第53話 ヒーローと写真撮影するアイドル達

『バイバ~イ!!』



 観客に手を振って一人一人テントにハケていく仮面ライダー達。

 一番最初にハケていったのが連くんなのは少し残念。


 仮面ライダー達と入れ替わる様にステージに再びMCのアイドルの人が現れる。今後の流れを説明するようだ。



「思ってた以上に凄かったわね…」


 穂希がそう呟く。それは私も全く同じ気持ちだった。今回、私達が無理を通してやって来たのは他ならぬ連くんを観る為。確かにそれは達成できた。凄く満足。

 でもそれと同じ位にショーのクオリティが凄かった。正直、私はどこかでヒーローショーは子供だましのものだとバカにしていたのかもしれない。

 でもそれは浅はかな認識だったと思い知らされた。

 それだけ今回のショーはストーリーもアクションも演出もクオリティが高かった。連くんが夢中になって打ち込むのも分かる気がした。

 そしてそんなショーに自分の弟で愛する男の子が出演している事が何だか誇らしく思えた。



「凄く面白かった。でもやっぱり一番格好いいのは連ちゃんだね。ラストの一騎打ちのキックなんて惚れ惚れしちゃった」

「そんなの当たり前よ。連くんは元から格好いいもの。どんな所作だって格好よくキメてくれるわ」



 昔から連くんはやたら動きが大仰な所がある。それは特撮ヒーローの真似をしていたからなのだけど、結果的にそれがヒーローショーという仕事にはプラスに働いたのかもしれない。



「にしても、これが入場無料のイベントでやってるって凄いわね。これ下手なアイドルのライブとかより凄いんじゃない?」

「それは言えてるかも。こう改めて観たらヒーローショーへの認識を改めなくちゃならないね」

「そういう意味でも連くんには感謝ね。私達にこうやって新しい気付きをくれる。やっぱり

私達にとっては大切な人なのよ、連くんは」



 それは間違いなくそう。連くんと一緒なら私は何でも知れるし、何にだってなれるし、できる。やはりそう思わせてくれる人はこの世界で連くんだけだ。



「それでは今からお手持ちのカメラで写真撮影会を行いまーす!一組ずつの参加となりますので、参加ご希望のお客様は客席から向かって右側のですねー!手を上げているお兄さんの所から順番に並んでくださいねー!なお参加無料でーす!!」



 えっ?参加無料の撮影会?ステージで連くんとツーショットできるの?しかも無料で!?



「えっ?連くんとツーショットとかいけちゃうの!?えっ!?お金いらないの!?むしろいくらでも出すわよ!?」

「水沙、落ち着いて…」

「閲覧無料のショーの撮影会なんだから無料に決まってるじゃない…」



 混乱する私を冷静に突っ込む2人。むしろ2人が何でそんなに落ち着いていられるのかが分からない。



「と、とりあえずこういう時は堂々と並べば良いのよ!ところで綺夏、今のアタシ、決まってる?変じゃない?」

「大丈夫、変じゃない?それよりわたしどう?連ちゃんと並んで恥ずかしくない?」

「大丈夫。イケてる」



 お互いでお互いを確認しあう2人。何だかんだ言って2人も混乱している様だった。



「とりあえず並ぶわよ…」



 意を決して列に加わる私達。監視役の人達も一応撮影会に参加する様だ。あれ?でも開演前より監視役の人達の目が違う気がする。彼らもショーを観て童心に返ったのだろうか。

 ある意味、職務放棄かもしれないが仕方ない。あれだけのものを見せられたらそうなるものなのかもしれない。

 そして先程見かけた女の人もそのしばらく後ろに並んでいた。


 すると、テントから3人に人物が出てきた。恐らくスタッフだろう。中肉中背と言うには少しばかり鍛えられた感じの壮年の男の人、少し小柄で細身の男の人、帽子を被った背が私と同じ位が心なしか低い位のそれでも背の高い女の人が現れた。

 3人は上手と下手に別れて待機する様にしゃがむ。

 その女の人を見て私は違和感を持った。あの人、どこかで見た事がある気がする…。

 それだけじゃない、私にとって何か大切なものを奪ってしまうそんな存在になるんじゃないかという直感を抱いてしまった。彼女と私は分かり合えない、そんな事すら思ってしまう。

