第169話 このクルセイダーの花嫁姿に祝福を‼(1)
「ララティーナお嬢さま、とてもお綺麗ですね……!」
結婚式を迎えた清々しい晴天の今日、教会の控え室にて、純白のウエディング姿で椅子に腰かける私は当家による二人の若いメイドから大いなる称賛を浴びていた。
「あまりにもお美しすぎて、病で
「そうですね。まだお仕えして一ヶ月に満たないのに、このような日を迎えて、私たちは幸せ者ですわ」
この新人メイドたちは当家の深い事情も結婚までの
父にこの姿を見せたら悲しむに違いない。
この望ましくない結婚で喜ぶ者はいないことは百も承知だ。
これは私による、ただの自己満足に過ぎないのだから……。
『おい、こらっ、貴様らその場をどけ! なぜワシは新郎なのに花嫁に会ってはならんのだ!』
扉の外からアルダープの怒鳴る声がする。
いくら当家のためとはいえ、私はあのような無礼な男と共に暮らさないといけないのか……。
『なりませんよ。ここはダスティネス家の控え室です。この先は当家の者しか通せません』
『ララティーナはこれからワシの女になるのだぞ。そんなの関係ないではないか!』
アルダープが荒々しい暴言を門番でもある執事へと投げかける。
『このバカ面どもめ。式が終わればワシが貴様らの主、いや言われるがままの忠実な手下になるのだぞ』
『それをよく噛み砕き、理解してからここを通すか通さないかの判断をしろ!』
『いえ、いくらスルメ好きな新郎の言葉でもまだ我々の主ではありませんので、ここは通せません』
ヤツに何を言われても執事も一向に引き下がる雰囲気でもないようだ。
『貴様ら、もう顔は覚えたからな。式の後で存分に覚悟しろよ』
それをきっかけにアルダープが遠のく気配を感じた……。
「おい、メイドさん。ドアの外の者を呼んできてくれ。是非とも礼が言いたい」
「はい、かしこまりました」
メイドの呼びかけに対し、部屋に足を踏み入れる例の執事。
「二人ともすまないな。別にアレを通しても良かったんだぞ?」
どうせ夫婦になったら嫌でも顔を見合わせるのだ。
今さらどうってことはない。
「いえ、自分はお嬢様があの男と結婚したら辞めると決めていますから」
「自分もノリスと同じ意見です。自分が仕えるのはダスティネス家一筋ですから。まあ、お嬢様が心から愛する男なら仕えても良いのですが……」
「……そうか、二人ともありがとう」
二人とも真剣に思っての言い分なのだろう。
私は精一杯の微笑みをその執事たちに見せる。
「そう、それなのですよ。たまに見せるその笑顔が本当に美しくて……最後にそのお顔が見れただけでも幸せです」
ノリスが照れながら眼鏡のふちを整える。
「ですが、その……これは言いづらい忠告でもありますが……」
「……新郎の目もありますし、夜な夜な激しい一人遊びは控えるようにして下さい」
なっ!?
突然の愚問に恥ずかしくなる私。
「ぐぬぬ……」
あの男め、私の声真似をして良からぬ噂を広めよって。
噂の元凶にもなったあの男を今すぐにでも屋敷の外壁のレンガでぶん殴ってやりたい!
……まあ、あいつとは喧嘩ばかりだったが……ふざけたことしやがってと叫びながらこの結婚式に殴り込みに来るだろうか。
いや、どこかのヤンキーじゃあるまいし、度胸もないあいつが来るはずがないか。
カズマ、どうしてる……。
****
一方でダクネスの結婚式当日、俺の我が家にて……。
「カズマ、レッツゴーなのです!」
「あんな結婚式なんてぶち壊してやりましょう‼」
部屋で高らかに吠えるめぐみんがやたらとやる気になっていた。
「おい、マジでやめろって狂犬!」
「ふっ、空から魔法が落ちてきて式場が跡形もなく無くなることはよくあることですよ」
「お前な、そんなテロみたいな破壊工作をしたら、借金プラス真の犯罪者になってしまうだろ! 下手したら一生牢屋で監禁されて過ごすはめになって……お前はそんな未来が待ち受けていてもいいのか!」
「ならカズマはダクネスが、このままあんな領主と結婚して、めでたしめでたしでもいいのですか!?」
「ダクネスがあの領主に弄ばれて玩具のようにされても良いんですか!?」
俺はめぐみんの発言に奥歯を噛みしめる。
「良いわけないだろ、このロリっ子が!」
めぐみんが俺による突然の大声に身をすくめる。
「俺だってあのおっさんにダクネスを持っていかれるのは嫌だよ! 外見とかもだが、評判も悪いし、悪すぎる恐竜時代から生き抜いてきた犯罪者の固まりだ!」
「あのおっさんは気に入った女はどんな汚い手を使ってでもモノにするんだぜ!」
それで女に飽きたら少ない手切れ金を渡してゴミくずのように捨てるのだ。
だが、問題なのは、そんなに好き勝手にやっているのに、それとした確実な証拠が出てこない部分だ!
「……すみません、カズマ。ずっとツンツンしてると見せかけて、実は色々と領主のことを調べていたんですね………」
「ああ、あいつは噂どころか、とんでもないおっさんだよ」
熱くなっていためぐみんが急に大人しくなり、俺の隣で冷静に物事を考える。
不当な搾取に贈収賄あり。
しかし、なぜか物証が出てこない。
それに被害者の女性たちも何も言わず、悪事の証拠が出ないままなので、国の方もあのおっさんには何も出来ないままだとか。
「それでダクネスの親父さんは、これとした証拠を探し当てるために領主の監視役として派遣されたそうなんだが……ああなってしまってはな……」
「それなら余計に放っておけないじゃないですか!」
俺だってどうしようかと色々とチェスのように策を練ったが今回ばかりはお手上げだ。
借金がいくらあるかも不明だし、人生ゲームのように金を寄せ集めて渡しても、あいつの性格上受け取らないだろう。
「そもそもこんな俺みたいな冒険者は貴族相手には手も足も出ないのさ」
いっそ、手足が出ないならトカゲの尻尾にでもなりたい気分だ。
「カズマ少佐、了解しました。カズマも色々と調べてあの領主をどうするか考えていた……その言葉は私に強みをくれました」
「私は自分で考えて行動し、後悔のない道を歩みます」
「カズマもよく考えて、後悔という落とし穴に落ちないよう、自分の強い意思で道を進むために頑張って下さい……」
そう言ってめぐみん二等兵は外へと出ていった。
「何なんだ、一流の魔法使いのようにカッコつけやがって……」
俺だって、何とかしてーよ。
あんなロリコンで変態な領主なんかと……。
でもどうすればヤツを欺けるのか……考えるほどに底無し沼に沈む感覚だった……。
『ガチャ』
時を待たずして、再び開く扉の開放音。
「何だよ、カズマ名探偵による助手めぐみん。まだ言いたいことがあんのか……」
「へい、毎度! 頼りにならん女神を差し置いて未来を見通す悪魔が手助けに来てやったぞ!」
ああん?
この仮面バニラアイスは一度、虫眼鏡のレンズで溶かされたいのか?
「チェンジ! チェンジだ! あの美人店主のウィズと代われ! 何でこんな切羽詰まった時にふざけたお面のお前と会わないといけないんだよ!」
毎度のように笑った仮面でこの場の空気を台無しにしたバニルは、大きなアタッシュケースを片手に持ったまま、俺の元へとやって来たのだった。
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