第3話 『少女愛』の悪役
「ところで、私たちはどこに向かっているのでありますか? 殺人現場とは方向が違うようでありますが」
「そろそろ目的地に着くよ」
ここトボス・シティには大小様々な組織が点在しており、その中には
『少女愛』の
僕たちが追っている『燃焼』の
その顔と悪望能力は判明しているが、拠点が分かっている訳ではない。情報を集める必要があった。
ヨーヨー・ファミリーはメイソン・ヒル地区を支配下に収めているマフィアだ。僕たちが知らない情報を握っている可能性がある。
彼らにとっても
「着いたぞ」
僕たちは大通りに面した高層ビルを見上げていた。
こうしてマフィアが堂々と表立って拠点を構えている時点で、この街の治安は推して知るべしといったところだ。
アレックスは驚きのあまり、口をパクパクを開閉させている。
数秒間溜めたあと、叫んだ。
「ヨーヨー・ファミリーの本拠地ビル! マフィアじゃないですか!」
「アレックス、職業差別は良くないぞ。彼らはマフィアはマフィアでも正義?寄りのマフィアだ」
「良いのでありますか!? トウドウ副局長に怒られるのでは!?」
「
アレックスは絶句した。
殺人に忌避感は無いのに、マフィアのような評判の悪い組織と関わるのは嫌なのか。アレックスに限らず、
「入るぞ」
「あ、置いていかないで欲しいであります、ハル先輩!」
僕はスタスタとビルの中に入っていく。
ビルの中はスーツを着た強面たちでいっぱいだった。
見た目からは分からないが、この中には恐らく
僕は全く臆すことなくエントランスホールを突っ切ると、受付の中にいる強面に話しかける。
「ウーロポーロ・ヨーヨーはいるかい? ハル・フロストが来たと言えば分かる」
「ああっ? ……ちょっと待ってろ」
受付の強面はこちらをちらりと見ると、ウーロポーロに連絡を始めた。
アポイントメントは取っていないが、僕とアレックスは
受付の男がウーロポーロと数十秒のやり取りをしたあと、アゴをクイッと上げるジェスチャーをした。
「エレベーターで最上階に上がれ。ウーさんがお待ちだ」
◇◇◇
僕とアレックスはビル最上階の豪奢な部屋に通された。
マフィアのボスの部屋といえばこんな感じだろうというイメージそのまんまの部屋だ。
高級そうな家具がところどころに配置され、部屋の真ん中にはどでかいソファとテーブルが鎮座している。
そのソファに、『少女愛』の
金髪碧眼の痩身痩躯の男だ。眼光こそ鋭いが、それでも一目見ただけではマフィアのボスだとは全く分からない。
「やあやあ、よく来たネ、ハル。座りたまえヨ」
「久しぶりだな。ウーロポーロ」
僕たちは進められるがままにソファに身を沈めた。
「良い茶葉が手に入ったんダ。ゆっくりしていきたまエ」
「ああ、これはご丁寧にどうも」
らしくもなく僕は少し緊張していた。震えた手で差し出されたカップを手に取り、紅茶を飲む。
ウーロポーロは見た目だけは優男だが、内実はトボス・シティの中でも一二を争うほどの実力を持った
この部屋には10人程度の男たちが護衛として壁に沿って立っていたが、これがたとえ1000人だったとしてもウーロポーロ1人のほうがよほど怖い。
世間話も良いが、用事を済ませててっとり早く退散したいところだ。
僕は早速要件を切り出した。
「『燃焼』の
「構わないヨ。ワタシとしても助かる話だネ」
ウーロポーロは優しく微笑むと、快く承諾してくれた。
僕はホッとした。どうやらあまり話がこじれずに進みそうだ。
しかし、こうやって安堵した時にこそ問題はやってくるものだ。
「ただし、条件があるのサ」
「条件?」
瞬間、何も起きていないのに、部屋の温度が数度下がったような感覚を覚えた。
目の前の
僕は勘違いをしていた。
ブラハードが焼き殺したのは16歳の少女だった。
つまり、『少女愛』の
「ブラハード・ローズは殺したまエ。それが情報提供の条件だヨ」
「…………あ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます