第002話、冒険者ギルドで転職だ! 研修一日目
2022/03/02、修正してます。
俺は朝から冒険者ギルドの前に来ている。
「ここが、冒険者ギルドかぁ」
結局あれからヨシムさんが辞めた後に、俺も退職を申し出た、特に引き止められることもなくあっさりと退職できた、皆から引き留められてたヨシムさんとはえらい違いだ、まぁ俺は期待されてなかったしな。
***
心を落ち着かせて、冒険者ギルドの扉を開く、朝から多くの人で賑わっている、強そうな人が多い、俺は緊張しながら受付に向かった。
受付Aさんは明るい笑顔で挨拶をしてきた。 スラッとした女性だ、可愛いという印象だが、目つきがなんとなく怪しい雰囲気がする、少し寒気も感じる、なぜだろう。
※ 受付Aの名前は後日の話で出します。
「ようこそ、冒険者ギルドへ~、初めての方ですね、登録ですか~?」
「はい、よろしくお願いします」
俺も挨拶を返すと、受付Aさんは紙を机の上に出してきた。
「こちらの紙に記入をお願いします~」
どうやら名前や前の職業等を書き込む履歴書のようなものだ。 俺は間違えないように気を付けながら、書いていった。 受付Aさんは俺と紙を見比べている。
「えーと、名前はサルナスさんですね、以前は魔法道具を作ってた、体格はまぁまぁ、顔つきは、、、あまり強そうではないですね~、大丈夫ですよ、依頼は様々ですから~」
(顔つきで強さがわかるのか? なんかダメって言われてる気がする)
次に受付Aは水晶を机の上に出してきた、透明で透き通っている、大きさは片手に乗るくらいだ。
「適正を調べるために、この水晶に手をおいてくださ~い」
受付の女性が手を置くように促してくる、俺は片手で水晶の上に手を置く、ひんやりと冷たい感触だ。
「これでいいですか?」
「ではリラックスしてくださ~い」
水晶は光り出し、受付側に何か浮き出ている、文字のようだが俺の方からはよく見えない、周りに情報が漏れないようにとの配慮だろう。 その文字を見ながら受付Aさんは困惑した表情をしている。 何か問題でもあったのだろうか。
「ん? ん~、、、 あれ~?」
「どうかしました?」
(えっ? まさか俺には適正が無いとか?)
そんな顔されると、俺も不安になってくる。 そして受付Aさんは顔を水晶から俺の方へ向けて、変なことを言い出した。
「……サルナスさんは女性ですか~?」
「いや、男ですよ、見ての通り」
(何言ってんだこの人)
受付Aさんはまだ困っている表情だ。
「ですよね~ じゃあこれって、、、ちょっと待ってくださいね~」
受付Aさんは奥の部屋にバタバタと走っていった。 俺は困惑しながら、受付でそのまま待つ、数分後、受付Aさんはもう一人の男性を連れて戻ってきた。
(あれ? もう一人連れてきた)
「お待たせしました~」
受付Aさんが連れてきた男性が俺に話しかけてくる。
「あなたがサルナスさん? ん~男性ですよね?」
先程と同じ質問をされた、どう見ても男なのに、さっきからなんなのだろうか。
「はい」
「鑑定士のワンといいます、実は水晶での鑑定に不備があったようで、私の魔法で鑑定させていただいても、よろしいでしょうか?」
「あ、別にいいですけど」
鑑定士は俺に向かって手をかざし、鑑定魔法を行った、鑑定の結果は意外なものだった。
「鑑定! ん!? これは、、、どうやら水晶は間違ってはいないようです、あなたには "治癒師" の適正がありますね」
鑑定の結果が不思議に思われた留学は "治癒師" という職業にある、俺が知ってる範囲で "男の治癒師" はいない、もしかしたら知らないだけで、実はいるのかな。
「治癒師? 俺にはそんな適正が、でも男の治癒師って聞いたことないような」
受付Aさんも、同じ意見のようで、説明してきた。
「それはそうですよ~、女性に出る適正です~、男性にはいません」
「えっ! そうなんですか?」
それなら俺はどうして適正が出たのだろう。
「はい~、大昔の記録には存在した"らしい"という話もありますが、私の知る限りでは男の治癒師はいません~」
