたくない。

 だが負けても負けても、周囲から嘲笑されても勝負を諦めないヴォルトという馬鹿。

 冴えない家柄と顔つきのくせして最上位魔法の夢をまだ見ている、身の程知らず。

 気に食わないがどうせ使えるようになるわけがないと放置していた。だが高等部二年になって剣術で時々一本取られるようになり、はらわたが煮えくりかえるほどの怒りを覚えた。

 周囲の目もあったから感情は露わにしなかったが、必ず痛い目を見せてやる。

 許嫁の女がなかなかの器量だ。あいつを奪い取ってものにしてやる。

 だが水色の髪の女は口説いてもなびくどころか、こちらに関心をもつ素振りさえなかった。

 しょうがない。危ない目に遭わせて僕が颯爽と助けてみるか。

 生意気なカーラという女もいたし、ついでにアイツに罪を着せてやるとするか。

 だがそのたくらみは失敗に終わった。

 人生の栄光をすべて取り上げられ、こうして冷たい石の床で膝を抱えている。

 そこでぼくは、はたと気づく。

 これは夢だ。きっと夢だ。

 朝になれば、暖かいベッドで目が覚めて侍女が僕の世話を焼いてくれる。

 夢の中でも冷静さを保つのが公爵家跡取りというものだ。ぼくとしたことが、うかつだった。

 床の冷たさを感じながら、無理矢理に眼を閉じる。

 

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