第04撃「宇宙からの来訪者!奴らはゼノバス!」


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 =10年前・箱根山地下シェルター、極秘機密庫=


「罠の解除を確認。異常なし」

「目標付近に到着」

「起爆装置を使います。お下がりください」

 -----これは二年前の映像だ。

 箱根山の地下、一般市民の大半が知ることはない研究機関保有の専用倉庫。

「起爆します!」

 そこは20年という長い年月、固く閉ざされ続けていた。

 しかし今から10年前……扉は突如開かれた。

「例のモノは!?」

 研究機関のメンバーではない者達が開いたのだ。

 パスワード認識も一切なし。起爆装置による強引な開け方で扉は開かれる。

「高エネルギー反応確認! 間違いありません! ドレッサー・システムです!」

 全身をフルメタルジャケットで覆った武装兵が複数名。

 一室の中央には巨大なカプセル。中には緑色の液体。

「やれやれ、ようやく見つけ出せた」

 武装隊に囲まれ現れたのはスーツ姿の女性が一人と数名のSP。その横で秘書と思われる人物がノートに何かしらの記録をしている。

「かつて異星人を一掃したというエネルギー……今は必要ないからと封印するなど、勿体ない話です」

「これほどの兵器、活用しないわけにもいかん。これを利用すれば我が国の立場は一瞬にしてひっくり返るというのに」

 他国への借金。積み重なる不祥事の山々。迷走を続けるマスコミと世民。

 日本国家は低迷の時を迎えている。新たな文化の発展を迎えた21世紀の始まりからずっと。彷徨い続けている----

「さぁ、エネルギーを持ち運ぶとしよう……切り離し作業に入る」

「了解」

 かつて世界を救ったエネルギーをとして利用する。

 スーツ姿の女性は武装隊に次々と命令。エネルギーが収容されたカプセルにかけられたロックを外すため、特殊仕様の起爆装置をセットする。

 まずは固定装置から切り離す。数分の時間をかけ、起爆装置が作動する。封印されていた”何か”の解放を急ぐ。

「ふっふっふ……あとは外の到着を待つのみ。早々に撤収を、」

「ッ!? こ、これはッ!?」

 エネルギーの入ったカプセルが装置から切り離された途端。

 異変が起きた。

「なんだ!? これは……ぐ、ぐぉおおおっ……!?」

 武装隊の一人が首を押さえ、苦しみ始める。

「な、なん、だ……っ」

「誰だ……誰か、そこに、いるのかっ!?」

「くるじい、くるじいよぉおお!!!」

 一人、また一人。

 全身武装であるにもかかわらず、隊員は毒に苦しむかのようもがき始める。

「なんだ!? 一体どうし……うぐっ!?」

 カプセルのロックを外したその瞬間に何が起きたのか。その決定的瞬間が記録されている。

「ふごっ……ふごごごごっ……」

 ミミズの形をした肉塊らしき何かが、スーツ姿の女性の口の中に入り込んでいる。

 謎の生物はスーツ姿の女性の中に入り込んでしまい、食道を通じて内臓部へと侵入していく。

[異常を確認。自爆装置、作動します。爆破まで残り1分]

『……くふっ、クハハハハッ!』

 カプセルの破壊。緊急事態発生と同時、施設に仕掛けられた最後の罠が作動する。赤いランプの光と大音量の警報音。

 もがき苦しむ人間達。その群れの中、たった一人スーツ姿の女性は高笑いしながら……

『我ら、ゼノバス……繁栄、キタリィイイッ!!』

 その宣告を最後。

 自爆装置の作動と共に映像は途絶えた。


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 ----現代。研究機関ドレス真宿基地。映像室。

「私はドレッサー・システムで異星侵略生命体ゼノバスの殲滅に成功した……だが奴らの生命力は異常なものでね」

 ノイズのかかった映像を背に、璃亞が解説を続ける。

心臓コア、そして一部の内臓物と細胞のみを地に隠し生き残っていたのさ。私はそれに気づいて再度攻撃を続けたが……細胞による再生が早く、ソレの破壊が出来なかった」

 映像ではゼノバスと呼ばれた生命体は一掃されたかのように見えたが……実際はコアとなる本体と一部細胞を撒き散らし、生き続けていたという。

「元の姿に戻れるほどの生命力は残っていなかったが、これを放っておくわけにもいかなかった……ゼノバス隕石の解体が始まって、同時に私はこのドレッサー・システムの封印を言い渡した。これだけの兵器を悪戯に利用されたくないしね」

