第52話 劇中劇、ショーに見入るアイドル達

『1989年、仮面ライダーBLACK RXとシャドームーンは宿命に終止符ピリオドを打とうとしていた…!』



MCのアイドルの人がPAにハケていくと同時にナレーションらしき声がする。

その直後、下手側のテントから黒と緑の仮面ライダーと銀と黒の仮面ライダーが飛び出してきた。

ステージのセンターを中心にして激しく戦う2人。

いきなりの戦闘シーンに正直、私は驚いてしまう。もっと静かに始まるかなと思ったら最初から戦うなんて。この構成なら子供は間違いなく見入ってしまう。



『シャドームーン!頼む!俺は子供達を助けに行かなければならないんだ!!』

『黙れRX!貴様は俺と決着をつけるのだ!!』

『くっ…!戦うしかないのか…っ!』



 少しのやり取りをしてまた戦い始める2人の仮面ライダー。

 私はRXと呼ばれた黒と緑の仮面ライダーの動きにふと既視感を覚えた。

 間違いない、連くんだ…!



「ねぇ、あの黒と緑の方、連ちゃんだよね」

「確かにそうね。でも声が違わなくない?」

「あの声は音源よ。でも所々で連くんの声が聞こえてる。台詞を覚えて喋ってるんだわ」



 綺夏と穂希も感づいた様だ。でも確かに穂希の言う様に声が違う。それに仮面も被っている。でも私は連くんの姉を15年やっている。一緒に過ごした時間は誰よりも長いと自負している。だから間違えない。間違える訳が無い。この世界で一番大好きな人はすぐに分かる。



『クライシスは俺諸共、お前を消すつもりだ!』

「クライシスは俺諸共、お前を消すつもりだ!」



 耳をすませば、音源の声の下から連くんの声が聞こえる。

 その声からは必死さが痛い程に伝わってきた。

 頑張って連くん…!



 ストーリーの序盤は過去の話でRXと呼ばれる仮面ライダーとシャドームーンと呼ばれる仮面ライダーが戦うも別の存在の横槍が入り、結局決着を付けられなかったというものだった。

 ヒーローショーは昔、連くんについて行って観に行く位で自分から観に行くなんて事は無かった。だからショーそのものはそっちのけでそのショーを食い入る様に観る連くんばかり見ていた。

 だから今は凄く新鮮な印象だ。



『信彦ぉぉぉぉっ!!』



『そして時は流れ現在…!』



 連くん演じるRX?の絶叫が響いた後、連くんは一目散にテントに向かって行く。

 場面転換らしきナレーションが流れる。

 あ、出番終わっちゃった。もっと観たかったな…。



「あれ?今ので終わり?」



 穂希もちょっと残念そうに呟く。気持ちは痛い程分かる。私ももっとステージに立つ連くんを観ていたい。



「まだ出番はあるんじゃないかな。一応告知でも連ちゃんのやってる役はメイン級の扱いだったし」



 綺夏がそう言う。確かにまだ開始してからそんなに経っていない。もっと出番があるだろう。それを期待しよう。



 その後、ストーリーは展開し、怪人と戦闘員らしき2人組のコントの様な内容で進行していった。どうやら先程、戦っていた相手――シャドームーン?はその後、決着をつける事なく死んだらしい。

 怪人達はシャドームーンを自分達の都合のいい兵士にする為、再生催眠装置を使って蘇らせるという流れだ。

 冒頭はその為の伏線だったのね。という事は連くんは現在の姿という事でまた出てくるのかな。流石に見た目は変っていないと思うけど…。


 その時だった!



『そうはさせんぞ!』



 台詞と共に連くんが飛び出してきた!

 思っていたより早い再登場に私の胸が熱くなる。



『ゲェーッ!RX!?』

『おのれショッカー!今度は何を企んでいる!』



 ファイティングポーズをとる連くん、格好いい!仮面を被っているけど、中は絶対に凛々しい顔をしている。ああーっ!写真撮りたい!むしろ仮面外して今すぐその凛々しいお顔をお姉ちゃんに見せてー!!


 私が舞い上がっていても無情にもストーリーが進行していく。

 連くんが怪人達と戦う場面だ。



『イィーッ!!』

『トアァッ!!』

『おのれぇーっ!!』

『ハァッ!!』



 ブン!バキッ!ドカッ!バシッ!



