掌編#3 アンコール

 最後の一音がゆっくりと室内の空気に溶けていく。

 小さな両手で力いっぱいの拍手を贈る下の弟たちに、すぐ下の弟は恭しく礼をした。


「あにうえ、もうおしまいですか? もっとききたいです!」

「そうです。ラグランド兄上、もっと弾いてください」

 いつもは聞き分けが良い弟たちなのに、今日は珍しく粘っている。五日ぶりに会えた弟たちの可愛いわがままにラグランドもぽかんとしている。三拍ほど経ってから、おろおろとこちらに青い瞳を向けてきた。どう宥めたものか思案していたら、助け船が来た。扉の向こうから。


「続きはレオお兄様が良くなったらね。ラグお兄様がお祝いに小さなコンサートをしてくださるかも。楽しみね。アンコールは何が良いかしら?」


 二人の頭を撫でて気を逸らしてくれた母に、レオナードもラグランドも一も二もなく頷いた。

「レオナード兄上、早く治してください」

「今日の夕食がおわるころにはなおりますか?」

 母の左右にぴたりと寄り添ったデイビスとヘンリー・ローが何やら難しいことを言い出した。母とラグランドの肩が大きく揺れ始めたのをよそに、レオナードは弟たち三人が楽しげにお喋りをする顔になんだか懐かしい気持ちになった。すぐ下の弟が離れていたのはたった五日なのに、だ。

 とうとう母とラグランドが笑い出した。けれど、五日ぶりに聞こえるすぐ下の弟の声は朗らかで明るくてひどく心が安らいだ。

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