第21話 王位継承権
到着したのは生徒会室。
レイージョは扉を叩くと、中からの返事を待ち入室した。
入ると、王太子、カナイ、ユウキが真剣な表情で座っていた。そして、一番奥に、見たことのあるオジサンが偉そうに座っている。
彼が国王であることはすぐに分かった。座っている場所はいつも、王太子がいる場所だ。王太子はカナイの横にいる。
異様な雰囲気だ。
この場面をミヅキは見たことがある気がしたが、思い出せなかった。
「国王陛下。連れて参りました」
レイージョが頭を下げたので、慌てて同じように頭を下げた。
国王。
彼の絵は国内いたるところに飾ってあった。すっかり忘れていたが、村にいるときは毎日のように見ていた。
「うむ。頭を上げよ」
「はい」レイージョがゆっくりと頭を上げた。
「その者か?」
「はい、ミヅキ・ノーヒロと申します」
「なるほど」
そう頷くと国王はじっとミヅキを見た。
その居心地の悪さから変な汗が頭から出てきた。
強い圧を感じて、頭を上げることができなかった。
「頭をあげよ」そう国王に言われてゆっくりと顔を上げた。
目の前には偉そうに座ったおじさんがいた。
なるべく不自然にならないようにゆっくりと目を動かして部屋の中を確認した。
国王がここにいるのに、警備の者がいなかった。生徒会室に来るまでも一切見ていない。
パーティーが行われているから、校内を歩く生徒が少ないのは頷ける。しかし、誰とも会わなかったのは今考えれば不思議だ。
「うむ。ここには警備の者はおらぬ。生徒もパーティー会場から出ないようにした。それだけ重大な会議である」
「重大な会議の参加者が子どもでいいのでしょうか」
「構わない。君らの意見は必要ない。通告するのみ」
それは会議ではない。と言いたかったが我慢した。
そして、どんな無茶ぶりが来るのかとドキドキした。
「我が息子、アキヒト・エラーヒトを廃位する。そして、王位継承権をレイージョ・アクヤーク移す。更に、レイージョは王族の養子となるためレイージョ・エラーヒトとなる」
「?」
「レイージョ・エラーヒトの婚約者としてミヅキ・ノーヒロを認める」
「?」
何を言っているのがよく分からなかった。内容は理解できるが、唐突すぎて理解が追い付かなかった。
国王が立ち上がると、アキヒト,カナイ、そしてユウキも立ち上がり、頭を下げた。
レイージョも横で頭を下げているが、ミヅキは呆然と国王を見ていた。
国王と目が会った。しかし、彼は目を細めるだけで何も言わずに部屋を出て行った。
張り詰め空気が一気に緩んだ。
「おいで、ミヅキ」笑顔のレイージョに手を引かれて、席に着いた。
いつの間にかアキヒトが、国王が座っていた生徒会長席に座っていた。
「大丈夫よ。説明するわ」
優しく微笑むレイージョに心が温かくなった。
「まず、廃太子となったアキヒト様ですが他人の魔力を感じて相手の場所を突き止めることができるの」
「あっ」
そこで、突然自分のいる場所に現れる意味が分かった。
「あの時、ユウキ様が“本当にいた”と言ったのはそういうことでしたの?」
「よく覚えているな」ユウキが驚いた顔をした。
説明を求めるような顔でレイージョに見られたので、ミヅキは頷いた。
「私、入学式に出席せずに生徒会室の前に来たのです。すると、ユウキ様が生徒会室から出てきて“本当にいた”と言ったのです。その時、ユウキ様が『王太子……ではなくなったアキヒト様から“私が入学式に出席してないと連絡があった”』とおっしゃっていました」
ミヅキは少し考えてから、人差し指を口元に持っていった。「でも、それで“本当にいた”と言う発言はおかしいと思ったのですよ。私が生徒会室来るとわかっているような発言でした」
頷きながらアキヒトは、細い目でユウキを見た。
「あらら」とレイージョは馬鹿にしたような顔をしてユウキを見た。
ユウキは小さくなり、居心地が悪そうな顔した。
「それでね、ミヅキ」レイージョは顎に当ててミヅキを見た。よくやる仕草だが、今日はそれが色っぽく感じた。「アキヒト様がミヅキの場所が分からないというの」
そっと、レイージョに手を取られて指輪をなぞられた。「この、契約をしてからよ」そう言って指輪を触りながら、綺麗な青い瞳で見られると心臓が口からでそうになった。
「イチャつかないでくれるかな」アキヒトは優しい声でいったが、眉がピクピクと動いていた。
ミヅキは周囲の注目を浴びていることに気づくと、恥ずかしさで顔が熱くなった。しかし、レイージョは気にならないようであった。
「あ……そのもうし」
「いいのよ」と謝ろうとしたミヅキの言葉をレイージョがさえぎった。「嫉妬しているのですか?」
その言葉にアキヒトは不愉快そうに顔をしかめたがすぐに、緩ませてため息をついた。
“嫉妬”と言う言葉はアキヒトがレイージョによく言っていたセリフだ。彼女は楽しそうにニヤニヤと笑っている。
「私が悪かった」
謝った?
