カメラのひとりごと

サムライ・ビジョン

第1話 研究所・出入口付近

 ピチューン…


無機質な私が言うのも何だが、なんとも無機質な壁や床。私は研究所の廊下に根づかせてもらっているカメラだ。

今しがた、どこか遠くから光線のような音が聞こえてきたところである。カメラの私にも光線の主の目星はおおかたついている。


 「やばい…! …エマージェンシー! エマージェンシー! ラボ207より被験体が脱出しました! 繰り返します、ラボ20…」

私が映す画面は実にシンプルなものだ。壁や床の区別もつかないほど真っ白な景色。10メートルほどの廊下の突き当たりがT字の分かれ道になっている。

バタバタと走りながら仲間と連絡を取っていた男の声がふと途切れた。


 右側の廊下から私のいる真ん中の廊下へと次々と研究者たちが逃げていく。そんな中、画面の下のほうから武装した集団がぞろぞろとやってきた。

私が映す廊下、その画面の下のほう…というのはちょうど南になる。武装集団がきたのは間違いなく南にある出入口からだろう。


 黒い防弾チョッキを着込んだその集団は、突き当たりを二手に分かれて左右に散った。

 最初に動きがあったのは右側の廊下だ。ピンクの光がうっすらと見えた。その後、武装集団の1人が後ろ向きに移動しながら狙撃していたが、間もなく胸元にレーザー光線を食らって倒れた。

 廊下の突き当たりに男が倒れたのをレンズの奥でしっかりと捉えた。その後、ついにレーザー光線の主が現れた。




 【薄いピンクの宇宙人】




身長は100センチほどしかないのだが、何しろあの宇宙人の最大の武器は、どんな防弾チョッキも貫くピンク色のレーザー光線だ。

人間サイドはこの宇宙人1体にかなり手こずっている様子である。


 宇宙人は廊下の突き当たりで左側の廊下を見つめたまましばらく動かなくなり、やがてゆっくりと歩いていった。左側の廊下に消えた宇宙人は右側のときのように周りをピンクの光で包んだ。

 左側にも武器集団のメンバーが何人かいたようで、レーザー光線の光はだんだんと左へ移動していき、そのうちカメラには映らなくなった。次々とメンバーを倒したのだろう。


 ピンクの光が見えなくなって10分ほどが経った頃…研究所の中にいる研究員や武装集団はすべて始末したらしい。

 ピンクの宇宙人は20体、30体と、研究所の実験台と思われるピンクの宇宙人をたくさん引き連れて画面左の廊下から出てきた。

 「これで自由だ」とでも言うように、宇宙人たちは手を上げて走ったり、ハイタッチしながら出口を出たりと、人間にほど近い感性を見せながら出ていった。


 これですべての人間がいなくなり、すべての宇宙人も出ていったのだろう。物音もまったく聞こえてこない。




 そう思っていたとき、ペタペタと足音を立てながら左の廊下から宇宙人が出てきた。まだ残っていたらしい。

 宇宙人はどれも同じような見た目だが、これだけはなんとなく分かった。


「いま出てきたこの宇宙人は、最初に脱出して仲間を解放した張本人」だということが。




 宇宙人はこちらに気づいている。

  宇宙人はこちらに近づいてくる。

   宇宙人はこちらに指を向ける。

    宇宙人の指先から光が出る。

     宇宙人の光が大きくなる。




やがて画面がピンク一色になり…






【ERROR】

監視カメラ[1]の通信が中断されました。

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