受付Aさんの説明によると、この世界では治癒師は女性だ、それが当たり前、優しいイメージが強く、男性に人気で、一部では天使とも言い表されている、最高位の治癒師は"聖女"と崇められることもあるらしく、地域によっては信仰の対象にもなりうるらしい。
「最初は水晶の故障かと思ったんですが~」
「俺が治癒師? でも俺は男ですよ、そこに間違いはないです」
俺は生まれた時から男だ、まさかいつの間にか変化したのか? 俺は少し混乱している。
「そうなんですけど~、水晶でも鑑定魔法でも治癒師と出たので、こちらも間違いないと思います~」
俺が考え込んでいると、受付Aさんは研修の提案をしてきた。
「とりあえずギルドで研修を受けませんか? 新人さん向けにここで研修を行っていますので~」
「ぜひお願いします」
俺は即答して、研修に申し込みをした。
「わかりました~、では明日のこの時間にギルドに来てください~」
「わかりました」
俺は冒険者ギルドを出て、家に向かった。
***
帰宅、俺は椅子に座り、ボ~っと考えている。
「まさか"治癒師"に適正があるとはなぁ、でも女性だけの仕事なんだよな、男の俺にやっていけんのかな… 一応テキストをもらったけど」
俺は冒険者ギルドでもらった入門テキストを手に取り、ざっと読んでみる。
【治癒師入門! 基礎の基礎!】
『まずは怪我の治癒魔法です! 怪我を治すには慈愛の心を持ち、傷を治したいと切に願い、祈りを込めます、その心に神が答えてくれるのです!』
「なんか曖昧な内容だな、具体的にどうしたらいいんだ? 明日の研修に行けばわかるか、今日はもう寝よ、ぐ~」
俺はテキストを放り投げ、布団へ寝転がり、そのまま眠りにつく。
***
冒険者ギルドにて、研修 一日目
冒険者ギルドの裏には訓練用の広場がある、ランクアップの試験や、今回のような研修など、いろんな目的で使われてるらしい。 広場に入るとにたくさんの人が集まっている、俺は以外はみんな女性だ。
(うわっ! ほんとに女の人ばっかり)
俺が広場に入ると、視線が一気に集まる、それはそうだ女性ばかりの所へ男が入ってきたのだから。
"ヒソヒソ…… なんで男がいるの? 男に見えるけど、実は女とか?"
ひそひそ声が聞こえる、恥ずかしくて俺の顔は徐々に赤くなっていく。
(視線が痛い… 男ですみません、あんまり見ないで)
***
最後に1人の女性が入ってきた、どうやら研修の講師のようだ、みんなに声をかけ、俺についても説明を始めた。
「えー、私がこの研修の指導員、ツッチーだ、まずは最初に、、、みんなとまどってると思うが、そこにいるサルナスさんは珍しく治癒師としての適正をもった"男性"だ、仲良くするように」
周囲がざわついている、更に視線が俺に集まる。
ざわ…ざわ…… ざわ…ざわ……
「えと、サルナスです、よろしく、、、お願いします」
(怖い、視線がひたすら怖い)
とりあえず挨拶してみた、特に反応もなく、視線は相変わらず怖い。 気を取り直してツッチーが研修を開始した。
「まずは私が見本をやってみせよう、サルナス君ちょっと前に出てきてもらっていいか」
ツッチーは笑顔で俺を呼び寄せる、これ以上目立ちたくないのに、なんで呼ぶのか。
「……はい」
「では、まず腕にサクッと傷をつける」
ツッチーは俺の腕を押さえて、大きくてよく切れそうなナイフを振りかぶる、俺は慌てて手を振りほどく。
「ちょっ! ちょおーー! ま、待って! なにするんですか!?」
ツッチーは冷静な目をして、たんたんと説明を始める。
「ん? 傷を治す見本だ、まずは怪我してる部分がないと治癒できないだろう」
それはそうだが、怪我した人とかを連れてくるとか、小さな針で刺すとか、他にも方法はあるのでは? なんでそんなに大きなナイフを使う? 怖いんだけど、俺は抗議した。
「いきなりですか! 俺に説明はなしですか! なに"当たり前だ" みたいな顔してるんですか!」
「うるさいなぁ、これぐらいでギャーギャー言ってたら治癒師なんてなれないぞ、ほらっ!」
素早く俺の手を捕まえてツッチーはナイフで切りかかってきた、スパッと腕に切り傷がつく。
「あ"ーーー! ほんとに切りやがったー!」
(お前はバカかぁ! 頭おかしいぞ!)
