14 隠し事(サナ王女視点)

 飛空艇の大会議室にチーム全員が集まった。目下の目標を整理するためだ。リーダー役を務めるバスティアンが皆の前に出る。


「最終目標は破壊神トコヨニを排除することだ。しかし、これまでの帝国の調査では居場所は分かっていない。この先の調査は、我々の仕事でもある」

 皆、真剣な表情で聞いていた。バスティアンは帝国の将軍なので反発する者もいるかと思ったが、破壊神による世界の危機を救う使命感の方が上ということだろう。そういう意味でも、このメンバーを選出した帝国上層部の手腕に、私は素直に感心してしまう。


「また、先日、大悪魔ジャークゼンを見て分かった通り、過去の大戦で滅することができなかった破壊神の配下への対応が第2の目標となる。創造神サカズエによると、封じられている魔物は3体。可能であれば退治、無理なら再び封印する」


 そのうち1体、暗黒竜ラグナロクだけは力が強すぎるため、一度目覚めてしまえば退治はおろか、封印するのも困難な戦いを迫られるというのが、サカズエから得られた情報だ。


 前々回の大戦では、現状最強とされる召喚獣タイタニアとの死闘、討伐メンバーの多数の犠牲の上にようやく封印することができ、前回は、復活することなく封印を維持することができて被害は出なかったという。


 私は召喚獣タイタニアに挑戦するところまで訓練を進めることができなかった。聞けば、前回の召喚士もそうだったらしい。味方につけるのは困難な召喚獣なのだ。したがって、暗黒竜ラグナロクの封印が解けてしまった場合、過酷な戦いを強いられることになる。


 ただし、暗黒竜ラグナロクが封印されている場所は分かっているという。創造神サカズエが監視しているので、復活はほぼ無いだろう。


「それからジャークゼンが言っていた、今回、破壊神には協力者がいるという情報だ。負け惜しみやブラフの可能性もあるが、そういう輩がいると想定して動くべきだと思う」


 そう、今回の大戦が過去と違うのはそこだ。世界を滅ぼす存在に協力するなど、どういう人たちなんだろうと思う。私には理解できない。


 飛空艇はメルトベイク帝国から旧ミストロア王国を抜け、その隣国パルミスタに向かう。ミストロア王国が陥落してからわずか1年で帝国に屈したその国には、危険な魔物の徘徊する迷宮ダンジョンがある。未だ、古代の魔道具や財宝が残されているために探検をする冒険者が絶えず、それは帝国領となってからも続いている。


 その深部に、破壊神の配下がいることをサカズエが感知した。力を蓄えているのだろう。強力な存在に変貌しないうちに叩く。それが最初の標的だった。


 会議が終わり、メンバーが解散する。私はバスティアンに近寄り、腕に触れて労った。少しだけ部屋を出ていくルーツが目に入る。ルーツが一瞬こちらを見たような気がした。


 下船の準備をするため、私はバスティアンと別れ、大会議室を出た。すると、声をかけられた。


「サナ王女」

「あれリリィ? どうしたの?」

「今、少し時間ある?」

「うん、いいよ」

 リリィはそのまま私の部屋までついてきた。何か話があるらしい。


「サナ王女、私に隠し事してない?」

「か、隠し事!?」

 リリィに切り込まれ、私は動揺してしまう。


「バスティアン将軍」

「うっ!?」

 さ、さすがリリィ。もう気づいたんだ。リリィは『はぁ……』とため息をつき、なおも続けた。


ね」

「う、うう……」

「よりによって帝国人とかぁ……」

 リリィは私に座るよう促した。昔からこうだ。何か込み入った話をする時、リリィは主導権を握って来る。嫌ではなかったし、きっと今回もそうだ。いつも話を聞いてくれるのだから。


「どうしてバスティアンだったの?」

「そ、それはね……」

 私はリリィに説明した。バスティアンは帝国での私の世話役だったこと。命の危機すら感じる召喚魔法の訓練を共に乗り越えたこと。ずっと私を支えてくれたこと。


「確かに、ミストロア王国を攻めた帝国は憎い。私たちは誇りを踏みにじられ、あの楽しかった日々を失った。でも、きっとそれはバスティアン個人を責めても仕方がないこと。彼は、良い人よ……」

「そう……」

 リリィは私の言葉を真剣に聞いてくれた。


「リリィも、バスティアンと仲良くしてくれると嬉しいわ」

「同じチームとして一緒に戦うんだもの。元よりそのつもりよ」

「そ、そう……? もっと怒られるかと思ってた」

「だから言えなかったの? 私にも? だったら余計な心配だったね」

「う、うん、ゴメン……」

「帝国人と恋仲というのはビックリしたけど、忘れないでサナ王女。私はいつでもあなたの味方よ」

 リリィに肯定され、私は胸の中の重りが消え去るのを感じた。みんな帝国が憎いだろうし、バスティアンとのことを伝えるのは本当に不安だったのだ。


「ありがとう、リリィ……」

「うん。だけどね」

 リリィが少し声のトーンを変えたような気がした。


「ルーツには早くちゃんと言ってあげないと、かわいそうだよ」

「ルーツ? う、うん……」

 やっぱりそうなのだろうか。私はルーツとのことは過去のことだと思っている。ルーツは違うのだろうか。今でもあの頃の想いに捕らわれているのだろうか。


「ルーツも大事な私の友達だからね。そこはしっかりしてほしい」

「リリィ……。うん、分かった」

 一番伝えたかったことはそれらしく、リリィはその後は笑いながら私の雑談に付き合ってくれた。リリィもジャックとのことを話してくれたし、楽しい時間だった。やがて、リリィは私の部屋を後にした。


 ルーツに伝える、か。

 難しいことではないはずだ。過去は過去、今は今。そして私たちの誰もが今を生きているのだから。ルーツもきっと分かってくれる。私はそう思いながらリリィを見送った。

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