第21話 この一組のアンデッドに第二の幸せを‼

『ターンアンデッド‼』


 アクアの神聖魔法で消えていく相手。


「しつこいわね。アンデッドの分際で! 

こうなったら片端から相手をしてあげるわ!」


『ターンアンデッド‼』


 瞬時に消え失せる威力は計り知れない。


「おいっ、いくら魔力があるからって相手にしてたらキリがないぞ」


 俺とアクアはダンジョンをモンスターに気付かれないように探索するつもりだったが、

早くも見つかってしまい、こうやってアンデッドの群れと交戦している。


 ゾンビに骸骨剣士、鎌を持った死神、ゴーストなど、その種類は実に多彩だ。


「ねっ、私という有能なプリーストがいて正解だったでしょ」

「まっ、まさかダンジョンでこんなにも敵から逃げるはめになるとは……」

「だから徹底的に駆除しようって」

「あのなあ、出てくる敵全部に対抗していたら体力が持たねえぜ。

俺たちはスズメバチの駆除に来てるんじゃないんだぞ」

「えっ、報酬のオマケとして蜂蜜ドラム缶一杯くれるんじゃないの?」

「そんなサービス精神みせたら蜂蜜農家潰れるわい‼」


 このプリーストがいなければ、今ごろ俺は売れない蜂蜜のビン片手に路頭をさ迷っていたかも知れない。


「まあ、大体探索できることも判明したし、そろそろ引き返すとするか」

「えー? 人生長いんだから、もっと楽しまないと勿体もったいないわよ」

「あのなあ、俺はもう死んでるし、ここは遊園地のテーマパークじゃないんだぞ」


 アクアの冗談に付き合いきれず、ダンジョンから帰ろうとした俺らの前に長い影がさす。


『そこに誰かいるのかい……?』


 そのぬしは人の形をした骸骨だった。

 近くのわき道のほら穴から一人の魔法使いの格好をした骸骨に呼び止められる。


「あっ、リッチーじゃない‼ こんな場所にも隠れていたなんて。リッチーの癖に生意気よ。私が成敗してくれるわ!!」

「えっ、ウィズ(第8話参照)の仲間なのか?」


『まあ、落ち着いて。君たちに危害を加えるつもりはないからさ。久々に人間に会ったんだ。積もる話が山ほどある……』


 骸骨に連れられ、俺とアクアはその先の居住スペースへと案内される。


『おっと、自己紹介がまだだったね。私の名はキールさ』

「キールってあのおとぎ話の?」

『おや、私のことをご存じかね。このダンジョンを創造し、貴族の令嬢を拐った魔法使いだから色んな意味で有名なのだろうね』


 殺風景な部屋で、キールは木の椅子に腰を下ろすと、すぐそばのベッドで寝ている骸骨の女性を見つめる。

 端から見ても、何年かけてもでている感触が拭えない。


『私はこの人と一緒に永遠に眠るつもりだったのに、凄まじい神聖の力で目覚めてね』


 隣の無言の相手に優しく語りかけるキール。


『骸骨になっても綺麗な相手だろ? この人を愛する気持ちは何年立っても変わらないよ』

「やっぱりあんたの願いはこの子を?」

『ああ。可愛がられずにみんなから虐められていたから、気に入らないならこの方をくれと言ったのさ』

『それでこのお嬢様にプロポーズし、結婚するようになって、お嬢様を巡って王国軍と戦争の嵐さ。あの頃は楽しかったよ』


 あれ、こんな軽いヤツだったか?

 何かおとぎ話と印象が違う……。


『最後に頼みがある。そこのプリーストのお嬢さん。私を浄化してくれないか?』

「えっ、私?」

『君の力は十分承知さ。膨大な力を持ったリッチーさえも浄化できるんだろう?』

 

 キールは頬骨を緩ませ、アクアに笑いかけたような気がした。


****


『本当にありがたい。お嬢様が死んだ今、リッチーになった意味を無くしていて、現世にいる理由もないからね』


『色々とあったけど私は彼女を幸せにできただろうか』


 アクアの魔法により、キールと彼女の周囲に幾度もの円の魔法陣が浮かび上がる。


「神のことわりを捨てて、愛しの彼女を守るためにリッチーとなったアークウィザード、キール。水の女神アクアの名において……」


 アクアが両手を合わせ、聖なる天使のような微笑みでキールに優しく語る。


「あなたのやって来た善悪の行為を全てひっくるめて許しましょう」


 はっ、何その真面目的清楚なお言葉?

 俺の知っているアクアは、もっとガサツで己の本能で宴会芸をするヤツだぞ?


「次に目が覚めましたら、エリスという女神に救いを求めなさい。彼女との再会を望むなら、その女神にその想いを告げなさい。きっと素敵な第二の世界が待っているわ」


『セイクリッド・ターンアンデッド‼』


****


「あのアンデッド、今ごろお嬢様と会えたかな?」

「さあね、分からないけどエリスなら何とかしてくれるわよ」

「しかし、それにしてもさあ……」


 俺とアクアはまたもや、アンデッドの集団に囲まれていた。


「次々と湯水のように現れるコイツら、どうにかならないのか?」

「甘いわね、カズマ。出てきた分だけ叩くのはRPGの法則よ」


 いや、俺をそっちのけで、お前自身が楽しんでいるだけだろ?


「おい、ちょっと聞きたいんだけど、このアンデッド、お前の魔力に引き寄せられていないか? 俺一人の時よりも明らかに数が違うんだけど?」


「それにキールが神聖魔法で目覚めたわけや、デュラハンのモンスターもお前を集中的に狙っていた理由にも当てはまるし?」

「さっ、さあね。ただの気のせいじゃない?」


 俺の正論な意図をついた発言にアクアが焦っている。


「どうだか。いずれにせよ、お前一人で遊んでな」


 アクアの言葉に腹が立った俺は潜伏スキルを使い、土壁と同化し、壁に溶け込んだ。


「あっ、何、私に向かって潜伏スキルを使ってるのよ?」 


「私が悪かったから、ご、ごめんなさい。怖いから一人にしないでよー!?」


 壁へとのすり抜けた元の場所からアクアの悲鳴が木霊こだましていた……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る