 連くんと怪人達の激しい戦いをSEが激しく盛り上げる。

 負けるな!頑張れ!私もつい熱が入ってしまう。


 連くんが怪人の動きを固めて視線を戦闘員に向ける。戦闘員も動きが止まる。



『会場の皆はこの俺が守る!!』

「会場の皆はこの俺が守る!!」



「ねえちゃんはこのおれがまもる!!」



 あの日の記憶がリフレインした。私は昔から体の成長が早く大人びていた。確か小学生の時に同級生で一番早くブラをつけたのも私だった。それをよく男の子達から揶揄われていたし、大人達からも性的な目で見られる事が多く、ナンパや痴漢に遭うなんてしょっちゅうだった。

 そしてある日、そんな小学生だった私はレイプされかけた。

 相手は大柄な大人の男だった。私は家族で出かけていた時、両親の目が一瞬私を離した隙に連れ去られ、人目のつかない場所で押し倒された。

 怖かった。とにかく泣いて助けを呼んだ。でもそれは男の加虐心を煽るだけだった。

 そして私は服も下着も無理やり脱がされ、裸にさせられた。


 イヤだ…!怖い…!誰か助けて…!


 その時だった。



「ねえちゃんはこのおれがまもる!」



 連くんがやって来た。私がいない事に気付き、私の泣き声を聞いて駆けつけてきたのだった。でもあの時の連くんはまだまだ幼かった。だから大人の男に真っ向から立ち向かっても勝てるはずが無かった。そして男は激昂し、連くんが持ち歩いていた玩具の武器をバラバラに破壊した。

 それで連くんは大泣きしだして、私もそれにつられる様に更に大泣きしてしまった。

 そんな私達に他の大人達がようやく気付いて警察を呼んでくれたし、両親も私達を見つけてくれて男は警察に連行された。


 今思い出しても辛い記憶ではあるけど、一方であそこに連くんが助けに来てくれたからこそ私は連くんを後戻りができない位に愛するようになったんだと思う。

 私が過去に思いを馳せている内にストーリーは進行していて連くんは再びステージからいなくなっていた。


 もう何やってるのよ、私…。連くんの動き一挙一動しっかり見なきゃいけないでしょ!

 軽く自己嫌悪に陥る。実際、綺夏と穂希は食い入る様に連くんを観ていた様だった。

 今は集中!集中!



 今は薄い緑の仮面で銀色のグローブとブーツの仮面ライダーと赤い仮面に緑の体をした仮面ライダーの2人が舞台上に居た。



『君達、今ショッカーを見なかったか?』

『何かあったなら俺達に教えてくれ』



 2人の仮面ライダーが客席に尋ねる。こういった演出もヒーローショーならではのものだろう。

 観客の子供達が次々と「しょっかーがきたー!」「しゃどーむーんをいきかえらせようとしてたー!」と口々に叫ぶ。ちょっと微笑ましい。



『何だって!?シャドームーンを!』

『命を弄ぶ奴らの考えそうな事だ…!』



 その時、BGMが不穏なものに変わり、カシャンカシャンと機械的なSEが会場に響く。



『この足音は…っ!?』

『奴が来る…っ!!』



 荘厳なBGMに変わり、先程やられたシャドームーンがステージに現れた。

 圧倒的な迫力が会場に緊張感をもたらす。私も見入ってしまう。



『シャドームーン!!』

『蘇ったのか!?』

『…仮面ライダーは、俺が倒す……っ!!』



 戦い始める3人の仮面ライダー。シャドームーンを2人を一方的に攻撃する展開になっている。客席から子供達の「頑張れーっ!!」の声援が轟く。

 でも、子供達の声援虚しく2人の仮面ライダーは防戦一方だ。



『何て強さだ…!』

『怨念の力で強化されているんだ!』


『最期だ…っ!仮面ライダー!!』



『待てっ!!』



 間一髪、連くんが現れて3人の間に割って入る。続けて怪人と戦闘員もステージ上に現れた。



『何だ、成功してるではないか!!』

『やりましたねっ!イーッ!!』



 下手端で喜ぶ芝居をする怪人と戦闘員。ステージ上で連くんとシャドームーンが睨み合う。絶対に仮面の下の連くんは私が見た事が無い形相をしているだろう。あっでもそんな風に私も一度は睨まれてみたいかも。いけない、ヒーローショーで私の中で新たな扉が開かれるかもしれない。



