第32話 放課後、保健室にて

 来たれ破軍星!輝ける星よ!


 誰かの声が聞こえる。俺の目の前に赤く輝く星が落ちてきた。

一体何だ…!?


 赤い星は俺の目の前で姿を変えた。漆黒の体、蝙蝠の様な赤い目、そして胸の赤い模様、トゲトゲした大きな耳の騎士、黄色い体に赤い目とトサカ、耳が黒い羽の形をした騎士、赤い大きな頭に青い体の騎士の3体に。まさかあなた達はっ…!?破軍星、やはりあの星だったのか…!?


あなた達こそかの伝説の悪魔三銃士アクマイザー3…!!



「新しく生まれた超神」

「拙者らアクマイザー3からプレゼントがあるんじゃ」

「そやそや、良いもんやで見てみぃな」



 超神、それは破軍星に導かれた宿命の者にして空を制し、陸を制し、海を制する神を超えし神。俺の瞳の中に輝く星を見出した人はついぞ現れなかったが、俺は妖怪と戦う宿命を持って生まれてきたのか…。

アクマイザー3からのプレゼント、間違いない…。



 その時、世界が大きく揺れた。



「くん…!連くん…!連くん…!」



 俺は目を覚ました。何だあれは夢か…。どうせなら俺は超神に変身して妖怪と戦う展開になりたかった。何?それをやるとジャンルが変わる?これはラブコメだって?いや俺ラブコメとか興味ないし。

誰にでも言った訳でもなく目を開けるとそこには姉ちゃんの姿があった。


 確か昼休みに…。うっ!頭が…!急に頭痛がしたので俺はその考えを辞め、別の事を考える事にした。ここは保健室?どうして…?



「保健室…?どうして…?」

「良かった無事で…。昼休みに急に倒れてお姉ちゃんビックリしたんだよ?」



 俺が横になっているベッドの横で涙を浮かべている姉ちゃん。何だか心配をかけたみたいだな。途端に申し訳気持ちになってくる。



「でも良かった…。連くんが無事で…。いきなり連くんが倒れてお姉ちゃん不安だったし怖かったんだよ…」



 姉ちゃんが俺を抱きしめる。いつもなら引き剥がそうと頑張るが、今はそうならなかった。

単純にまだそこまで体力が回復していないのだろう。だから、姉ちゃんにされるがままだった。


 ってか、今日、RAMの通常練習の日じゃん!今は何時だ?俺はどれだけ意識が無かったんだ?



「今って何時?」

「今、18時半前だね。もう最終下校時刻になっちゃう」



 俺、そんなに意識無かったのか。今が18時半前なら今から学校を出れば何とかRAMの通常練習開始時間の19時には間に合うな。ただ、姉ちゃんの抱き着きを回避できない様にまだ体力が完全に回復している訳ではない。今日の練習はアクロバットだ。ちょっと不安がある。だが、休むという選択肢は俺にはなかった。特に今はゴールデンウィーク直前だ。少しでも技を沢山覚えて、どんな場面にも対応できる様にしたい。体力も通常練習が始まる前に回復すれば問題ない。


 俺は起き上がって、ベッドから出た。



「よし、早い所帰ろう」

「大丈夫?まだ連くん、顔が青いよ…」

「これ位なら何とかなるよ。それより急がないと練習に遅れる」

「練習って駄目だよ!まだ完全に回復している訳じゃないんだから!」

「大丈夫だって、姉ちゃん気にしすぎ」

「気にするよ!お昼にお弁当を食べてた時に急に倒れたから、もしかしたら私のせいなんじゃないかとか思うし、それに連くんに無理して欲しくないから…。連くんが辛い時はお姉ちゃん、傍にいてあげたいから…」



 昼…。うっ…!また頭が。何だろう。今日の昼休みの事を考えようとするとまた頭痛がする。とにかく今日の昼休みの事は考えない方が良い様だ。


 一方、凄くうなだれる姉ちゃん。何やら色々と責任を感じている様だった。

何だかんだ言っても姉ちゃんにそんな表情をさせるのは心苦しい。でも練習は休みたくない…。


 その時だった。



 ヴーヴー!



 俺のスマホが振動している。目をやると姉ちゃんが座っている椅子の横の椅子に俺のスマホと財布が置いてあった。恐らく、俺をベッドに寝かせる際に姉ちゃんが俺のポケットから出しておいたのだろう。


 誰だろう。ラインに新着のメッセージが届いていた様だった。RAMのグループラインで叶さんが送ってきたようだ。何々…。



『今日、事務所の掃除をして昔の戦隊やライダー、プリキュアの番宣用、イベント用ポスターやサイン色紙、ノベルティが沢山出てきました。これら全て今日の練習後に廃棄する予定です。もし欲しいものがあったら練習の時に申し出てください。好きなものを持って行ってください。早い者勝ちです。なお、転売禁止です』



 な、な、な、何だってーっ!?



 なかなか入手が難しいポスターやサイン色紙、ノベルティが貰える!?

 こうしちゃいられない!!RAMは俺以外にも特撮オタクの先輩もいるし、何があるか分からない。しかも今日の練習に行かなければモノによっては二度と手に入らないものもあるだろう。急げ!!事務所へ走れ!



「姉ちゃん!早く帰ろう!そして俺は練習に行く!!」


「え?ちょっと連くん!?」



男なんだろ!グズグズするなよ!胸のエンジンに火をつけろ!!

叶さんのメッセージで俺のテンションは一気に高まった。体力?ああ戻った!戻った!

俺はすぐさまダッシュし、保健室を出て、下駄箱で靴を履き替え、家に帰った。

姉ちゃんも訳が分からず、俺の後を追いかけてきたようだった。



 その後、RAMでの通常練習は特につつがなく終了した。

いやむしろアクションをやった事で俺の体調は倒れる前の午前中より良くなった様に思える。

 武田さんや岡部さんからも「最初来た時は青い顔をしていて大丈夫か?と心配したけど、練習していてどんどん顔色良くなっていったな」と言われた。

そして廃棄予定だった沢山のポスターやサイン色紙、ノベルティを手にホクホク顔で銭湯に寄り、帰路についた。何だかミーティングや練習後の銭湯は癖になる。



 帰宅し、自室に戻るとそこにはさも当然と言った顔で姉ちゃんがベッドの上で正座しながら待っていた。下着姿で。

 姉ちゃんは寒いと赤い半透明のネグリジェ、暑くも寒くもないと白いキャミソールにホットパンツ、暑いと紫の下着だけになる。それを俺は密かにパワータイプ、マルチタイプ、スカイタイプと呼んでいる、今日はスカイタイプか。

何で?と聞くと一緒に寝る為だと言う。そんな姉ちゃんを追い出して眠りにつく。やはり寝るのは一人に限る、うん。


 翌朝、目が覚めるとスカイタイプで俺に抱き着いて幸せそうに眠る姉ちゃんがいた。


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