第19話 模擬戦

 次の試験は受験者同士で行われる模擬戦だ。この試験では立ち回りや魔法や剣の技術等が見られる。

 受験者は場外に対戦相手を出すか、試験官が止めるまで試合が続く。対戦相手は基本的にランダムに選ばれるが爵位が近い者同士になる傾向にある。


 アブソリュートは自分の番が来るまで他の人の試合を

見ていた。ちょうど今、友人のレディの対戦が行われておりクリスと観戦している


「レディはアブソリュート様に魔法の指導を受けてから凄く強くなりましたね。 ほら、対戦相手を圧倒していますよ!」


 レディの対戦相手は剣士で、レディとの間合いを詰めようとするがレディの氷魔術のスキルで放たれる氷柱が対戦相手を襲う。 

 剣で振り払うが永続的に放たれる氷柱が徐々に当たりだし、最後はレディの攻撃に圧倒されそのまま場外になり、試合は終わった。


 試合を終えたレディが笑顔でアブソリュートの元へ向かってきた。


「アブソリュート様!私の活躍見て下さいましたか!」


 レディが顔を近づけてアブソリュートに問いかける。


「あぁ、また強くなったな」


 お世辞ではない。初めて会った時からだいぶ強くなったと思う。戦い方次第ではウルと互角に戦えるのではないだろうか。


「お褒めに預かり光栄ですわ!アブソリュート様の名前に恥じない戦いが出来たと自負しておりましたの。実際に褒められると私火照ってしまいましたわ。もうすぐ、アブソリュート様の試合ですわね楽しみですわ。アブソリュート様頑張って下さいましね!」


「…ああ。そうだな」


 レディはアブソリュートの褒め言葉にデレデレしながらアブソリュートの隣に座って会話を続ける。



「アブソリュート様の対戦相手は誰になるのでしょうか?カコ公爵家の方かミライ侯爵家のアリシア様あたりですかね」


 それにクリスが答える。


「聖女様の可能性もありますよ。まぁですが上位貴族の受験生はカコ家とアーク家意外は令嬢が多いですから必然的にカコ家の方になるのではないですかね」


 カコ家か…


 カコ侯爵家はミカエル王子の記念パーティーでクリスを含むアーク家傘下の貴族達に突っかかってきた者たちのリーダーだ。武闘派とは聞いているがアーク家とはあまり馴染みがない。

 原作でもあまり出てこなかったからどう絡んでくるか未知数である。


 そこで考え込んでいると次の試合にアブソリュートの名前が呼ばれた。


「アブソリュート様、頑張って下さいね」


「ご武運をお祈りしておりますわ!」


 クリスとレディの声援を受けながら試合会場にはいる。そこでアブソリュートは一足先に対戦相手を待った。


 だが、対戦相手はアブソリュートの予想を斜め上に裏切った。


「聖女エリザ…そしてアリシア・ミライそれにカコ家のものだと」


 そうアブソリュートから遅れて入ってきた対戦相手は聖女エリザとアリシア・ミライ、カコ公爵家の嫡男だった。アリシア、カコ家の者と聖女エリザもこの状況に驚くがまず先にカコ家の嫡男が語りかける



「これはこれは聖女様にアブソリュート君。私はトリスタン・カコと申します。それでこれはどういう状況か説明して頂けますか?試験官様」


 試験官が口を開く。


「確かに模擬戦は一対一で行うのがルールだ。だが、聖女様は戦闘に関してはサポートに特化しておりこれでは聖女様の真価を評価することができない。そこで特例としてこの対戦に関してはニ対ニで行うものとする」


 確かにサポートに特化した聖女にはこの試験は厳しいだろう。それでダブルバトルか。なるほど、だが組み合わせはどうなるか。


「ペアに関してはアブソリュート・アーク、アリシア・ミライ。トリスタン・カコと聖女様の組み合わせで行う。ルールに関しては審判が試合を中断するかペアの2人が場外にでた時点で終了とする」


 なるほどアリシアとペアか。助かるな…私が聖女と組んだら聖女の力を見ることが叶わず終わってしまう。

前半アリシアに戦わせて聖女の力を見るか。


 そう考えるとアリシアがアブソリュートに話しかける。


「…話すのは初めてね。アリシア・ミライよ。それで役割はどうする?私は魔法しか使えないから遠距離からの攻撃になるけど。」


「そうか、なら私の剣の間合いに入るまでトリスタンを魔法で攻撃しろ。私がトリスタンを相手している間は何もしなくていい。」


 アリシアは不思議そうな顔をして尋ねる


「いいの?聖女は戦えないから貴方がトリスタンと戦っているときに私が魔法で援護した方が確実だと思うけど?」


 確かにアブソリュートが提案したやり方は前半アリシア後半アブソリュートと一対一を繰り返していくやり方だ。2人でトリスタンを潰せばすぐに終わる可能性が高いだろう。だが、それでは聖女の援護力を見ることが

