第27話 赤い石

身なりを整えていると、ベッドでミヅキが起きた気配がした。まだ、眠そうな彼女の傍に行き「おはよう」と髪をなぜながら声を掛けた。

すると、彼女は眠そうに顔をして起き上がった。その表情が愛らしく自然と顔が緩んだ。


「ふぇ……」


ミヅキの首には昨夜のことを物語る後が無数あった。今日から春休みと思ったら手加減ができなかった。

反省しつつ彼女の頭をなぜた。


「仕事ですか?」


可愛しい口が動いた。それに頷くと全身から寂しいというオーラが出ていた。そして、心の中では“早く帰ってきてほしい”と強く唱えている。

後ろ髪を引かれるが、公務を放棄するわけには行かない。


「早く戻るよ」


ミヅキの額に口づけをすると、部屋を出た。振り向いたり、立ち止まったりすると決意が揺るぎそうであったため、足早に部屋を出て城へ向かった。


城へ着くと、ユウキの姿があった。彼は慌ただしく近づくと研究室に案内した。


「半年前に渡した部屋だけど、すごいことになっているね」


レイージョが王太子になってから、ユウキに研究室を渡した。研究室と言っても“机と椅子”だけの部屋を渡したのだが今は足の踏み場もない。


「そうですか? 3日前くらいにイルミが掃除に来てくれたのですけどね」

「……そうか」


彼の兄であるイルミは家事全般が得なことは知っている。しかし、彼の手にも終えなかったのかとため息がでた。

その時、ノックもなく扉が開いた。


「ユウキー」元気な声だして乱暴に入ってきたのはイルミであった。


「で、あれ? 殿下ですか。話ですか? 出直します?」


敬意と言う言葉を知らないようなイルミの言動に、ユウキはため息をついた。


「申し訳ございません。すぐに追い出します」

「いや、構わないよ。掃除しに来てくれたの?」


「そうです」ユウキのため息など気にせずに、元気よく答えた。「じゃ、掃除していいですか?」


ユウキは眉をひそめて、イルミを睨んでいるが彼はへらへらとだらしがない笑いを浮かべている。その笑顔はイルミにとって仮面のようなものである事をレイージョは知っていた。


彼からピリピリとした警戒する気持ちが伝わってきた。心の中ではっきりと“ユウキと密室で二人きりになるな”と言っている。


ユウキとどうこうなる気はないが彼の気持ちはわかる。自分もミヅキが密室で他者と二人きりになったら相手を殺したくなる。


「構わないよ」そう言って、レイージョは椅子に座った。「ユウキ、イルミがいても大丈夫な話かい?」

「うーん」ユウキは困った顔をした。「判断しかねます」

「そうか、では隣国の少数民族の言葉で話そうか」


ユウキはキョトンとした。


『どうだろう。この言葉をイルミは理解できるかな?』

『……多分、分からないと思います』ユウキは戸惑いながら、イルミの方を見た。


彼はへらへらと笑い掃除をしている。それを見て、ユウキは安心したようだが、レイージョは違った。

イルミから自分に分からない言葉を話始めたことに苛立っていることがレイージョには伝わってきた。

しかし、それを気にしていても仕方ないのでユウキの報告を聞くことにした。


『それでは、話します』そう言って、ユウキは対面に座った。『以前、レイージョ様から預かった赤い石ですがアレは生命体です』

『生命体……』


予想外の結果に驚きを隠せなかった。

あの石は、ミヅキと指輪の契約をした時に自分の身体から出てきた物だ。


『それが正しい表し方か分かりません。でも、これは生きているのですよ。どうすれば育つのかは分かりません。そもそも育てていいモノかも判断しかねます』


そう言って、石の入ったネックレスを机に置いた。レイージョはそれを受け取り自分の首につけた。


『石になにかした?』

『はい。レイージョ様のご命令通り、圧力を掛けたり魔力を流したりしてみました。不安ではありましたが高い所から落とすこともしましたし、海水や真水につけて数日放置しましたが変化はありませんでした』

『では、どうして生命体と分かった?』

『はい。石から微弱ですが魔力を感じます。魔力は生き物からしか発生しません』

『なるほど……』


コレが発生したのは恐らくミヅキの魔力だ。あの時の状況を考えればそれしかない。


『誰かの魔力と似ているか?』

『レイージョ様とミヅキ様です』


ユウキは真剣な表情をしているが、内心はワクワクしているようであった。ミヅキの魔力を石に流してみたいと思っているようである。


彼はいつもそうだ。

真面目な顔をしているが、常に刺激を求めている。


「礼をいいます」と言ってレイージョが立ち上がった。


すると、穏やかに笑っているイルミが扉を開けて待っていた。王太子が部屋を出ようとしているので当たり前な行動である。しかし、彼から“早く出ていけ”という気持ちが伝わってきたためため息しかでない。


純粋に自分のことと好いてくれるのはミヅキしかいない。

早く、彼女の元へ帰りたいと思った。

研究室をでると、王太子の公務室に行った。自分の姿を見ると護衛の人間が扉を開けてくれた。

王族が主に使う部屋の前には護衛の人間がいる。城の門にもいる。これが無駄だとレイージョは思っていたが、規則だから仕方がない。


「レイージョ様、お待ちしておりました」


入室すると、アキヒトが立ち上がり頭を下げて挨拶をした。

レイージョは椅子に座ると、彼を呼んだ。


「なんでしょうか」


机の前に姿勢を正して立ったアキヒトはレイージョの言葉を待った。彼女はさきほどユウキから聞いた話を説明した。

すると、アキヒトは難しい顔をした。


「心当たりがあります。すこし失礼致します」そう言ってアキヒトは部屋を出た。数分後、一冊の本を持って戻ってきた。


「これは王と王太子のみ観覧可能な本です。先代の国王の記録です」

「そうか」


アキヒトから書物を受け取ると、彼が開いたページを見た。

書物には人間が吐き出した石について書かれていた。吐き出したのは記録している国王であった。それを王妃が飲み子を宿している。

子は生まれてから10年経ち行方不明になっている。


「先代国王には子どもがいなく、石を飲んだと瞬間懐妊したらしいのです」

「その子どもの行方は?」

「分からないですよ」ゆっくりと首をふった「次の国王はアクヤーク家の人間がなっていますね」


王族が御三家貴族で成り立っていることから、自分の子どもについては考えたことがなかった。いたとしも順番的にショータ家から結婚相手を貰わなくてはいけない。


ショータ家の息子はユウキとイルミだが今日の様子を見たら彼らに子どもができるとは思えなかった。


「何を考えています? ミヅキの子どもですか?」

「いや、そんな危険ことはできない」


正体不明なモノを大切なミヅキに飲ませるわけには行かない。


「なら、私が種に……」とアキヒトがそこまで言うと、彼を睨みつけた。

「死にたいのか?」


にこにことしながら、彼は首を振った。

王太子をやめてから下品な発言が増えた。これが本当の彼なのだろう。


王太子としての振る舞い規定を見たら、彼の変わりようも分かる。レイージョ自身、慣れない行動を要求されて疲れていた。


「仕事を続けて」

「はい」


どんなに睨みつけてもへらへらアキヒトは笑っていた。以前は青ざめていたのに面白くないと感じた。

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