『シャドームーン。お前には安らかに眠っていて欲しかった…』

『仮面ライダーは、俺が倒す…っ!!』



 短いやり取りの後、再び戦う2人。だが、今は連くんは圧倒される側だ。芝居であると分かっていても連くんが痛めつけられる姿は見るのはやはり辛いものがある。



『私達も行くぞ!』

『おう!』

『シャドームーンやめろ!今のお前はかつてのお前じゃない…っ!!』

『黙れ!俺はショッカーの兵士シャドームーンだ!!』

『違う!お前は誇り高き世紀王シャドームーンだ!!うわっ!!』



 連くんの説得をパンチで遮るシャドームーン。3対1でありながらシャドームーンが圧倒し、仮面ライダー達が次々倒れていく展開に客席の子供達の声援が大きくなる。



「がんばれ!かめんらいだー!!」

「かめんらいだー!まけるなー!!」


「あーるえっくすー!!まけるなぁー!!がんばれぇー!!」



 私達の隣で観ていた男の子が思わず立ち上がって連くんを応援している。隣のお父さんらしき男性もかなり熱中してステージを見つめている。

 だが、連くん達3人の仮面ライダーは遂に負けてしまった。



『よし!シャドームーン!とどめをさせ!!まずはRXからだぁ!!』



 何時の間にかセンターにいるシャドームーンを囲む怪人と戦闘員。怪人がシャドームーンに指示を出す。それに従う様に連くんに向かって行く。


 えっ?どうなっちゃうの?ヒーローが負けて終わりな話なの?私は混乱する。綺夏と穂希も固唾を呑んでステージを観ている。



 その時だった。



『くっ…!ち、がう…』



 シャドームーンが右手を必死に左手で押さえる。シャドームーン役の人の演技が迫真過ぎて本当に苦しそう。



『どうした!シャドームーン!?』


『シャドームーンの自我が完全に消えていなかったんだ!』

『RX!皆の力でシャドームーンを目覚めさせるぞ!』

『はい!会場の皆!力を貸してくれ!皆の思いを俺達に集めてシャドームーンにぶつけるぞ!行くよ!せーのっ!!』



「「「しゃどーむーん!!」」」



 会場の子供達の声援が今日一番大きくなる。凄い一体感…。私達がライブのステージで覚える感覚と同じ感覚をヒーローショーの客席で私は体感していた。



『思い出せ!!シャドームーン!!信彦ぉぉぉぉっ!!』


 バキィッ!!


『ぐあぁぁぁぁっ!!』



 連くん達3人のキックがシャドームーンに炸裂する。叫び声を上げて片膝をつくシャドームーン。一瞬の静寂が会場を包む。子供達の目はシャドームーンに向けられていた。

 でも、シャドームーンは再び立ち上がった。



『どうした!?シャドームーン!早く仮面ライダーを…ぐわぁっ!!』



 近寄ってきた怪人を殴り飛ばす。



『俺は貴様らの配下では無い。我が名は世紀王シャドームーン!!』



 シャドームーンの自我が完全に戻る展開だったみたい。この展開に子供達は勿論大人の人達、付き添いで来ているはずの親達も盛り上がっていた。



『シャドームーン!自我が戻ったのか』

『RX、今は一時休戦だ。世紀王の誇りを汚した者達を許しはしない』


『ゲェーッ!シャドームーンが敵に寝返りやがった!』

『イーッ!やばイーッですよ!!』

『そんな事分かっとるわ!!』

『よし皆行くぞ!』

『『『おう!!』』』



 4人の仮面ライダーがステージ全面に並び立つ。会場はもう興奮の坩堝だ。BGMも場面を盛り上げる様な曲に変わる。あ、この曲も連くんがよく歌ってるな。



『仮面ライダー1号!!』

『仮面ライダーV3!!』

『世紀王シャドームーン!!』

『俺は太陽の子!仮面ライダーBLACK RX!!』



 ピキーン!!



