第30話 平穏な高校生活終了のお知らせ


「ふぃ~」


 あの後、結局、姉ちゃん達3年の教室がある3階まで腕を組みながら行く事になった。

 本当、視線が辛かったです…。

 そして姉ちゃんと別れて何とか自分の教室、自分の席へとやって来た。何だかこれで今日のやる事が全部終わった気がするぞ…。いやいや、イカンイカン。今はまだ火曜日の朝、まだ授業が1日たんまりとあるし、夜はRAMの通常練習があるんだ。

 倒れたら立ちあがれ連!愛は生命いのちの輝き、という奴だ。



「よっ、また今日も朝から随分とお疲れだな」

「おぉ太田か。おはよう。まぁ色々あってな…」



 前の席の太田に声をかけられる。爽やかイケメンは朝から爽やかである。



「そういえばさっき見かけたんだけど、登校の時にお前と一緒にいたの桐生水沙だよな」

「プッ!!ト!ティ!ラーノザウルス!!」



 ああ…。終わった。太田にも見られてたのか。さようなら俺の平穏な高校生活…。

短い間だが楽しかったぜ…。

 倒れたら立ち上がったとしても前よりも強くなれなさそうだ…。



「何なんだよ。そのリアクション……」

「いや気にしないでくれ…。それよりお前見たのか…」

「あぁバッチリと。というか大体の奴らは見てたぜ。血の涙流してた奴とかいたぞ。『桐生水沙に彼氏が!?』とかショック受けてるのもかなりいたぞ」

「やっぱりか…」

「お前本当に桐生水沙と…。いや待て…。お前が桐生で桐生水沙…。まさかっ?」

「ご明察。俺と桐生水沙――姉ちゃんは姉弟だ」

「何なんだよ。だったら言ってくれても良かったじゃないか」

「中学の時、姉ちゃんの弟という事で色々大変でな…。正直あんまり人に言いたくなかったんだ…」

「そうか…。色々あったんだな、お前も。それなら何でわざわざこの高校に入ったんだ?ここは偏差値高いし入るのも大変だろうし、桐生水沙の弟とバレるのが嫌なら他の高校に行けば良かったんじゃないか?」

「それが実はだな…」



 俺は太田にこの高校に入った理由を伝えた。確かにこの高校はうちから近いが、偏差値がかなり高い。しかし俺の学力はそんなに高くない。だから正直、入学は無理だと思っていたし、姉ちゃんとアヤが通っているから他の高校にするつもりだった。だが、俺の知らない間に姉ちゃんとアヤが願書を出していた。そして中学の時の担任に穂希が何か吹き込んだ様で何故か俺の志望校は縁英一本になっていた。そして頭が良い姉ちゃんとアヤの特訓によりこの高校に入学する事になった。何だかハメられたとしか思えない。


 そしてあの特訓は辛かった。正に死ぬより辛いものだった。筑波洋=スカイライダーが「耐えられるか!?」と7人ライダーに問われた時に「俺は、耐えるぞぉぉぉっ!!」と決意して死ぬより辛い友情の大特訓に耐えきってパワーアップした気持ちがよく分かる。まぁスカイライダーは特訓の先に待っていたのは7人ライダーの友情と正義の心というエネルギーを受けてのパワーアップと99の技の会得という何にも代え難いものだったが俺の場合は姉ちゃんとアヤの抱擁とか添い寝とか一緒に風呂に入るとか特に代え難いものでは無かったが。


 ただまぁ、結果的に縁英に入学した事で近くにRAMの事務所があって俺のスーツアクター人生が始まったのだから世の中どうなるか分からない。これについては人間万事塞翁が馬なのかもしれない。



「そうだったのか。お前も苦労してるんだな…」

「いや本当。分かってくれて助かる」

「まぁ気にすんな。俺達友達だろ」

「太田…!」



 感動の友情。これが青春という奴か…!青春爆発ファイヤーの意味が今ならよく分かる。

でも冷静に考えたら凄いフレーズだよな、青春爆発ファイヤーって。

 と俺がそんな事を考えていたら誰かから呼び止められた。



「おい!」



 誰かから呼ばれた気がする。だが何だか嫌な予感がするので無視しよう。そうしよう。

危険な場所に自ら飛び込むのはスタントだけで充分だ。

 あ、そういえば今日の練習確かマットを使ってアクロバットをやるって昨日叶さんが言ってたな。ちょっと楽しみだ。



「何無視してんだよ!コラァッ!!」



 俺は誰かに肩を掴まれた。絶対姉ちゃん絡みだ。中学3年間に受けた感覚と同じだ。



「あっ!須田穂希が来てる!」

「「「えっ!何だと!?」」」



 俺の肩から手が離れた。今だ!俺は一気に人だかりを潜り抜け逃げ出した。

つうか、人だかりできる位来てたのかよ。今見てビックリというか引いた。

 恐らく大方、「ディーヴァ」のファンの生徒や個人的に姉ちゃんを狙ってる連中だろう。

 だが、俺はもうそんな奴らと関わり合いになりたくない。平穏な特撮オタクライフを学校でも送りたい。


 とりあえず朝のHRまで非常階段で時間を潰そう。

 そう思い、非常階段にやって来たら、人がいた。マジか!珍しい…。



「連くん…」



 姉ちゃんだった。ある意味俺が今ここにいなきゃいけない理由を作った張本人だ。

でも何でここに姉ちゃんがいるの?



「嬉しい!お姉ちゃんに会いに来てくれたんだね♡」



 姉ちゃんがまた勢いよく俺に抱き着いてきた。そして勢いで壁にぶつかる!前からも後ろからも圧迫されて痛い!



「ちょ!違う!とにかく離れて!」

「あん♡もう、連くんも恥ずかしがり屋ね♡」

「違うから…。っていうか何で姉ちゃんがここにいるの?」

「それは教室にいると、色んな人が来て大変だからね。中には連絡先を聞き出そうとする人もいるし、告白する為に呼び出そうとする人もいるから。そういう人を避ける為にいつも学校では休み時間は非常階段にいるの。でも初めてだよ、私が非常階段を使う様になってここで綺夏以外の人と会うの。しかも、それが連くんだなんて。運命だね、これは!」



 俺の運命はウェイクアップしていないから最後辺りはどうでもいいとして、なるほど姉ちゃんも大変なんだな。穂希も昨日も人を捌くのは疲れると言っていたし、アイドルだから知らない相手からも馴れ馴れしく来られたりするけど下手に無碍に扱うとそこから悪評に繋がって場合によっては活動にも支障が出る事になるかもしれない。それならば休み時間は人気がいない場所を探してそこで過ごすのが一番良いのかもしれないというのは理解できる。というか、ここアヤも使うのか。



「朝のHRまで時間も無いけど、折角だもん。姉弟水入らずで過ごそうよ♪」

「仕方ないけどそうするか…」

「もう仕方ないは酷いんじゃない。もうちょっと喜ぼうよ。私は嬉しいよ」

「はいはい」



 理由はどうあれ、俺も下手に動くと危ない。ここで姉ちゃんと過ごすのもリスクはあるが仕方ない。

 朝のHRが始まるギリギリの時間まで本当に姉弟水入らずで過ごした。


 そして、休み時間毎に姉ちゃんとの関係を聞き出そうとする連中を撒いては非常階段に逃げ込んで同じ様に逃げ込んできていた姉ちゃんと一緒に過ごすのだった。


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