第014話、訪問治療ってなに?
さて、冒険者ギルドを出て、適当に昼御飯をすませ、午後からは治癒院へ出勤だ、なんだけど到着したらいきなりイワ先輩が素早く詰め寄り、睨んできた、俺なにかしたっけ?
「お疲れさまです、冒険者ギルド行ってきました」
「サルナス君、聞きたいことがあります!」
「また俺なにかやっちゃいました?」
「あ・た・ま、、、 院長の頭!」
「? あ~!」
その件か、あれ? 前に院長と話をしたとイワ先輩には伝えたはずだけど、いまさら? イワ先輩を見ると鼻息が荒く、興奮している様子。
「やっぱり! サルナス君の仕業ね! 院長に会ってビックリしたんだから、あのハゲ散らかっ……いえ、寂しかった頭部が賑やかになってて……ブフッ! んんっ! 院長はやたらニコニコしてて、妙にご機嫌だし、挨拶に行って吹き出しそうになったんだから!」
院長の頭を思い出しているのか? イワ先輩は少し吹き出しそうになっている。
「昨日、院長と俺が使った魔法について話をして、その時に魔法を見せてほしいと頼まれて、ピカーッとやっちゃいました」
「魔法の話って、黒い瘴気を払ったやつじゃなかったの?」
「あ、その話はしてませんね」
なんだろ? 呆れた~ という表情だ、なんか話が食い違ってるな、お互いに勘違いしてたんだな、今度は怒りだしだぞ。
「……まったく、院長は事の重大さがわかってない、後でしっかり説明しておかないと!」
院長は治癒師ではないので、治癒魔法についての考え方に違いがあるのだろう。
(何気にイワ先輩って、治癒院の古株っぽいよな、院長ともよく話してるみたいだし、意外と見た目よりも年齢が……)
考え事をしながら、イワ先輩のことをジーッと見ていると、俺を見る目が変わってきた、キラーンッ! という目をしている。
「サルナス君、、、 なにか言いたいことでも?」
イワ先輩の背後に鬼神のオーラが宿っている、イワ先輩は笑顔なのに、俺はなぜこんなに冷や汗が出るのだろう。
「いえ、なんでもありません」
ニゴッ
では、気を取り直して話を戻しましょう。
「……それで冒険者ギルドではどうでした? サルナス君の魔法について、調べるって聞いてるけど」
「それなんですが、魔力は基準より高いみたいです、それ以外はあまりよくわかりませんでした」
「高いってどのくらい?」
「それが…… 高いことはわかったんですけど、具体的にどのくらい高いかは結局わかりませんでした、今後も観察するって、問題を起こさなければそれでいいって言われました」
「まぁ、問題は、、、 起こしてないわね、びっくりすることが多くて私のか弱い心臓がダメージを受けているくらいかしら」
イワ先輩は自分の胸を押さえて呟いた、か弱いのだろうか、認識の違いかな、俺にはそうは思えないが。
「か弱い?」
(なに言ってんだ? この人)
「"か・よ・わ・い・私" の心臓と共に精神もたいへんお疲れですよ、何か異論がありますか?」
「……いえ、ありません」
ニゴッ
だんだん、イワ先輩のイメージ変わってきた、最初は清楚で穏やかで優しい感じだったけど、よく観察してると表情がコロコロ変わり、喜怒哀楽が意外とハッキリしている、そらが面白いと感じている、イワ先輩も徐々に素が出てきてるのかな。
「また何か、失礼なことを考えてない?」
イワ先輩はチラッとこちらを軽く睨む、勘が鋭い。
「いえ、とんでもないです」
(怖っ! 俺って顔に出やすいのかな、それともこれが噂の "女の勘" というスキルだろうか、治癒師と同様に女性にのみ現れるというある意味、魔法のようなスキルだ)
「なんとなくその顔は気になるけど、まぁいいわ、午後からの治療だけど……」
「はい、今日は患者さん多いですか?」
「患者さんは、まぁまぁ予約が入ってるんだけど、サルナス君は別のところに治療に行ってほしいの」
別の"ところ"? 違う場所で治療するのか?
「別のところ?」
「訪問治療よ」
※ 訪問治療とは、足腰が弱っている、寝たきり、家が遠い、などの理由により治癒院へ来ることが難しい患者さんに対して、治癒師が家まで訪問して治療をすることである。
「なるほど、そんなやり方もあるんですね」
気づかなかった、というか気にしてなかった、たしかに動けない人もいるはずだよな、そこに行けと? ひとりでかな?
「今日は午後から二人予約があるの、それでいきなり1人では場所や対応方法とか、わからないと思うから、別の治癒師と一緒に行ってほしいの」
「わかりました、治癒師さんはどなたですか?」
「いま呼んでくるわね」
イワ先輩はどこかに行き、治癒師さんを連れて戻ってきた。
***
連れてこられた治癒師さんは、背は低い方かな、髪はパーマ? フワフワしてるというかモコモコしてる、体型は普通、鼻に特徴がある、なんとなく動物っぽい鼻だ、これは言わない方がいいだろう、気にしてるかもしれないし。
「初めまして、治癒師の 『トッキー』です、主に訪問治療をメインにしています、今日はよろしくお願いします」
ニコッ と人懐っこい感じの笑顔だ、丁寧な挨拶、好感のもてる女性だ。
「初めまして、サルナスです、訪問治療は初めてです、よろしくお願いします」
ニゴッ と俺は相変わらず少しキモい笑顔だ、わかってる、何も言わないて、いいです。
「ん~……」
トッキーさんは少し苦い表情をしている、俺のぎこちない笑顔のせいだろうか。
「えと、笑顔がキモくてすみません……」
「あ、いえ、その、大丈夫です、笑顔は技術です、これから治ります!」
(なんか、病気みたいな言われ方してる…… 地味にショックだ、笑顔が素敵になる魔法とかないのだろうか)
「では、訪問治療についてですが、治癒院での治療と違って、訪問治療の場合は患者さんの自宅へ行きます、つまり場所は患者さんのテリトリーになります」
(まぁ、そうだよな)
俺は何を当たり前のことを言ってるのか、と思った。
「患者さんは自分のテリトリーにいて、周りも家族という味方ばかりの状況です、なのでこちらに対して横柄な態度に出る方もいます、もちろん優しい方もいます」
トッキーさんは真剣な表情で説明してくる。
「治癒師として堂々とした態度で接しつつ、相手を刺激しないような関わり方が望ましいです、あと治癒院では補助員さんが事前の聞き取りをしてくれますが、訪問では基本的に自分で聞き取りもします」
(フムフム、まずは聞き取りからするんだな、相手の懐に入るためにはトッキーさんのような人懐っこい笑顔が武器になりそう、することは治癒院より多そうだな)
トッキーさんの説明を聞きつつ、俺は頭の中で訪問をイメージしていく。
「あとは現場で説明します、一緒に治療していきましょう」
「はい、よろしくお願いします」
俺は少し緊張しながらトッキーさんの後をついて行く。
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