 何を考えているの?私?相手はただのスタッフじゃない。どこかで見た事があったかもしれないけど、そんなの確証も無い。他人の空似かもしれないし疑心暗鬼になり過ぎている。



「それじゃあまた仮面ライダー達に登場してもらいましょうか!それじゃあ皆用意は良い?練習無しの一回で行くよー!せーの!仮面ライダー!!」

「「「かめんらいだー!!」」」



 再びステージに連くん達仮面ライダーが現れた。ポーズを決める姿が様になっていて格好いい。改めて惚れ直してしまう。と言っても私の連くんへの好感度なんてとっくの昔にカンストしてるんだけど。それが落ちるなんて今後一生ありえないだろうし。



『会場の皆、今から写真撮影会だ!』

『俺達と楽しい時間を過ごそうね!』

『それじゃあお姉さんよろしくお願いします!』



 口々に会場の観客への言葉を紡いでいく連くん達。わずかに連くんの声も聞こえたからやっぱり仮面の下で台詞を言っているんだろう。そういう所連くんらしいな。



 そうして写真撮影会はつつがなく進行していった。途中で子供が泣き出して結局カメラをスタッフの男の人に渡して子供と一緒に写真を撮るお父さん等もいて見ていて微笑ましかった。


 しばらくして私達の前の順番の子の番になった。あ、あの子、隣で立って応援していた男の子だ。

 お父さんが撮影役として連くん達の向かいに立って写真を撮っている。


 写真を撮り終わった男の子は仮面ライダー一人一人と握手して最後に連くんに抱き着いた。

 そんな男の子を連くんは優しく抱き返し、かつ頭を撫でていた。男の子は嬉しそうに笑っている。


 連くんも仕事として、仮面ライダーになりきってしているのは分かっているけど、そうやって他の誰かに対して優しくしている姿を見て純粋に羨ましいと思ってしまう。

 そういえば私から連くんを抱きしめる事はあっても連くんが私を抱きしめてくれた事は元より抱き返された事すら一度も無い。いつも離してほしそうにしていたり鬱陶しそうにしているばかり。その事実が無性に寂しく思えた。

 でも今なら私から抱きしめたら抱き返してくれるかな?やってみても良いかもしれない。



「次の方、3人一緒に撮られますか?」



 そんな事を考えていたら私達の番になってみたいだ。

 スタッフの壮年の男の人から質問されて気付く。

 3人一緒か…。



「あの、1人ずつって行けますか?」

「はい行けますよ」



 ナイス綺夏!正直折角なら1人で…と思っていたので綺夏のこの提案は渡りに船だった。

 それにしてもこういった時、フレキシブルな対応ができるのもヒーローショーならではなのだろう。私達アイドルのイベントとかだとそうはいかない。



「そ、それじゃあアタシからね…」



 まず最初は穂希が行く事になった。スタッフの壮年の男の人にカメラを起動したスマホを渡すその姿は傍目で見ても分かる位にガチガチに緊張している様だった。



「では好きな仮面ライダーはいらっしゃいますか?」

「え~と!その左端にいる人で!」

「RXですね。RXセンターでお願いします!」



 スタッフの壮年の男の人の指示に連くんが拳を握りしめて応える。ああその姿も格好いい…!

 そして連くんがセンターに立つ。

 一方の穂希がやっぱりガチガチに緊張した状態で連くんの所へ向かって行った。こんな穂希見るの初めてかも。昔こそ背が低い事を揶揄われて縮こまっていたけどアイドルにデビューしてからは逆にその小柄さを可愛さという武器に変えて胸を張って堂々としていてどんな仕事でも緊張している所を余り見ないから穂希でもああなる時があるんだと思ってしまう。



 穂希が自分の傍に来たのを見計らって連くんは迷う事なくポーズを決めていた。

 あれ?ひょっとして私達に連くんは気付いていない?私なんてこの前のデートと同じ見た目をしているのに?

