第015話、訪問1件目、少し専門的な話です。
トッキーさんと共に訪問治療の1件目に到着、平屋で、年数はそれなりに古そうだが、立派な家だ。 家に入る前に患者さんについて説明をうける。
「ここは、寝たきりではないけどあまり活動的ではない男性が奥さんと二人で住んでいます、70歳です」
「はい」
「では…… こんにちはー!! ノキさーん! 訪問治療でーす!」
玄関の前に立ち、トッキーさんはいきなり大きな声で呼び掛ける、突然だったので俺はびっくりした。
(声でかいなっ! 先に言って! 大声を出すからって)
「ここの二人は耳が遠いから大声でないと、聞こえないの」
しかし、反応がない、誰も出てこないし。
「留守ですかね?」
「たぶんいると思うけど、聞こえないのかも、裏に周りましょうか」
家の裏へ周り込んでみる、奥さんと思われる女性が掃除をしているのが見えた、いるじゃん。
「こんにちはー!」
女性に見えるように手を振りながら、トッキーさんは大声で挨拶をした、今度は気づいた。
「あ~、こんにちは、今日は診察の日だったかね?」
「はい! 今日は男性の治癒師さんも連れてきてます!」
「あら、今日は二人も来てくれたの? ありがとう」
「こんにちは! よろしくお願いします!!」
(あんまり大声で話すことがないから、慣れないな、話すだけで疲れる)
奥さんに案内され家の中に入ると、男性がベッドに寝ていた、顔はこちらを向いているが、俺たちを見ても特に反応無し、トッキーさんはここでも大声で挨拶をする。
「ノキさん、こんにちは!」
「あ~?」
トッキーさんが挨拶すると、男性は面倒くさそうな声を出す。 名前は『ノキ』さん、第一印象は偏屈そうなじじい、こちらが挨拶をさてるのに、挨拶を返さない、白髪で、少し痩せぎみ、背は高いようだ、足がベッドから少しだけはみ出てる。
「診察に来ました! 今日は男性の治癒師さんも連れてきました! よろしくお願いします!」
「こんにちは! サルナスです!」
「は? 帰れ!!」
俺が挨拶するといきなり、怒鳴られた、そんな怒鳴るなよ、なぜ人は年を取るといきなり怒鳴り出すのだろう、特に男はすぐ怒鳴る、とりあえず俺はだまって様子を見守ろう、トッキーさんが聞き取りを行う。
「そんなこと言わずに! 最近の調子はどうですか?」
「変わらん! 帰れ!」
なだめようと、トッキーが柔らかく話しかけるが、反応は悪い、寝たまま起きようともせず、そのままの姿勢で返事している。
(うわ~、見本のような、クソジジイ)
「あなた、そんなこと言わないで診てもらいましょうよ、お尻が痛いって言ってたじゃない」
「うるさい、余計なことを言うな!」
夫婦ケンカはやめて、奥さんは穏やかそうなのに、なんで旦那は偏屈なんだ、痛みがあるならちゃんと言えよ。
「お尻が痛むんですか? いつから?」
「ここ数日なんですけど、痛いって言うけど見せてくれなくて」
「わかりました、ノキさんお尻だしましょう!」
「男のケツをみてどうする? スケベな女だな!」
奥さんからお尻を痛がっている情報を得たが、ノキさんは見せてくれそうにない、この発言はセクハラではないだろうか、誰もじじいのケツを好き好んで見たくて言ってるわけではない、仕事なんだよ、俺はイライラしながら、思わず声をかける。
「まぁまぁ、じゃあ僕が診ましょう! それならいいですよね?」
(どうも、男尊女卑な感じがする、もしかしたら俺になら見せてくれるかも)
会話の途中で横から悪いとは思ったが、思わず声をかけた、ノキさんは無言だ。
「……」
「すぐに終わりますから、確認して治療したら痛みもなくなるし、楽ですよ、ね?」
「……」
ノキさんは無言だが、拒否もしないので、了解と受け取ろう、面倒なタイプだよな。
