しょの3「母ちゃんのプリン」について

ウチの奥さんと出会った頃のお話。


「母ちゃんのプリン・・・」

「えっ・・・?」


友達の結婚式の二次会。

紹介された女の子が好みで。


一生懸命、話をもりあげようと。

僕の母の料理の話をしました。


「俺んち・・・田舎でさ」

「そう・・・?」


「プリン・・・とか、オシャレじゃ、ないんだよね」

「フフッ・・・」


(よし、食いついたぁ・・・。)


「よく、CMであるじゃん・・・?」


「プリンプリン・・・て、キレイなグラスに揺れてるの・・・」

「そういえば・・・?」


「あれ・・・」

別に、その時は受けようなんて、思わなかったんだよね。


只、話をつなごうと、しただけ。


「ウチ・・・母ちゃんのプリンは・・・」

興味深々に、聞いてくれていた。


「弁当箱・・・に入ってたんだよ、ね・・・」

「べ、弁当・・・箱?」


あまり、イメージできてないみたいだった。


ここで、説明すると。


昔の、しかも、田舎の弁当箱って。

ブリキで「ドカベン」って、よばれている長方形のゴツイやつ。


縦横、10㎝×20㎝、深さ5㎝。

くらいの、ゴツイ箱。


「それに・・・プリン?」

将来の僕の妻はその時、噴き出しました。


「そうそう・・・」

気をよくして、僕はつづけた。


「だから・・・。」

慎重に、言葉を選んで。


「母ちゃんに、言ったんだよ・・・」

大きな瞳を光らせ、聞いてくれている。


『これ・・・ちょっと、違うよね?』


『何がぁ・・・?』

僕の母が不思議そうに聞く。


『だってぇ・・・・。』

幼い僕(多分、5歳くらい)は言う。


『テレビのプリンは、プリン、プリンって・・・』

おしゃれで、キレイなグラスに揺れてたじゃないって、言いたかった。


『これだって、プリンじゃない?』

母は自信マンマンで、答える。


『そう・・・か』

幼い僕は、それ以上言えず、プリンを一口、食べた。


『甘~い!』

そして、ガツガツと弁当箱のプリンを貪ったのだ。


母は満足そうに、僕が食べるのを見ていた。


食べ終わって、僕は言った。

『母ちゃん・・・』

『ん・・・?』

『でも、ちょっと、違うと思う・・・』


※※※※※※※※※※※※※※※


「結局・・・」

僕は彼女に言った。


「美味しかったから、良いんだけどね・・・」


僕の将来の妻は、その時、クスクス笑っていた。

結構、僕のことを気に入ってくれたみたいだった。


それから。


今では何十年も一緒に、夫婦、してます。


妻がホットケーキを焼いてくれます。


その時。


「そう、言えば・・・」

思い出したように言いました。


「あの時・・・」

噴き出しそうな顔で言います。


「お母さんの、別の、おやつのこと・・・」


「ああ、そういえば・・・」

僕は、はるか昔のエピソードをくすぐったく、思い出した。


もう一つ。

母のエピソード。


幼い僕が言った。


『母ちゃん・・・・これ・・・』

『ホットケーキが、どうしたの?』


『うん、美味しいんだけど・・・』

僕は、少し、はにかみながら、言った。


『ちょっと、テレビと違う・・・』

『何がぁ・・・・?フワフワだし、シロップも、かかってるでしょ?』


『そ、そうなんだけど・・・』

母の怪訝そうな表情に、5歳の僕は遠慮がちに言った。


『フライパン一杯のホットケーキって・・・』


『お好み焼き、みたい・・・』


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