第022話、えすえむはダメだって


「ん…… あれ? どうしたんだっけ?」


気がつくと、俺は暗い部屋にいた、あまり広くはないようだ、暗くて全体はよく見えない、俺は椅子に座っているのか? なんかまだ頭がボーッとする。


「んん、動けない、縛られてる? どうなってる?」


椅子にロープで縛られているようだ、動けない、手足も縛ってある、股のところにもロープが巻き付いている。


「気がついたか?」


顔をあげると、エステン師匠が上の方から俺を見下ろしている、エステン師匠の足元には台があり、それに乗っているようだ、少し間抜けな絵面だ。


「……変態師匠」


「だから、変態ではない!」


「とぼけないでください! この縛り方はプロの縛り方です、この股の部分を固定しているロープなんて、普通には無い縛り方法です!」

キリッ!


「……詳しいのぉ」


「たまたま拾った本で見ました!」


「お前はよく本を拾うのぉ、そういう習性なのか?」


「たまたまです!」


「この縛り方は知り合いに教えてもらったのじゃ、相手を説得する時に効果的だとな」


「誰ですか!? そんなこと教えたの?? 幼女にそんなことを教えるなんて、違う意味で犯罪ですよ!」


(とんでもないことを教える人がいるな、そういや初対面の時も妹がどうのと、変なこと言ってたし、それもその人の入れ知恵か?)


「幼女ではない! ワシは治癒魔法以外にはあまり興味がなくての、その者はワシの知らない方面にとても詳しいのじゃ」


(どんなやつだよ、そいつも変態か? 事案だらけだよ、通報してやろうか)


「男を虜にするには、多少強引な方法も必要じゃと、その者は言っておった、『男を魅了するテクニックは私にお任せです~』とな」


(なんか、どこかで聞いたこのある口調だな、というかそいつって女?)


「その人って女の人なんですか!?」


「ああ、そうじゃ、前から親しくしておる女じゃ」


(女かよっ! どんな変態女だよ! いらん知恵を授けやがって!)


「……その手に持ってるのは何ですか?」


「これか? これはな」


ピシッ! パシッ! とエステンはムチで地面を叩く、乾いた良い音が暗い部屋に響く!


「ムチじゃ!!」


「やっぱ、変態じゃねーか!」


「男はこの音が好きなのじゃろ?」


エステンは頭に『?』を浮かべて、不思議そうな表情をしている。



「……どこから説明したらいいのか、、、」


「えっ? えっ? 嘘なのか? 男がこの音を好きで、音を聞いたら落ち着くというのはまったくのデタラメなのか?」


「まったくのデタラメ…… ではなく、一部の男がその音を好きなのは本当です。 けれど俺は好きではありません」


「そうなのか」


エステンはガッカリした表情をしている。


「お前が喜んでくれるかと思ったのじゃが……」


エステンは暗い顔をしている。


「あ~… その、話も聞かずに逃げようとしたのは謝りますよ、すみません、けどその女の人が言うことはあまり信用しない方がいいですよ」


「そうか、、、 このシチュエーションなら男はなんでも言うことを聞いてくれると教えてもらったのじゃが」


「その人の言うことは聞いてはダメです!」


(ダメだ、誰かは知らないが、悪影響しかない!)


「でも昔から話もよく聞いてくれるし、ワシにとって唯一仲良くしている友達なのじゃ」


「では、今度その人に会わせてください」


「怒らないか?」


エステンは可愛い顔をしてチラッと俺に視線を向ける。


「……善処します」


(その顔を向ければ、たいていの男は言うことを聞きそうだけどな)


「とにかく、このロープをほどいてください、もう逃げませんから」


「ほんとに?」


「はい、ちゃんと話を聞きます」


「ほんとに逃げない?」


「はい」


「逃げたら、このムチとロープを持って、"お、お兄ちゃんが……" って泣きながら衛兵に話してもいい?」



「やめてください! それもその女の人に教わったんですか?」


「うむ、こう言えば逃げない、と教えてもらった」


(とんでもないことを教えてるな)


「ちゃんと話を聞きますから、早くほどいてください」


「わかった」


エステン師匠は俺のロープをほどいていく。 まったく、散々な目にあったな。


「それで、実際はどうなんですか?」


「うむ、まぁ、実験をお願いしようとして、拒否されて、を繰り返して治癒院を追放されたのは本当じゃ」


「それで?」


「ワシの上司がケチでのぉ、謝って許してもらおうとしたのじゃが、聞く耳を持たなくての」


「変態な性癖というのは?」


「それは違う、あくまで治癒の魔法を発展させるための実験じゃ、お前も読んだ『治癒っちの大冒険』のように発展させれば、重傷者を救う事ができる!」


「なるほど、それが理解されず、他者には変態だと見られたわけですね」


「そうなのじゃ、だれもわかってはくれん」


「それで、あの本を理解した俺に声をかけたんですか?」


「ツルンからお前はお人好しだと聞いたし、お願いしたら身体をいじらせてくれると思って」


「はぁ? ツルンさんって、冒険者ギルドの?」


「あ、しまったのじゃ」


エステンは『あっ!』という表情をした。


「なるほど、黒幕はツルンさんですか、それに身体をいじるとは?」


(まったく、たしかに変な妄想をして笑ってたな)


「えーと…… 肉体改造というやつじゃ、筋肉を強化し、内臓にも魔法をかけることによって、病になりにくくなる、理論上は無敵の身体になるのじゃ」


「理論上は? 成功例は?」


「その実験を治癒院で拒否されたのじゃ」


「ん~、、、 その実験はまだ怖いので、しばらくは保留で、それから明日にでも冒険者ギルドに行きましょうか、ツルンさんに話があります」


「わ、わかった、穏便にお願いするのじゃ」


今日はここまでとして、家に帰宅する。 明日の仕事が終わったら冒険者ギルドに行くか。


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