「その際、ゼノバスのコアが再生による完全復活をしないよう、箱根山の地下シェルターへドレッサー・システムと共に封印していたのさ。システムのエネルギーはゼノバスの復活を妨げるカギとして利用した」

 璃亞の横で“眼鏡をかけたモジャモジャ頭の初老科学者”が続いて解説をする。


「長い時間をかけ、コアを完全に破壊する方法を長年探り続けていたが、その最中に愚かな馬鹿政治家の一人が戦争を仕掛けようとしたのか分からないけど……うちの研究員の一人からデータを盗んで、そこへ侵入した」

「封印から解放されたゼノバスのコア達が大暴れ。その場にいた人間全員に寄生し身を乗っ取った……その後、ゼノバス達は10年以上行方をくらましていた」

 人間の体を乗っ取り、その体を新しい依り代にして復活を果たそうとしていた。

 この10年、人間の目には届かぬ何処かで再生を続けていたのだ。

「奴らは他の生き物に寄生出来る。君のように体の一部分がゼノバスみたいになっているのは我々が回収し損ねた微量の細胞が入り込んで生まれた個体だ」

 変異種。ゼノバスのような姿をした人間もまた、その細胞に寄生された人間なのだという。

「あぁ、安心してくれたまえ? その辺をウイルスのように彷徨っていた程度の細胞なら……見た目を変化させるだけで、人間の体を乗っ取るほどの活動力はない」

 映像で苦しんでいた人達みたいに暴走することはない。

 怪物になることは決してない。その証拠に数十年以上変異種によるゼノバス化は確認されていない。安心してほしいとモジャモジャ頭の男は語る。


「箱根の機密庫は破棄する事態になったが……【ゼノグラム】だけは他の場所でもこっそり守り続けてきた」

「ゼノグラム?」

「ドレッサー・システムを起動する為のエネルギーさ」

 機密庫の中央にあった緑色の液体。ドレッサー兵器の際に使用されるエネルギーであると同時、その肉体を一時的に強化する事も出来る。

「それから数年かけて……私は新たなる世代のドレッサー・システムを作った。本当の意味で、ゼノバスとの戦いに決着をつける戦士を作り上げた」

 ノイズのかかっていた映像が切り替わる。

「第二世代ドレッサー・システム。これこそが、ゼノバスのコアの破壊に成功した完成形だ。どんなに抵抗されても再生を微塵も許さない、ゼノバス絶対ぶち殺すマシーンなのさ」

 二人の戦士。ドレッサー・レイヴの後を継ぐ、新世代のドレッサーの姿。その姿がモニターに表示される。


 一人は【ドレッサー・レイド】。

 そしてもう一人は【ドレッサー・ブレイヴ】だ。


「この機を見計らったかのようにゼノバス達もついに姿を現した。数日も経たないうちにこの真宿へ再びゼノバス達の魔の手が迫るだろう。それに対抗するため、私達も表舞台に……というわけさ」