「じゃあ、確認していきますね、、、 ん~皮膚が赤くなってますね、それと少し皮もむけてます」
「これは "褥瘡(じょくそう)" ね」
トッキーさんがお尻の状態について、説明してくれた。
「じょくそう? 怪我とは違うんですか?」
「一般的には "床ずれ" と呼ばれることが多いの、怪我との違いとしては、怪我の場合は、例えば腕をどこかにぶつけた傷、刃物で切ってしまった傷など」
「はい」
(治療院で治療するのはこの場合がほとんどだな)
「褥瘡(じょくそう)の場合は、ぶつけたり切ったりが原因ではなく、栄養状態の低下、長時間ベッドに寝ることからくる皮膚に対する圧迫、布団やベッドと皮膚との摩擦、骨が突出している部分に集中的にかかる圧迫、まだ他にもあるけどね」
「はぁ~」
(そんな違いがあるのか、褥瘡って原因がいくつもあるんだな、奥が深いな)
「さわるとよくわかるけど、お尻の上の方、ここは "仙骨(せんこつ)" といって、この部分は特に骨が突出してるでしょ? こういう部分は褥瘡になりやすいの "好発部位(こうはつぶい)" と呼ばれる部分で、他にも肩甲骨、背中、肘、カカト、が褥瘡になりやすいし、それ以外でも寝る体勢によっては違う好発部位もあるのよ」
「それ、、、全部覚えてるんですか?」
(何も見ずにスラスラ答えてるけど、覚えてるの?)
「全部、ではないけどね、ある程度は覚えておかないと患者さんに説明ができないから、治療だけでなく原因を追求して場合によっては生活習慣などを指導したりするのよ」
「はぇ~」
(なんか、治癒師って治療だけしてたら良いと思ってたけど、まだまだ勉強不足だ)
「では、治癒魔法をかけておきましょう、サルナスさんお願いできるかな? もっとひどい場合は違う魔法も必要だけど、これくらいなら魔法は怪我の時と同じでいいから」
「はい、わかりました、ケガナオール!」
俺は赤く皮膚がむけた部位に手をかざして治療魔法をかけた、みるみる皮むけが治り、皮膚の赤みもなくなっていく。
「あ~よかった、ありがとうございます」
奥さんは嬉しそうにお礼を言ってくれた、それに比べて旦那は。
「……」
「ノキさん、またベッドに寝てばかりいたんでしょう! 歩けるんだから散歩したりとか、奥さんと出掛けるとかしてくださいって前にも言いましたよね? あと好き嫌いせずに食事してくださいとも、言いましたよね?」
「知らん!」
トッキーさんが注意すると、ノキさんはそっぽを向いて、知らん顔する、態度が悪っ!。
「知らん、じゃありません、寝てばかりいるとそのうち寝たきりになってしまいますよ、ひとりで動けなくなったらどうするんですか?」
「めんどう!」
「軽く家の周りを散歩するだけでも違いますから、歩いてください!」
「ふんっ!」
ノキさんは聞く耳をもたないようだ、トッキーさんの言うことにいちいち反発してくる。
「では、今日はこれで失礼しますね」
「はい、ありがとうございました、すみませんね、態度が悪くて」
奥さんはノキさんの態度について、謝罪する、奥さんは謝らなくていいよ、あのじじいが悪い。
「いえいえ、いつものことですから、まぁ少しでも歩いてくれるといいんですけど、ではまた来ますね」
挨拶をして、家を出る、トッキーさんは最後まで優しい雰囲気で話していた。
***
「ノキさんは散歩するでしょうか、難しそうですね」
「根気よく説得するしかないかな、奥さんが優しいからノキさんも甘えてしまうのよね、短期間では難しいから長い目でみて対応していくことが必要かな」
その場だけではなく、長期的な関わりが重要なんだな、治癒印ではその場その場で対応して終わりとかだもんな、次の訪問先はどんなだろう、俺はそう思いながら次の訪問先へ向かった。
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