第4話 桐生水沙の衝撃
ヒロイン、ここから本格登場です。
まずはデレデレお姉ちゃんから。
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「えっ、お母さんそれ本当…!?」
私――
母親にそう言った。
今日は珍しくレッスンも仕事もリハも早く終わり、家にまっすぐ帰った。
何故って、それは勿論家には最愛の弟、連くんがいるからだ。
アイドルとして日々を忙しく生きる私にとって連くんは心の支えだった。
「姉ちゃんがんばれ!姉ちゃんならきっと凄いアイドルになれるよ!!」
初めてのレッスンに向かう時、連くんはそう満面の笑みで送り出してくれた。
私のアイドルとしての原点はあの時の連くんのあの言葉だと今でも思ってる。
初めてのインストアイベントにも連くんは来てくれて一緒にツーショットを撮った。
あれは今でも大切な私の宝物、スマホの待受にして辛い時、苦しい時いつでもそれを見ていた。そうすると連くんにがんばれ!負けるな!と励まされている様に感じるからだ。
私が連くんを弟ではなく一人の男の子として意識する様になったのはいつからだろう…。
いつだったか思い出せない位遠い昔、もうその頃から連くんは可愛い弟ではなく、一人の大切な男の子だった。
まぁ、それは綺夏と穂希も同じだったと知った時は流石にビックリしたけど。そして実の弟に恋愛感情を持つ私に驚かれるかなとか引かれちゃうかなとは思ったけど、2人は前々から察していた様でやっぱりなという反応だった。
それはともかく、家に帰れば連くんがいる。連くんは確かどこの部活にも入るつもりはない、中学の時と同じで帰宅部になるはずだと同じクラスの穂希が言っていたし、そもそも特撮オタクで家で特撮を観ている事が多い連くんが家にいないはずないしね。ただ、私よりいっつも特撮を優先するのは恋する女の子としてちょっと妬けるけど。
でも、連くんはいるのは間違いない。だから私は家路を急いだ。
でも、帰ってきた時には連くんはいなかった。
リビングにも部屋にもお風呂にもトイレにもいない。
時間は19時を少し回った位、確か学校が終わるのは17時前、うちから学校までは徒歩10分位という近い距離にあるし、辺りは住宅街なので寄り道できる場所も無い。
一体どうしたんだろう…?
もしかして事故?最悪な状況が頭をよぎるが、その割にお父さんもお母さんも平然としている、何だかんだ連くんに甘い2人がこんなに落ち着いてるなら事故じゃない。
でも、私の中で漠然とした不安感があった。何かが私から連くんを奪ってしまうんじゃないか。そんな予感がしたのだ。
そしてその予感は的中した。
夕食時、やはりそこに連くんの姿は無かった。
連くんと一緒に夕食を食べて、2人でお風呂に入って、2人で寝て…、流石にお風呂と寝るのは連くんも照れるかもだけど、私も忙しくてなかなか家にいられない、だから家にいるときは連くんに思い切り甘えたかった。2人でいたかった。独占したかった。でも、今家には連くんの姿がない。
もう我慢できなくて夕食の時にお母さんに聞いてみた「どうして連くんがいないの?」と。
するとお母さんの答えは驚くべきものだった。
「あれ?水沙には言ってなかったっけ?連ね、アクションチームに入ったのよ」
「アクション…チーム……?」
「ほらあれよ、連の好きな特撮もの?そういうヒーローショーをやる劇団なんだって」
「えっ…?お母さんそれ本当!?」
私は思わず立ち上がってしまった。連くんがアクションチームに入った…?いつも家にいるインドア派な連くんがアクションをやっている姿が私には全く連想できなかった。
でも私の漠然とした不安感は当たってしまった。
連くんは子供の頃から特撮中心の生活を送ってきた子。そんな連くんがヒーローショーの世界なんかに入ったら絶対そっちばっかりになって私なんか見向きもしてもらえなくなるかもしれない。
それは私にとって死刑宣告にも等しい話だった。
「何でお父さんもお母さんも止めなかったの!?」
私は大声で叫んでいた。
妖艶で優雅、年齢不相応な大人の余裕を持つアイドルと周囲から言われる桐生水沙の姿はそこには無かった。ただただ好きな人と一緒にいたい一人の女がそこにいた。
でも、お父さんもお母さんも顔色一つ変えなかった。
「いやだって、連がやりたいという事を無下にするのもなぁ…」
「それにあの子、アクションチームに入ってから毎日イキイキしてるし…」
「それに『俺はヒーローになるんだぁぁっ!!』って凄く意気込んでたからなぁ」
流石の水沙の両親の呑気さに苛立ちを覚えながらも、確かに連くんがやりたい事を見つけたのは姉としては喜ぶべき事なのかもしれない。
でも、私の中の“女”が納得できないのだ。
もう両親はアテにならない。
私は連くんに直接問いただす事に決めた。
連くんが帰ってくるまでずっと待っていた。
夜10時も過ぎようとする頃、玄関前に人の気配がした。
この気配、絶対間違える事は無い、連くんだ…!
私は急ぎ、玄関に向かった。
やはりそこには連くんがいた。
思わず抱き着きたくなるのを我慢して私はこう言った
「お帰り、連くん」
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