29 明かされた正体(サナ王女視点)
ルーツがチームメンバーと共にコロシアムに向かうと、私はバスティアン、ジャック、リリィと共に街の警戒に出る準備をした。オーデルグ一味の警戒だ。他の班は既に街に散っている。
バスティアンとジャックが宿の中でまだ武器の準備をしていたので、私とリリィは宿の入口でしばし雑談した。
「ルーツ、怪我、大丈夫かな?」
「そう思ってるなら、話してくれば?」
「……私は嫌われているでしょう」
「ま、そうかもね」
「そ、そこは嘘でも否定してよ……」
私は思わずむくれてしまう。しかし、表情を改め、昨日ブルーニーに言われたことを思い出した。
「ねぇリリィ。私、周り見えてないかな?」
「サナ王女はどう思ってるの?」
「……自分のことばっかりだったと思ってる」
「うん、そうだったね」
「やっぱそっか……」
私は、破壊神トコヨニ討伐の宿命を言い訳にして、自分ばかりをかわいそうだと思っていた。しかし、プレッシャーがかかっているのは皆だって一緒だったんだ。どうしてそんなことに気づかなかったんだろう。
「私、ルーツに酷いことしてた、よね?」
「それもそうね。あんまり男心を挑発しちゃダメよ」
「……そっか。意地にさせてあんな怪我させちゃって。謝ったら聞いてくれるかな」
「ルーツ次第だけど、間に合わないことなんて、きっと無いと思う」
「うん。ありがとう」
バスティアンと比較するような事を言ってはいけなかった。ルーツがどう思うか、全く考えてなかった。今度、謝ろう。聞いてくれるかは分からないけど、そうすべきだ。
やがてバスティアンとジャックがやって来たため、私たちは宿を出て、街の中を警戒するために歩き始めた。
「変な魔力の反応は無いな」
「やっぱり、オーデルグ一味にはここは気づかれていないってことかな」
「いや、油断はできないよ」
確かに怪しげな魔力の反応は無い。しかし、街の人に変装して紛れていてもおかしくはない。重要な日なので、気を引き締めなければならないのだ。
「サナ王女!」
私を呼ぶ声に振り返ると、3人のチームメンバーが走って来るのが見えた。うち一人は、霊峰グラントで一緒にドンドルスと戦った魔道士だ。
「あれ、あいつらは飛空艇待機じゃなかったか?」
「そうね。何でここに?」
3人は息を切らしながら、私たちのもとまで来た。
「サナ王女、ジャック、リリィ! ミストロア王国組の君たちに聞きたいことがある!」
「え、ええ……。一体どうしたの?」
「ニーベ村を、知っているか!?」
「え、ニーベ村?」
知っているも何も、ニーベ村とはルーツの故郷のことだ。私はよく城を抜け出して一人で遊びに行っていたからよく知っている。ジャックとリリィを誘うこともあったから、彼らにとっても馴染み深い場所だ。
「知っているわよ」
「!? じゃあ、聞く! ルーツは、ニーベ村の魔道士なのか!?」
「そ、そうだけど……。どうして!」
「くそっ! しまった!」
「ど、どうしたの!?」
私もバスティアンもジャックもリリィも彼らの剣幕にたじろぐ。どういうことなのか分からない。
「ニーベ村とルーツがどうかしたのか?」
「ニーベ村は3年前の帝国との戦争で虐殺があったところだ!」
「……は?」
意味が分からなかった。虐殺? ニーベ村で?
「ニーベ村には優れた魔道士が何人もいたんだろ!? そして、その中でもルーツは別格だったと!」
「え、ええ……」
「全滅したニーベ村の生き残り! だったら帝国を恨んでいる! もしかしたら世界そのものを憎んでしまったのかもしれない! そして生き残ったのが誰よりも優れた魔道士だっていうなら……!」
「俺たちの言いたいこと、分かるだろ!」
彼らの剣幕が私の中に嫌な予感を募らせる。それって、まさか……。
「まさか……、ルーツがオーデルグだって言うの!?」
リリィが青い顔で叫んだ。
「そ、そんな!?」
私も声を上げる。そんなまさか!? あのルーツが!
「ルーツ!?」
私はコロシアムに駆け出した。
「あ、サナ王女!?」
「俺とバスティアンとリリィで行く! 皆を集めてくれ!」
ジャックが3人に叫んだのが聞こえた。でも、私は頭がいっぱいで理解できなかった。
ルーツがオーデルグだなんて、ただの想像だ。そうであるはずがない! コロシアムに行けば全て確認できる。私はその想いで脚を動かした。
今更、本当に今更に、私がルーツと何一つ言葉を交わしていなかったことに気づいた。ルーツは、平民だったはずじゃないか! 私とは立場が違った! 帝国との戦争で、より過酷な立場にいたことを想像すべきだったじゃないか! どうして、私は今までそんなことにさえ気づこうとしなかったんだ!?
息を切らしてコロシアムに辿り着くと、コロシアムの周囲がざわついているのが見えた。
「一体、何があったんですか!?」
「今、中で優勝者と王の決闘が行われているんですが、中の様子が変なんです」
「!?
「あ、ちょっと! 決闘中は関係者でも立入禁止です!」
私は係員の静止を振り切り、バスティアンたちを待たずに中に入った。急いで武舞台が見える客席まで駆け上がる。
「はぁっ! はぁっ!」
武舞台を覗くと、王が倒れているのが見えた。だとしたら勝ったのはルーツだ。そのはずなのに。
王の前に立っている男からは、黒い闇の魔力が吹き荒れていた。
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