 でも連くんの事だからありえるかもしれない。特に今日は初めてのヒーローで必死だろうし。仕方ないと思いつつちょっと残念にも思う。



「はいそれじゃあ撮りますよー!3,2,1!ハイ!オッケーです!」



 穂希が撮り終わった様でそのままスマホを受け取ったスタッフの女の人が穂希の所へやって来て誘導する。

 穂希はとりあえず連くんと握手だけはできた様で何だか夢見心地に見えた。



 次は私の番か…。穂希も緊張していたみたいに私も緊張しているみたい。胸がバクバクする。私も普段の仕事は最初こそ緊張していたものも慣れてきたからか近頃は平常心になっていたからこういった緊張は久しぶりだ。



「好きな仮面ライダーは…」

「わ、私も同じで!」



 スタッフに壮年の男の人にスマホを渡す際、つい食い気味で反応してしまった。

 男の人も少し苦笑気味だ。

 あー緊張する。連くんが優しく手を差し出して招き入れてくれる。

 やっぱり連くんは私だと気付いていないみたい。扱いが他の人と同じなのは姉として少し悲しかった。必死なのは分かるけど…。


 せめてもの思いで差し出してくれた手を握り返して少し近づく。恐らく今少しはにかんでしまっているだろう。抱きしめようとも思ったけど、公衆の面前でかつ先程の穂希の緊張が移ったのかこれが精一杯だった。



「ハイ!オッケーです!」



 男の人の声が聞こえる。もう私の撮影時間は終わったようだ。すぐ過ぎて残念。もっとこの時間を長く堪能していたくて動けなくなってしまう。



「それでは次の方に変わってあげてください」



 スタッフの女の人がやって来た。やっぱり背が高いな。私も長身だけど目線が少し下な位だ。やはりこの人は何か引っかかる。

 でもこれ以上いては恐らく進行に差し当たりがあるし、連くんに迷惑をかける事になるかもしれない。名残惜しさを胸に私は穂希のいる端の方に向かった。



 次は綺夏の番だ。綺夏もそれほど緊張するタイプではない。むしろ「ディーヴァ」のセンターとして頼もしい位に動じない。基本的に堂々としている私達の中でも一番堂々としているのが綺夏だ。だから今も1人だけ全く動じていなかった。



「流石綺夏ね…」



 穂希の口からそんな言葉が思わず零れる。多分私と同じ考えなのだろう。


 すると綺夏は私達同様迷う事なく連くんをセンターに指名するとそのまま連くんに抱き着いていた。



「えっ!?」

「ちょっと!?」



 大胆過ぎる行動に私達は驚きを隠せない。確かに綺夏は何を考えているか分からない所があるけど、公衆の面前でそこまでやる度胸があるとは思っていなかった。

 「お姉さん、大胆ですね~!」とMCも驚いた様子だった。

 ただスタッフの人達は慣れたものといった風だったけど。

 綺夏みたいな行動をとる人は他にもいたりするのかしら?



「ハイ、オッケーです!」



 綺夏の番の写真撮影も終了した様だった。



「「!?」」



 その時、綺夏が連くんにキスをした。勿論、連くんは仮面を被っているから直接じゃない。

それでもいきなりのインパクトは私達を驚愕させるには十分だった。

 余りの事でスタッフの人達、MCの人も一瞬固まった。



「っ!?」



 キスされた連くんは何かに気付いた様だった。恐らく仮面に阻まれているからキスの感触で気付いた訳じゃないみたいだけど、自分の目の前にいる人物が綺夏である事には気付いた様だった。

 そしてこちらも見る連くん。綺夏のキスでようやく私達に気付いたんだ…。

 あれ位しないと連くんは気付かないのかと緊張でそこまで意識が回らなかった自分が悔しい。そして仮面越しでも連くんとキスした綺夏が妬ましい。淑女協定破ってるわよ!



「すみませんが、次の方の順番がありますので」



 スタッフの女の人が綺夏を私達の方に向かわせる。その言葉にはどこか棘がある様に感じた。

 一方の綺夏は悪戯が成功した様な子供の様に上機嫌だった。



「ちょっと一体何やってんのよ!?」

「私もしたかったのに!?」

「フフッ、こういうのはやったもの勝ちだよ」



「………………………へぇ」



「……あれって………」



 綺夏に文句を言う私と穂希の姿をスタッフの女の人が意味深な表情で見つめていた事、ハッとした表情をした女の人、2人の視線にその時、私は気付かなった…。

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