俺の叫びに対してツッチーは冷静に説明を続ける。
「時間が経つと治りにくくなるから、鮮度が良いうちに治癒魔法をかける方が効果的だ、遅いと傷跡が残ってしまう」
「痛ったーー! 鮮度って何だ! 魚じゃねえぞ、血! 血! 血が! 死ぬ! しーぬー!」
俺は痛みに弱い、だから争い事は嫌いだ、涙目になって、騒いでいると、ツッチーは変わらず冷静になだめてきた。
「はいはい、死なない死なない、よく見てなさい」
ツッチーは俺の腕に手をかざし、魔法をかけていく。
「ケガナオール」
すると俺の腕が輝き出して、切り傷が治っていく。 それを見ているみんなの目も輝いている。
「「おおー!」」
「こんな風に軽い傷ならすぐにきれいに治る」
「「はーい」」
みんなとてもステキな笑顔をしている、俺を除いて。
(治ったけど切る時は普通に痛いし、笑いながらとんでもないことするな、それを見て他のみんなも笑ってるし、怖えーよ! 治癒師のどこが天使だっ)
俺は憎々しい表情をして、ブツブツ不満をもらす。
「じゃあ みんなもやってみようか」
「「はーい」」
ツッチーはみんなで実践してみるように伝える。 なぜか、みんなは俺の方に向かってくる、俺は困惑し、恐怖を感じた。
「はぁっ!? なんでみんなこっちくるの???」
ツッチーがとても素敵な笑顔を俺に向けてきた。
「悪い、サルナス君、怪我人役よろしく!」
俺はその言葉に冷や汗をかきながら反論しようとするが。
「え、いや、その、、、」
うまく言葉が出ず、みんなの笑顔と勢いに押されてしまった。
「「よろしくお願いしま~す」」
・・・
***
帰宅、俺は散々な目にあい、精神的に疲労しきっていた。 帰ってすぐに布団に倒れ込んでいる。
「とんでもない目にあった、あれから切る→治すを何回くらい繰り返されたか、、、 おまけに何で俺の時は自分の腕に傷つけて自分で治すんだよ、おかしいだろ」
布団にうずくまりながら、みんなの笑顔を思い出し、青ざめている。
「みんな、ニッコニコの笑顔してるし、あの状況であの笑顔は逆に怖いわ! でも普段の研修なら女の人同士で傷つけて治してるんだよな、スゲーな治癒師って」
治癒師のイメージがわずか1日でかなり変わってきている。 明日の研修内容について、寝転がったままテキストを開く。
「たしか、明日は疲労回復の魔法だったかな」
【治癒師入門! 基礎の基礎!】
『疲労の回復魔法は慈愛の心を持ち、"元気になーれ!" と切に願う、その心に神が答えてくれます』
「……なんか表現が軽いな、"元気になーれ" って願うの? メイド喫茶みたいだけど、神様って怒らないのか? これもあまり具体的に書いてないし、大丈夫かな、、、 ふぁ~今日も疲れたし、眠くなってきた、、、ぐー……」
テキストを手に持ったまま俺は眠りについてしまう。
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