10 大悪魔との対峙(ルーツ視点)

 サナ王女は班それぞれを周り、今回の実地訓練のことを説明したらしい。実地訓練自体は破壊神トコヨニが残した大悪魔を討伐することだが、その後も反帝国の活動を休止してサナ王女に協力するというのには懐疑的な者もいた。


 しかし、大悪魔討伐そのものは必要なことなのだろう。実地訓練として戦う相手であることを踏まえると、恐らくトコヨニの配下の中でも弱い部類の相手だ。


 俺たちは飛空艇で、大悪魔と戦うための場所に移動し始めた。


「ルーツ」

「サナ?」

 飛空艇から空を見ているとサナ王女が話しかけてきた。


「魔道士としての力を隠しているそうね」

「身分偽装のため、仕方なかったんだ」

「私に協力する場合、反帝国の活動への追求が免除されるわ。それなら使ってもいいんじゃない?」

「それ、サナは信じているのか?」

「私は信用していいと思っている。がバックについているから」

「サナ、変わったね」

「そう?」

 変わったと思う。まず、俺との距離の取り方が違う。ミストロア王国にいた頃より、距離を取られている。当時はお互い思春期を抜けていなかったし、高まる気持ちに任せてしまっていたのかもしれないが。


 あの頃でさえありえないほど綺麗だと思っていた。今は、その域を遥かに超えている。3年も帝国で過ごしたのなら、世話役の中に男がいたとしたら。


「…………」

 それを確認しようとする気持ちが湧いて来ず、聞かなければならなかった別のことを尋ねることにした。


「戦争が起こったあの日、サナは、ミストロア王と一緒にいたのか?」

「え、お父様? いいえ、お父様はあのような時に至っても私に興味が無かったもの。知っているでしょう……?」

「そうか、そうだったね。じゃあ、ミストロア王が指揮した戦いについても?」

「一切知らないわ。どうして?」

「知らなければその方が良いさ。あのお方のくだらない、アホのような指揮など」

「随分な言い方ね。でも、想像はできる……。迷惑かけた?」

「言っていいの?」

「……やめておくわ。あんな父でも、一応、肉親だもの」

 サナ王女は昔からミストロア王と反りが合っていなかった。だから、今の返答に嘘はないと思う。そうだろうと予想はしていたが、今ここで確認が取れた。サナ王女は人間ではない。


「さっき言ったこと、考えておいてね。魔道士としてのルーツの力、私が誰よりも理解しているつもりだから」

「分かった。魔法剣ぐらいまでなら使うことを考えるよ」

「うん。頼りにしている」

 そう言うと、サナ王女は歩き去り、クラスメイトに声をかけ始めた。


「はぁ……」

 ミストロア王国でサナ王女と一緒にいられていたら。あの次の春に、霊峰ギガントに一緒に行っていたら。俺の運命は違っていたのだろうか。


 ……考えてもしょうがない。それは起こらなかったことだ。帝国や、そののせいで。俺は復讐を止めるつもりはない。



    ◇



 飛空艇は帝国領のある街に降り、俺たちは郊外にある屋敷に移動した。そこには数人の帝国兵がいた。彼らも協力者とのことだ。そのうち一人がクラスメイトたちの前に出た。


「紹介するわ。こちらがバスティアン」

「バスティアンだ。よろしく頼む」

 体付きの良い帝国軍人だと思う。顔立ちも良い。何より、身のこなしが優れている。頼れる男なのだろう。


「聞いていると思うが、大悪魔との戦いに参加してもらう。決行は今夜、この屋敷のパーティー会場で。各自、準備にかかれ」

「「「はい!」」」

 全員で答え、各班、準備に取り掛かった。


 俺はいつも通りミストロア王国のメンバーで固まった班になった。ジャックとリリィ、そして今回はサナ王女がいる。大悪魔が正体を現した時に逃げ道を塞ぐため、各班で持ち場が作られた。


 夜になり、バスティアンが小綺麗な格好をした中年男性をパーティー会場に招き入れた。しばらく軍事の話や、他国に展開した部隊の話をしていた。


 しかし、夕食をメイドが下げていった辺りで、中年男性が切り出してきた。


「ところでバスティアン殿。私が招待された理由は、あなたの部隊に回す武器開発の話だったと記憶しておりますが」

「ええ、その通りですよ」

「なら、なぜ武装した士官候補生を周囲に待機させていらっしゃるのかな?」

 バレている! 緊張感が増したのが感じられた。ふと横を見ると、ジャックとリリィは息を飲んでいたが、サナ王女は冷静な顔をして様子を伺っていた。


「なぜだと思われますか?」

 バスティアンは立ち上がり、剣に手をかけた。


「おやおや、あなたも物騒ですな。帝国内の有力貴族である私にこのような愚行、後でどのような処罰が下るか」

「処罰は下りません。なぜなら、これは破壊神トコヨニの残党狩りですから」

「くっくっく、調べはついているということか。良いだろう、出て来たまえ、候補生諸君!」

 中年男性は周囲に聞こえるように大声を発した。


 バスティアンがこちらを見て頷く。合図した相手はサナ王女のようだ。サナ王女は俺たちに姿を晒すよう促した。全員で姿を見せ、中年男性を取り囲む。


「此度も私が最初の標的か。確かに私はトコヨニ様の配下の生き残りでは最弱。毎回のようにチーム結成のための最初の相手とされ、その度に封印されて来たが……」

 中年男性、いや大悪魔は身の上話をした。弱いからこそ、創造神サカズエ側に利用される存在だったということだ。


「少し慢心が過ぎるのではないかね? 私も封印されている間、何もしていないわけではない。以前より遥かにパワーアップしているぞ!」

 中年男性の身体から赤い光が漏れ出る。その光は段々と大きくなり、男性の身体から抜け出し、別のモノへと変わった。


 巨大な体躯、筋骨隆々な身体、禍々しい翼、顔には口がなく、代わりに腹に大きな口がついている。身体から周囲に吹き荒れ始めるその闇の魔力は、一度ふるえば街ごと吹き飛ばしてしまうと思わされる存在感だった。


「ひぃぃ!?」

「ば、化け物!?」

 禍々しい姿に、恐怖の声を上げるクラスメイトも少なくない。


「我が名は大悪魔ジャークゼン! 嬲り殺しにしてくれるぞ、ひ弱な人間ども!!」

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