第6話 我儘なお姉ちゃん

………。



 夜、俺の部屋。机の上や棚には大量の特撮の玩具やBlu-ray、本が綺麗に並べられている。

小学生の頃からコツコツ買い集めてきた全て俺の宝物だ。

そんな宝物に塗れた部屋のベッドで俺と姉ちゃんはいた。


 一緒に寝るというからわざわざ姉ちゃんの部屋から布団を俺の部屋に持って来ようとしたら止められ、一緒に俺のベッドで寝る事になった。俺が横を向き姉ちゃんも横で俺の背中を見ている状態になっている。


 その感想は正直、狭い……。


 俺も姉ちゃんもそれなりに身長はある。むしろ姉ちゃんはスタイルも然る事ながら身長が俺より高い。俺も成長期だしもっと身長が伸びたらより格好いいヒーローを演じられるのかなぁ…とそんな事思いつつもやっぱり狭い。とりあえず1人用のベッドに2人が入るのは無理がある、うん。


 正直、姉ちゃんが俺のベッドにいつの間にか潜り込んで結果一緒に寝ていたというのは昔から割とよくあるのだが、やっぱり狭い。いい加減姉ちゃんに狭いから入ってくるなと言わなければならない。というか姉ちゃんのベッドがまともに使われた事が無いのは流石にどうかと思う。絶対、自分のベッドより俺のベッドで寝てる事の方が多いよ、この姉は。


 またそれだけでなく俺はデビュー現場に向けてとにかく台本と音源を早く確認したかった。姉ちゃんが寝付いたらこそっと抜け出してやろうかな…。

そんな事を考えていたら姉ちゃんから声をかけられた。



「ねぇ、起きてる?」

「起きてるよ」

「ごめんね、私我儘なお姉ちゃんで…」

「別にいいよ。RAMに入った事、俺も姉ちゃんに言い忘れてたし」



 入団してから2週間、一応父ちゃんと母ちゃんには報告はしたけど、確かに姉ちゃんには言っていなかった。

でも今思うとちゃんと言っておけば良かったかなとも思う。そうすれば姉ちゃんの反応も変わっていたのかもしれない。



「初めて私がレッスンに行った日の事覚えてる?」

「初めて…あぁ……」



 姉ちゃんに言われて思い出した初めてレッスンに向かうのに緊張気味な姉ちゃんにエールを送ったんだっけ。もうあれから3年。それで今や芸能界を席巻するトップアイドルに君臨しているのだから凄い。



「連くんが『姉ちゃんがんばれ!姉ちゃんならきっと凄いアイドルになれるよ!!』って言ってくれんだよね…。それなのに私は連くんには言えなかった…」

「別にそんな事気にしなくていいよ」

「気にするよ!連くんは私がアイドルになるのを応援してくれた。でも、私は連くんがアクションチームに入った事を素直に応援できなかった…」



 姉ちゃんは肩を震わせていたのは背中越しでもはっきりと分かった。普段は妖艶で優雅な大人のたたずまいで実年齢より大人びていると言われる事が多いアイドルだが素は割とポンコツで涙脆い所がある。



「今は無理に応援しなくても良いよ。いつか姉ちゃんが素直に応援できる時になったら応援するでいいから」

「連くんはそう言ってくれるけど、やっぱり私は応援したいな…。元々連くんは特撮オタクで私より特撮優先はずっと昔からだから。もう慣れてるし」

「まぁ確かにそういえばそうか」

「ちょっとそこは少しは否定する位してよ…」



 急に姉ちゃんが文句を言い始めた。何でだ?



「ところで、その、ヒーローショー?の仕事、連くんが出る事のは当分先?」

「ううん。今週の日曜にデビュー」

「日曜!?」



 姉ちゃんが素っ頓狂な声を上げた。



「最悪…。その日は収録があるなぁ……」



 姉ちゃんの声はあからさまにガッカリしていた。いやいや姉ちゃん、キャラクターショーに興味ないでしょ。



「いや、姉ちゃんは忙しいんだし来なくても大丈夫だよ」



 失敗とかするかもしれないしなぁ…。そう思うと少し緊張してきた。こういうのは考えると却ってダメになる気がする。



「そんな事ないよ!連くんのデビュー、観たかったなぁ……」


「いっそ、仕事をキャンセルして……」

「そこまでしなくて良いから…」



 いや、わざわざ仕事を投げ出す様な事じゃ無いでしょう。大袈裟な…。

身内のデビューを観たいと思うのは家族として当然なのかもしれないが、別にそこまでする話ではないと思う。

大丈夫かな?この姉と俺は少し不安になった。



「そういえばこの事、綺夏や穂希には言ったの?」


 従姉のアヤと幼馴染の穂希、あーそういえば2人にも言ってない。というか2人も多忙で全然会えてないから話す機会が無かった。



「いや全然。そもそも穂希も入学式以来学校で一緒にならないし。アヤともあんまり顔を合わせてないからな」



一応、毎日ラインやらでやり取りはしているのだが、話しかけるのはいつも2人からで自撮りなんかも送られてくるが俺は基本的に返信するだけになっている。そこで話を出して良かったのかもしれないが何となく言いそびれていた。



「そっか。なら連くんが話す機会が無いなら私から話しても大丈夫?」



 姉ちゃんから話すのかぁ。まぁ別に誰が話しても大丈夫か。そんな大した事じゃないし。

 実際、姉ちゃんも父ちゃんと母ちゃんから聞いたっぽいし。



「うん、良いよ。姉ちゃんの好きにして」

「分かった。好きにするね」



 そして姉ちゃんは眠りに就いた。それを確認した俺は台本と音源を確認しようとしたのだが、姉ちゃんが俺を抱き枕の様に抱き着いてしまい俺はベッドから動く事ができず結局、その日は台本と音源を確認できず意識を手放した。


 仕方ない。明日台本だけでも学校に持って行って読むか…。


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