Mob of THE dead〜モブオブ・ザ・デッド

アリエッティ

第1話 相手されない日々

 日常ってなんだ?


 同じ事が繰り返し起きる平和な事?


 何も無い喉かな時間?

変わらない事が楽しいとも聞く


変わらないことが楽しい、残念ながらその感覚は理解しがたい。


「あ、歯磨き粉切れてる...」

荒廃した街中で一人、歯を清潔に潤す固形物の不足を確認する男がいた。


「…買ってくるか。」

斎藤ハジメ

蔓延した不死者が彷徨う中で未だ変わらず普段の生活をし続けている男。


「ガソリンはあるな、スーパーの方が安いんだけどなー。コンビニの方が近いしな」

得をしたいが距離が億劫だ、スーパーとコンビニの位置が逆だったらと何度思った事か。


「前はお隣さんがくれたんだけどね..」

隣の老夫婦は何でもストックし過ぎるほど物をまとめ買いしてしまう癖があった。部屋のチャイムが鳴ったとき、それは大概使い切れない品物が届くタイミングだ。


「今じゃどこを彷徨ってるやら。

元気だといいけど、いつか会えるかな」

老夫婦の家屋を眺めながら車を走らせコンビニへと向かう。外へ出る度に気付く事がある


   〝自分以外は特別〟なのだと。


「‥今日は空いてるな、いつも入り口でたむろしてるのに。ラクでいいけど」

特別という感情も初めのうちで、殆どの事は時間が経てば通常になる。


「相変わらず店員は無しか、レジって思ったより扱いムズイんだよなぁ」

自動化の時代に手動のレジを使用している。コンビニは特に導入が早い筈なのだが、レジを新設する前に店長が体調を崩した。


「‥160円か、やっぱちょっと高いよな?」

スーパーなら下手をすれば半額で手に入る。

コンビニは便利だが値段の都合が悪い


「160...っと、レシート短か」

同じような切れ端が財布に溜まっている

捨てようと思うが毎回忘れて気付けば煩わしい程増えてしまっていた。


「他にも何か....いいか、まだウチに天そばあるし。あれで昼間はいけるだろ」

小さな歯磨き粉のチューブを持ってコンビニを出る。初めは持っていってしまおうと思う事もあったが、買い物をしに店に来ているので金は払うと決めた。その為に独学でレジ打ちを覚え、精算の仕方を理解した。


「……」

見慣れた街並みに最早言う事も特に無い。

景色も大して変わらない、周囲の人間が変わろうと自身の態度は変わらない。


「ただいま」

事の発端は数ヶ月前、同じようにコンビニに向かったときだった。適当な弁当を昼飯に買い、レジへ向かおうとした。


「助けてぇ!」 「…ん?」

客の一人が男に襲われていた。男の様子は正常ではなく、理性も持たず泣き叫ぶ女の肉を噛みちぎっていた。


「うっわ、なんだアレ..?」

当時のリアクションもこんなものだった。

人間得体の知れない状況と巡り合ったとき、大概はこんなものだと思う。


「なんなんだよコイツ!?」

大袈裟な親父が喚いていた、その親父を今度は噛まれた女が襲って肉を噛んだ。


「大変だ! 逃げろ!!」

店内は大騒ぎになって穏やかさを失っていた。

従業員を含め中の人間は血相をかいて外へ飛び出していったが、自身はそうはしなかった


「…なんでだよ?」

何故だかよくわからないが、他の連中のように〝狙われる事が無かった〟からだ。


「元から影は薄いほうだったけどな、一瞬焦ってみたのが物凄く恥ずかしかった」

未だに街を彷徨う半死状態の化け物に襲われる事は無い。外へ出ようと買い物をしようと全員が横を通り過ぎて無視していく。


だからこそ...「助けて!」 「どうした?」


「追われているの、車に乗せてっ!!」

必死こいた顔の生存者にも助けを求められる


「はやく乗りなよ」「有難う御座います..!」

助手席に乗せて、一応鍵を掛ける。追いかけてくる連中に振り向き焦っているけど、正直気持ちは余りわからない。


「やぁっ‼︎」


「‥大丈夫、盾になるから」

女性を庇いながら家の扉を開け、避難させる。

襲い来る連中の中に数名知った顔らしき人がいたが纏めて見ないフリをした。


「鍵閉めとくけど、あんまり叩かないで」

一切返答は無い。

それでいい、特に期待はしていない


「ふぅ..今コーヒー入れるよ」


「‥あなたは、平気なの?」

まんまるの瞳で問いかけてきた、初めて見る人はいつもこの顔をする。


「不自然だよね、君との間に入ったら見えなくなったみたいに大人しくなるからさ」

これを言うのも何度目だろう、もう飽きた


「そんな人、初めて遭った...。」

これも聞き飽きた。

聞き過ぎた言葉には、テンプレートのように決められた言葉を使うようになる。


「少し休むといいよ。

2階の部屋使っていいから、ベッドもあるし」

何処から来たの?

などと詮索の質問をする必要も最早無い、何処からこようと関係を持たないのだから。


「…昼飯でも食うかな。」

ケトルが動けば、飯は作れる

お湯を入れて3分待てばそれでいい。


「きゃあっー!!」 「また?」

結局こうだ、家へ避難をさせても直ぐに一人になってしまう。


「シーツ替えないと、あーめんどくせぇ..。」

目を離すとすぐに餌食になる

器用に屋根を伝って登ってくるようだ。


「あーどうしよ..掃除しないとだしなぁ、ホームセンター行かないとダメかなこれ....あっ!」

直ぐに一階へ向かう、しかし遅かった。


「天そば伸びてる...。」

予め天ぷらをつゆに漬けてしまっていたのでぐちゃぐちゃの伸び伸び、最悪のフルコースが完成してしまっていた。


「やる事増えたな..」

取り敢えずは食事、不恰好でも仕方ない。

その後は大掃除が待っている、幸い汚れているのはベッドの上だけだ。上手い具合に処理すれば被害は最小限に抑えられる。


「また外出るのか、面倒だな」

元々出不精な事もあり遠出は特に億劫に感じる。近くのコンビニですら腰が重いのだ、スーパーよりも先のホームセンターなら尚更だ。


「死体処理なんて、俺が殺したみたいじゃん」

 シーツの四隅を対角で掴み、女を巾着のように包んで窓から屋根の上へ運ぶ。そのままシーツを展開し、女性の死体を床へと落とす


「うっわ..ゴメン雑過ぎた?」

派手な落下音に多少の罪悪感を持ちつつ広げたシーツを小さく纏め、洗濯機の中へ。


「…あ、入れちゃった。

捨てるつもりだったのに、まぁいいか」

丁度新しいシーツが欲しかったところだ。

出不精ではあるが、決めた事は普通にしたい


「多めに金持っとこうかな、ハンガーとかももうちょい欲しかったりするしな」

ホームセンターはあくまで店内の一部、正式には店舗が集うショッピングモールだ。


「広くてしんどいんだよなあそこ、便利だけどあそこまでの用事なかったりするしな」

近くに適度な店が出来てくれればいいのだが、利便性を重視すると規模が拡大するのだろう


「工具も揃えるか、扉直さないとそろそろ本気で壊されるよなあれ」

流石に業者を呼ぶのは高くつく、手間は掛かるが自ら直せば安く済む。


「今日夜遅くなるかもな」

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