出来ないではないか。それだけは避けなければならない


「ふん。いくら聖女が援護しようと戦うのはトリスタン1人だ。それを2人がかりで潰すのはあまり美しいやり方ではない。場面ごとに役割を分けて一対一で戦うのが

いいだろう」


 アブソリュートは現在の自身の最後を思いだした。そう、数で相手を押しつぶすやり方はアブソリュートは好きになれなかった。


 アブソリュートの答えにアリシアが驚く


「…ごめんなさい。私、貴方を誤解してたわ。

…確かに誇りある上位貴族の私達がやることではないわね。分かった、貴方のやり方に従うわ。誇りを持って戦いましょう!」


 アリシアはアブソリュートに賛同した。


「あぁ、それと聖女には当てるなよ?」


「ふふ、分かってるわ。さぁ初めましょう」


 そうして2組はむかい合う


「始めっ‼︎」


 試合開始と共にトリスタンが駆け出す


「ファイヤーボール」


 アリシアの魔法がトリスタンを襲うがトリスタンは避ける気配がない。そこで聖女が動く。


「プロテクト、リジェネヒーリング」


 プロテクトとは防御力を上げる魔法リジェネヒーリングは一定時間の間にヒーリングの魔法を自動で付与する魔法だ。それに厄介なのがトリスタンのアリシアの魔法に恐れなく向かっていく闘争心だ。


(もしかして聖女のスキル『扇動』を使って恐怖心をなくしているのか…?…やはり危険だな)


 人間は恐怖心により脳にストップがかかるがあのスキルはそのストッパーを外している。リスク度外しに危険な行動をとらせる事が可能なのだ。


「なんなの、あいつ⁈魔法をくらいながら進んでくるなんて‼︎」


 アリシアは連続して魔法を使うがトリスタンは止まらない。


そろそろアブソリュートの間合いに入る。


「…そろそろだな。交代だ」


 アブソリュートは剣を抜きトリスタンに向かって斬りかかる。


 2人の剣が交じり合う。


 トリスタンがアブソリュートに語りかける


「おや、ついにアブソリュート君の登場ですか?ふふ、聖女様の力は素晴らしいですよ!いつもより力が溢れてくるんです。今なら誰にも負ける気はしませんねぇ」


 うわー、こいつ薬が決まったみたいに

なってるよ。それにしてもトリスタンの技量やレベルに関しては俺の圧勝かな?剣の腕は結構良さげかと思ったけど頭のリミッター外れてだいぶ崩れてきている。


 アブソリュートは適当に打ち合いつつ聖女とトリスタンの分析をしていく。


「………何故アリシアさんと一緒に攻撃しないんです?2人でなら僕を倒せるかもしれませんよ?」


「聖女の援護があろうと戦うのはお前だけだろう?2人がかりは美しいやり方ではない。」


「………貴方のことをみくびっていました。ですが、それを敗北の理由にしないで下さいね!」


 トリスタンがギアを上げるがアブソリュートは余裕で対応する。しばらく2人の打ち合いが続いた。拮抗状態に焦りを感じたトリスタンが動く。

 

「聖女様!支援をお願いします‼︎」


 聖女がさらに支援魔法をトリスタンにかける。トリスタンのスピード、パワーが増す。


 だが、レベル差のあるアブソリュートにはそんな強化は効かない。アブソリュートは聖女の強化魔法をあらかた観察を終えていた。


 今のところ、スピードとパワーが上がっただけで他は対して変わってないな。強化したスピードにトリスタンが対応できていないな。まぁ初めてのタッグだしな。

 それにしても、身体強化の魔法は大したことはないがこれが大勢に使えたとしたら厄介だ。そして恐怖心をなくすスキルか…


 アブソリュートは聖女エリザの危険度を上げた。そしてあらかた力をみたアブソリュートは決めにかかる。斬りかかってきたトリスタンの剣を弾き、腹に蹴りを入れて場外に出す。


「剣の腕は見事だったが、少し精細さを欠けていたな。次は学園で本当の一対一で勝負をしよう」


 場外のトリスタンにそう言い終えると聖女の方を向く。


 残りは聖女だ。


 聖女はトリスタンがやられアブソリュートが

自分の方に来ると分かると怯えだした。


 アブソリュートは剣を捨てて聖女の元へ行き震えてる聖女を脇に抱えて場外に置き試合が終了した。















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