第037話、聖女=美女ではない


 なんとか無事に? 【聖女】認定の儀式は終了した、幹部のキャラは濃いし威圧感あるしなんか疲れた、治癒師協議会での儀式のあと俺はすぐに帰ろうと思ってたが、二人が帰りたがらない。


「せっかく来たんだからショッピングしましょう★ セクシーな服とか選んで欲しいな★」


「ワシはあれが食べたいぞ! 60分の大食いチャレンジ!」


 しかも二人とも行き先がバラバラじゃないか、俺は帰るから二人で観光したら? と俺は提案したのだが。


「「一緒に行くの!」」


 圧がスゴいよ、それから二人に連れまわされていろんな店に行った、洋服屋では親子に間違えられるし 『ネネタン→妻、エステン→娘』 いやいやいや、勘弁してくれ俺はまだ独身です、店員さんにおだてられてネネタンは調子に乗って抱きついてくるし、いつ毛だるまにしてやろうかと殺気を漏らしてしまった。


「あなた~★ 似合うかしら?」


 うんうん、毛むくじゃらのアクセサリーを全身に加えたらもっと似合うと思うよ、俺が付けてあげようか?


 大食いチャレンジ店ではエステン師匠が巨大なお子さまランチに挑戦していた、たしかに内容はお子さまランチみたいだがバケツみたいなグラス? に入ったジュース、俺の腕くらいあるエビフライ、俺の顔くらいあるハンバーグ、どこがお子さまやねん! ツッコミどころ満載なメニューだった、味はかなり美味しいらしく、エステン師匠はとても大喜びだった。



「うまいっ! うまいっ! うまいっ! うっまーいっ! 完・食・じゃー!」


 すっげぇ、エステン師匠のお腹がバランスボールみたいになってる、え? なに? おんぶするの? 俺が? 歩けないんかいっ! しかたなく俺の背中にエステン師匠を乗せる、そこ(ネネタン)! 羨ましそうに見るな!


「おぅっぷ」


 ちょっ! 頼むから俺の背中で吐くのだけはやめてね、限界の前に言ってね、すぐにネネタンにパスするから。


 ドタバタしながら都会での一日は終わった、家に帰り着くなり俺は布団に潜り込むんだ、疲れたな~…… ぐ~……



***



 翌日、治癒院へ出勤してイワ先輩と院長へ協議会での内容を報告した、院長は政治的な面には強いので【聖女】となった経緯をすぐに理解した。


「なるほど、まぁそれなら仕方ないですね、街の発展のためよろしくお願いしますよ、【聖女】サルナス君」


「はぁ、具体的にはこれからどうしたらよいのでしょうか?」


「普段通りでいいですよ、ただし重傷者や他の治癒師の手に追えない出来事があればサルナス君に活躍してもらいます」


 手に追えない出来事…… 前みたいに魔物相手とかだろうな、あの時は黒いモヤを吹き飛ばしたことでなんとか解決したけど、特訓でもっと強い魔物でも相手にできるように奥の手を用意したから今度は手こずらないぞ。




***



 まぁ、【聖女】の称号をもらって俺なりに張り切ってはいたのだが、そうそう問題が起こるわけもなく認定の儀式から数週間が経過した、街は平和だ。


 俺が【聖女】になったからといって魔物がわいて出てくるわけでもないしね、平和ならそれでいいんじゃない?


 こういうのを*フラグ*というのだろうか、俺の平和を脅かす存在が近づいていることに俺は気づかなかった。



***



 街の入り口付近に二つの影あり、なにかを話している。


A「この街に【聖女】がいるんだな?」


B「そのようです、うわさでは最近【聖女】になられたとか」


A「どんな美人かなぁ~ 早く会いたいなぁ~」


B「顔が崩れてますよ、もっと威厳をだしてキリッとしてください、それからシャツのボタンはきちんと閉める、あと髪も整えて、歯は磨きましたか?」


A「……お前は俺のなんなんだ? 母親か?」


B「似たようなものです、なんなら夜は子守唄でも歌いましょうか?」


A「そんな野太い声の子守唄なんぞ、聞きたくないわい、無駄にいい声なのが逆に腹が立つ!」


B「あなたも昔は可愛らしい子どもでしたのに、いつからこんな軽薄なチャラ男になってしまったのか…… お母さん悲しいっ!」


A「誰がお母さんだっ! 気持ち悪いんだよ!」


B「では改めまして…… お父さん悲しいっ!」


A「あーもう! うるさいなぁ! 街に入ろうぜ」


B「はい」


 どうやら芸人さんのようである、聖女のうわさを聞きつけて会いに来たみたいだが、話しぶりから『聖女=美女』という認識のようだ。 実物を見たらショックをうけるだろうなかわいそうに。


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