突然の謝罪に目が点になった。彼の謝罪の言葉を聞いたのは始めてだ。今までは王太子のという身分があったが、今は自由なのだ。
レイージョの方が上であるため、頭を下げるのは簡単かと思った。
そう考えるとレイージョは好戦的だと感じた。
「レイージョ、君が言っていたことは正しい。けど……」アキヒトは視線を落とした。「王太子として君より上でいたかった」
「そうですの」そう言う、レイージョの言葉から感情が分からなかった。
しばらく沈黙が続いて後、レイージョは口を開いた。
「説明に戻るわ」そういって優しい笑顔でミヅキをみた。「アキヒト様のお母さまであらせられます王妃殿下はショータ家出身ですわ。側妃はクラーイですわね。更に、前国王陛下はクラーイ家からの養子ですわ」
凛とした口調で話すレイージョはカッコよくて見惚れた。
レイージョは目を細めて、アキヒトを見た。彼は何も言わずに眉を下げている。
「ミヅキは以前、王族についての話を聞いているわよね」
「はい」
カナイが以前言っていた、王族は御三家貴族から成り立っている話を思い出した。
「つまり、私が王位を継承する条件はアクヤーク家との縁談が絶対条件なんだよ」ため息を付くアキヒトに「バランスですか」とミヅキはつぶやいた。
「そうだね。だから、幼少期に婚約したんだ」
「アクヤーク家なら誰でも良かったですね」鋭い瞳をむけるミヅキに、アキヒトは小さくため息を付いた。
「……そうだけど。そんな言い方しないでくれよ」
「レイージョが王妃になって、ミヅキが側妃になってくれればよかっただけど」
「いやです」
「でしょ」とアキヒトは乾いた笑いを浮かべた。
「君の魔力が国外の人間が知り始めて父が焦っている」
「なぜ、漏れているのでしょうか?」
村から学園に生活がうつっただけで、特別なことをした記憶がない。
「君の魔力検査結果は今ほどの魔力を示してはいなかった。特待生として受け入れるレベルであったが、私よりも少し高い程度だと思っていた」
何度も考えなおしたが、自分の魔力が強くなるような行動をした覚えはなかった。
「ユウキは知っていたんだよね?」
「え、あ、はい……」
突然、話を振られてユウキは驚いていたがすぐに返事をした。
「いつから?」
「入学式の時にはもう、国一つ壊せるくらいの魔力がありました」
それを聞いて、ミヅキはユウキに同じセリフを入学式サボって生徒会室に行ったときに言われたことを思い出した。
「村まで迎えに行った時はそこまで高い魔力ではありませんでした。何をきっかけに魔力の栓が取れたのかと思います」
「ミヅキ心あたりは?」優しく聞くアキヒトと目が会った。
村を出て、入学式の間の自分の行動を考えた。
魔力の使い方も分からなかった自分が、魔力に触れたのは……。
「あ、アレです。文字盤に振れた時だと思います。エレベーターの文字盤に障った時、痛みを感じました。部屋を登録するために文字盤に触れた時も同じように痛みを感じました。その時文字盤が赤くなりました」
「赤く……」と納得するように頷いたのはユウキだ。
カナイは黙って頷いている。
「あの、文字盤は魔力と学生の名前を登録する」とアキヒトはため息をついた。「それは表になり職員なら閲覧可能だ」
「すぐに報告すべきでした」とレイージョが頭を下げて謝罪した。「わたくしも赤ですのでそこまで大きな魔力だとは思っていませんでしたわ」
いつもアキヒトに強気な彼女が謝罪する姿にミヅキは驚いた。
「王位継承権を持つ者が頭を下げないでもらえるかな?」
クスクスとアキヒトが笑うと、顔を赤くしたレイージョが頭を上げた。
「君の仕事ではないから気にすることではないよ。ミヅキの魔力の大きさにはユウキとカナイから報告を受けている」
そういうアキヒトはいつもよりも穏やかであった。以前のようにレイージョに対して対抗する意志がない。
不思議な感じがした。