「なるほど」

 両手を組んで、パイプ椅子に腰かけ映像を見ていた汐が頷く。

「俺にはよーく分からないってことが、よーく分かった」

 長話。専門用語が大量に出てきて何がどういう事なのかさっぱり分からない。

 元より頭はよくないらしい。あんなに頭良いって自慢していたのに。

 汐の頭はもうパンク寸前で誇らしげに宣言する。

「結構分かりやすく言ったんだけどな……」

「変異種の事とか、ゼノバスがヤバい奴ってのは分かった」

「どちらかというとシステムの方を理解してほしかったんだけどなぁ。機密事項だからマニュアルなんてものはないし」

 機密保持のため、可能な限り書類などで記録は残さない。今ここで覚えた機密事項だけは頭に詰め込んでほしかったのが璃亞の本音だ。

「ああ……あとそれともう一つ気になる事があったんだ」

 汐は人差し指を映像ではなく、一人の科学者に向ける。


「お前誰だ」

 いつの間にか映像室にいた“モジャモジャ頭”の男。この人物が一体誰なのかと汐は首をかしげながら問う。

「私の事はコードネームである【アイン・輪島】とでも呼んでくれ。私はプロフェッサー・璃亞の研究仲間だよ」

 初老の男。アイン・輪島は頭を下げて丁寧に自己紹介。

「彼はゼノバスの研究をしている。うちのチームにはかかせない天才の一人さ」

「ふーん」

 ドレスの一員であることを知り、ひとまず汐は首を縦に振る。

「……んで、その二人のドレッサーの内の一人が」

 映像に映るドレッサー・レイド。

 それを指さしながら、汐の視線は映像から右隣のパイプ椅子へと向けられる。

「コイツってわけ?」

 黒いゴスロリチックの私服姿。ちょこんとパイプ椅子に座って映像を見上げている莉々。この少女こそがドレッサー・レイドの【莉々・シュノーケイル】だ。


「あぁ。彼女がドレッサー・レイドだよ」

「片割れがどう、とか言ってたな? 映像を見る限り、ドレッサー・レイヴを二つに分けてるように見えたんだが……」

「ドレッサー・レイヴの力はあまりに強大でね。それをパワーアップさせた個体となるとね。変に扱い過ぎると東京を吹っ飛ばしかねないんだ……それを防ぐためにレイヴを二つに分ける形になった」

「んで、こっちは【ぶ、らべ】?」

「ブレイヴだよ」

 【BRAVE】。簡単な部類である英単語ですら汐は読むことが出来なかった。


「スピード重視であるレイドは逆に、パワータイプの片割れさ」

「なるほどな。んで、このブレイヴの装着者って誰なんだよ?」

 あの場では流れで変身したが、何処かに本来の使用者がいるのだろう。

 どのような人物なのか、そもそも聞き出せることなのか。

 汐は腕を組みながら聞いてみる。

「それなんだけどね。汐君」

 笑みを浮かべたまま、璃亞は告げる。


「君になっちゃったんだよね」

「なるほど俺かっ! ……って、なにぃいーーーっ!?」


 それこそ昭和のリアクション。

 パイプ椅子から転げ落ちる丁寧なノリツッコミ。ここまで見事な様式美を見せられると拍手をしたくもなる。

「いやね。君の思う通り本来の変身者はいたんだけど……あの時、君が無理矢理変身しただろう? 実はあれがブレイヴの初起動でね。その際に君がブレイヴの使用者として登録されちゃったんだよ」

 変身する前、体に妙な違和感があった。体の中に何かが流し込まれたような。

 あの気持ち悪い感覚。体中に熱が込みあがってきた。おそらく、あの感覚が“装着者登録”に関する何かだったのだろう。

「正直パニックになってるとは思う。しかし、ここまで来たのなら次はどんな質問が来るか馬鹿でも察しはつくと思う……さぁ、本題だ」

 怪物の正体、エネルギーのありか。そして組織の全貌。

 それを包み隠さず話したうえで……もう一つのドレッサー・システムの登録者が汐になってしまったという事実まで全てが告げられる。


 ここからだ。いよいよ本題に入る。


「君はドレッサー・システムをたった一回で制御してみせたね」

 見事、ゼノバス一体を葬ってみせたその実力。

 その全てを踏まえた上で、組織の“最高責任者”の口から告げられる。


「汐君。君の力を貸してくれないかな?」

 その計画の一端を担ってくれないかと。


 この世界を救う、英雄になってくれないかと-----


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<ドレッサー・レイヴ>

 かつて真宿を救った英雄。歴史において『機械天使』と呼称される。

 数千万近くのゼノバスを一掃し、光の力にて世界の危機を救った。


 純白のドレスに似た機械装束と緑色の羽が、天使と呼ばれるゆえんである。

 

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