 名乗りが決まり、思わず客席から拍手が出る。私達も思わず拍手してしまう。



『許さんっ!!』



 連くんの台詞がきっかけとなり、敵味方入り乱れての戦いをしばらくして連くんとシャドームーン、怪人が残った。



『まさかお前と一緒に戦う日が来るなんてな!』

『抜かるなRX』

『くっそぉ~!やってやる~!!』



 連くん達仮面ライダーと怪人の2対1の戦いが始まった。

 2人の仮面ライダーは息の合ったコンビネーションで怪人を圧倒していく。

 一糸乱れぬってこういう事を言うんだな。連くん凄く一生懸命練習しだんだろうな。でも、連くんとこうやって息を合わせた共同作業ができるなんてあのシャドームーン役の人、羨ましいな…。連くんを好きな女として少し妬けてしまう。

 その間に戦いは終わり、別の2人の仮面ライダーと戦闘員の戦いとなり、戦闘員が倒されてテントにハケていった。

 入れ替わる様に連くん達3人が現れる。



『会場の皆!これが最後の戦いだ!』

『皆も一緒に戦ってくれ!』

『お前達の力、見せてみろ!』

『大きな声で!せーのっ!!』



「「「がんばれー!かめんらいだー!!」」」



 さっきの声援が一番大きいと思っていたけど、それ以上の声援が轟く。

 凄い…。



『ぶっちぎるぜぇっ!!』

「ぶっちぎるぜぇっ!!」



 恐らくまたきっかけとなるであろう台詞が音源の声と連くんの声の二重唱になっている。

 きっと連くんも相当の気合いが入っているだろう。それが手に取る様に分かる。

 舞台上で激しい戦いが繰り広げられていた。



『とどめだ!』

『『『おう!!』』』



 1号?の号令で怪人を取り囲む様な体勢を取り、それぞれポーズを決める仮面ライダー達。

連くんはしゃがんで地面にチョップしている。恐らく連くんがしているのならそういう演出なのだろう。



『『『『ライダーキック!!』』』』

『ぐわぁぁぁぁっ!!ショッカー軍団!万歳!!』


ドカァァァン!!



 爆発のBGMでハケていく怪人。そしてそれぞれポーズをとる連くん達。

 客席からまた大きな拍手が起こった。



『シャドームーン。これからも俺達と一緒に…うわぁっ!!』


バキィッ!!



 手を取ろうとした瞬間、シャドームーンが連くんを殴る。

 余りの展開に客席に唖然とした空気が流れる。私達もこれでハッピーエンドだと思っていたから凄くビックリした。



『言ったはずだ、一時休戦だと。あの者達が居なくなった今、俺の敵はRX!貴様だけだっ!!』

『シャドームーン!もうやめろ!俺はお前とは戦いたくないんだ!』

『俺と貴様は世紀王。創世王の座を巡り戦う宿命にあるのだ。来い!決着をつける時だ!!』

『くっ…やるしかないのか…っ!』

『RX!』

『待てV3!』

『しかし先輩!』

『ここはRXに任せよう…』



 1号とV3?が両側で待機し、センターを割って再び睨み合う連くんとシャドームーン。

 客席も先程までと一転、重々しいまでの緊張感が漂っている。



『RXキック!!』

『シャドーキック!!』



 センターで2人の重なり合う様に連くん達が飛び蹴りを決め地面に着地する。

 飛び蹴りを決める連くん、凄く格好いい…。改めて仮面の下の顔が見たい、そう思ってしまう。



『うっ…!』

『『RXっ!?』』



 そろままよろける連くん。え?連くん負けて終わりなの?



『これで俺が創世王だっ…うっ…!!』



 勝ったはずのシャドームーンが突然苦しみだす。あっ、そういう展開なんだ。



『シャドームーン!』

『来るな!RX!この勝負、貴様の勝ちの様だな…。だが、これで良かったのかもしれない…。俺はこれで悔いなく地獄へ行ける……』

『信彦っ…!』

『俺達の宿命が今終わる…。さらばだRX!!いや俺の親友、南光太郎ぉぉぉっ!!』

『信彦ぉぉぉぉっ!!』



 ドカァァァァン!!



 爆発音と共にテントにハケていくシャドームーン。

 それと共に曲もバラード調のしっとりとしたBGMに変わっていた。これで終わりなのかしら?



『RX…』

『よくやったな』

『シャドームーンは…信彦はあれで良かったんでしょうか?』

『シャドームーンは人間の心を取り戻したはずだ』

『お前は奴を最期に救えたんだ』

『先輩達…』

『私達にはまだやるべき事がある!会場の皆!今日は応援本当にありがとう!』

『これからも俺達は戦い続ける!』

『もう二度と俺と信彦の様な悲しい宿命を生み出さない為に!』

『さぁ行くぞ!私達は人間の自由と平和を守る』

『『『仮面ライダー!!』』』


 ピキーン!!



 また大きな拍手と共にショーは大盛況で幕を閉じた。

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