「おそらくそこから漏れたんだろうね。私も魔力が多いほうだけど、レイージョやユウキ、カナイとさほど変わらない。だから、それが漏洩することを問題視していなかったんだよね」
ゆっくりと、振り向いたアキヒトとまた目があった。なんとなく気まずくて目をそらすとレイージョに指摘され視線をアキヒトにうつした。
「他国がうちを監視しているように、うちも同じことを他国にしているんだけど。そこでミヅキの拉致計画を掴んだんだ」
ゾッとした。怖くなり、拳に力がはいるとレイージョがその手を両手で包んでくれた。温かく、心が落ち着いた。
「平民であるミヅキを大大的に警護するわけに行かなかった。いくら理由を話しても理解しようとしない愚か者がいるんだよ」軽く首を振った。「だから側妃にしたかったけど君は否定するし」
アキヒトの心遣いは感謝するが、その話を聞いても側妃になりたいと思わなかった。
「そこで、レイージョが王位を継承して更にミヅキを嫁にするといったんだよね」
レイージョは何も言わずに嬉しそうに笑っていた。
思い起こせば、レイージョにいろんな方向から“自分のモノになれ”とアプローチされたことを思い出した。その時必ず、ミヅキの気持ちを聞いてくれていたことに感謝した。
「アクヤーク家が王位を継承して、高魔力保持者が国外へいかないのなら全て問題が解決するからね。いい案だと思ったよ」
「殿下は王位いらないのですか?」
疑問の思ったことを口にした。
「考えたことなかったよ」寂しそうにアキヒトは笑った。「生まれた時から王太子であった。誰よりも優れている必要があると思ってはいたからレイージョに負けないように必死だったよ」
「あらら」面白そうにレイージョは笑いながらアキヒトを見た。「本当に?」
「……」アキヒトは苦い顔をした。「君もそういう顔をするんだね」
「ええ。もう、アキヒト様を指導する必要はありませんもの」
「そうだね」
アキヒトは眉を下げて笑った。
「話を戻そう。ミヅキを大大的に護衛できる名分はできた。しかしその方法を考えたんだ。私のように魔力感知できる人間がいると厄介だと思ってね。そこで……」アキヒトはレイージョとミヅキの手にある指輪を見た。
「本来、その指輪は外せば効果がなくなる物で、遊びつかわれるんだ」と説明を始めたのはユウキだ。
ミヅキは自分の手の上にあるレイージョの手を見た。指輪の赤い石が輝いている。
「その指輪の効果を強めるように改良した。相手の居場所と異変がすぐにわかるようにしたんだ。ただ、そこまで性能が上がらず相手が10キロ以上離れてしまうと分からなくなるんだ」
ユウキは自分の指を見せた。そこには、レイージョにつけてもらった時と同じ形の指輪があった。
「これは学園の森にいる兄とつながっている。森までは5キロないから彼の居場所ははっきりわかるが何をしているかまでは分からない。ミヅキはどうだい?」
「私は、レイージョ様の居場所もそこで何をしているかもわかります。それに……」
以前、ユウキに説明したこと繰り返すように伝えた。
あの時、レイージョは生徒会室にいて、それを覗いているように見えた。それにレイージョは手を振って返事をしてくれた。
アキヒトもカナイも驚いた顔をしていたが、ユウキのように取り乱してはいない。
「そうですわね」レイージョは頷いた。「あの時、なんとなくミヅキの視線を感じましたの。なので、そちらを向くと彼女の顔が見えましたので手を振りましたわ」
「更にその指輪は、魔力の妨害もできるらしいのよね」
レイージョはユウキの方に視線を送ると彼はアキヒトの方を向いた。すると、彼は頷いた。
「私は魔力感知ができる。その指輪ほどではないが、人の居場所が分かる。ミヅキの居場所は村にいる時から把握していた」
気持ち悪いと思ってしまった。
その時、ふと学生証についていた絵を思い出した。
「学生証……」とぼそりとつぶやくと、アキヒトは嬉しそうに笑った。
「あぁ、アレはよく撮れているだろ。ユウキの魔道具を借りて村まで撮りにいったんだよ。未来の側室ものは美しい方がいい」
満足げにいうアキヒトが本当に気持ち悪かった。
「ついでに言うと。君のために用意した制服は特注なんだ。君の体型に合わせて作らせたんだ」
だから、レイージョからもらった制服を着たときすぐに違いが分かったのかと寒気がした。
それに感謝の気持ちはない。ただ、気持ちが悪かった。
「僕は止めた。けど、アキヒト様が勝手にやった。生徒会とは一切無関係だ」
カナイがはっきりと言うと、アキヒトは目を大きくして「手伝ってくれただろ」と喚いた。その口調はいつもよりも気軽い。
この人も“王太子”を作っていたのだ。
「制服?」と言ってレイージョは突然、立ち上がり奥の部屋にいくとすぐにも戻ってきた。手には大きな箱を持っていた。それをカナイに渡した。
「ありがとう」と言って嬉しそうにカナイは受け取った。
「なんだ?」とアキヒトが首を傾げると、カナイは人差し指を立てて唇にあてた。
触れてはいけないような気がした。
アキヒトも同じように感じたようでそれ以上追及はしなかった。
「それでね」とアキヒトは強引に話を戻した。「レイージョから指輪を契約したと聞いた日からミヅキの居場所が探せなくなった。だから、今日もレイージョに迎えに行ってもらった」
「パーティーに行っていると思ったら、一人で広場にいるのだもの。驚いたわ。一人でいるのは、やめて頂戴。心臓に悪いわ」
「……」
心配されて、申し訳なくなり頭を下げた。そして下からレイージョを見上げると彼女は手をそっと握ってくれた。
「今度は一緒にいきましょうね」
「はい」
彼女の優しい言葉に笑うと、微笑み返してくれた。
「貴女を守るために、国王陛下に来て頂き早急に王太子の交代と貴女をわたくしの婚約者にする必要があったの。急かして、説明が後手に回ってごめんなさいね」
「いえ」
「そして、わたくしは女王となった時、貴女にも公務を行ってもらう必要があるわ。貴女が正妃となるため、以前アキヒト様が提案した好条件はだせないわ」
「かまいません。レイの為ならいくらでも働きます」
目を輝かせるとアキヒトが複雑な表情をした。それをレイージョは勝ち誇った顔で見た。
「でも、平民の私が正妃なんて皆様よく承諾してくださいましたね」
「そうね」レイージョは考えながら口を開いた。「クラーイ家はもともと恋愛主義。アクヤーク家はわたくしが王位つくので大丈夫よ」
“大丈夫よ”と笑うレイージョが怖かったが黙っていた。
「意外なのかショータ家よ。あそこは魔力と家柄を重視するの。だからユウキのお兄様は学園にいないのよ」
そう言ってレイージョがユウキの顔を見た。
「ユウキも平民はよく思っていなかったはずよね、どういう心境の変化かしら? 彼がミヅキを推薦したのよ」
「高魔力者は国内にいたほういいと思っただけです」
ぶっきらぼうに説明するユウキにレイージョは納得のいかないような顔で「そう」と言った。
不穏な空気が流れた。
「ミヅキ、疑問がなければこれで今日は終了だよ」アキヒトは悪い空気を追い払うように言った。
彼は立ち上がると、レイージョとミヅキに頭を下げた。
「レイージョ様、ミヅキ様はお疲れでしょうから、お部屋のお戻りになってはどうですか?」
「へ? 敬語ですか?」ミヅキが驚いた。
「この時を持って、レイージョ王太子となります。私も王族ですがレイージョ様より下となりますので」
廃太子となったアキヒトは嬉しそうであった。
普通、王位継承権を取られたら憎まれていそうなものだ。しかし、彼は始めからそういった雰囲気はない。むしろ王太子であった頃より柔らかく感じる。
「そうね。アキヒトもそう言っているし、ミヅキ戻るわよ」
「はい」
レイージョに手を引かれて、扉に向かうとカナイが開けてくれた。
チラリと後ろを向くと、アキヒトもユウキも頭を下げていた。
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