5、姉ちゃんに喜んでもらうために
まずは、姉ちゃんが好きそうなところに行くことにする。
デートについて検索をかけたら、彼女を楽しませるのが大事だと書かれてあったからだ。
以前の俺ならそんなこと考えず、自分の好きなとこに行こうとしただろう。
でもいまは姉ちゃん優先! 喜ぶ顔が見たいし、成長したじゃんって褒めてもらいたい。
「なーに百面相してんの」
「うおっ!? いや、なんでもないぞ!」
いきなり姉ちゃんに覗きこまれてビックリしてしまった。慌ててかぶりを振る。
能あるバカは爪を隠すというらしいし、俺の内心でのたくらみもまだバレないように注意しなくては。
挙動不審ではあったけど、姉ちゃんはそれ以上追及してこなかった。黙って俺にエスコートさせてくれてる。
そのことにホッと息をつきながら、気ばらしがてら周りに目をやってみる。
「うぉ……っ」
うっかり声がもれてしまう。
だって周りからじろじろ見られてんだもん。というより、みんなが見てるのは姉ちゃんの方か。
やっぱりうちの姉貴は美人らしく、人目を惹くに惹きまくっている。
ここだけスポットライトが当たってるみたいだ。合わせて俺を腫れもののように見てくるのはやめて欲しいんだが。分不相応だって自覚はあるんだからさ。
「……っ」
だけどそれ以上に、胸の高鳴りがすごいことになってる。繋いだ手のひら越しに、姉ちゃんに伝わっちゃわないか心配なぐらいだ。
成り行きで付き合うことになったわけだけど、こんな美人が彼女だったら鼻高々だろうし、俺むしろツイてるのでは? などと考えてしまいそうになる。
いや、考えちゃってるなもう。口元のニヤケが止まらない。
「なにキモい顔してんの。やめてよこんな人前で」
「キモいって言うなよ! これはその……朱莉が美人過ぎるのが悪いんだぞ」
「っ、なによそれ……」
呆れたようにそっぽを向かれてしまった。だけど、ほんのり頬が赤らんでたな。
指摘はしないけど、姉ちゃんも照れくさいのかもしれない。
「あ、着いた。まずはここ入ろうと思うんだけどさ」
「ショップね。いいじゃない」
よしっ、なかなかの好感触。
俺は姉ちゃんの手を引きながら、店内へと入っていく。おっぱいが大きな店員さんに目が吸い寄せられた。
「すげぇ、デカい」
「出てるわよ、悪い癖」
「あ、ごめんつい……」
睨んでくる姉ちゃんに頭を下げる。けど、なんだか拗ねてるようにも見えるのは気のせいだろうか?
俺のことなどほっぽり出して、服を選んでるのをみるに、そんな感じがする。やっちゃったなぁ……。
姉ちゃんとの心の隙間が開いてしまった気がして、落ち込みそうになる。
でもダメだ。ここは姉ちゃんに喜んでもらうために、頑張らないと!
パチンと頬を叩いて気を引き締める。こういうときは、服を選んであげると良いってネットの記事に書いてあったな。
俺はさっそく、姉ちゃんに似合いそうな服を何着か見繕っていく。これとこれ、あとこれとかもいいな。
うんうん悩む様子を見せる姉ちゃんの元に、俺は駆け寄っていった。
「あのさ! これとか朱莉に似合うんじゃないかなって」
「え? あんた選んでくれてたの?」
「当たり前だろ。……今日は初めてのデートだし、朱莉にたくさん喜んでほしいから。あと、さっきはごめん。いまの俺は、朱莉の彼氏なんだもんな」
「……優介ったら、成長したわね」
姉ちゃんがボソッと呟いたかと思うと、とびきりの笑顔を見せてくれた。それだけで、ショートでもしたみたいに頭が真っ白になる。
「持ってるの貸して。選んでくれたやつ着てみるから」
「あ、うん……」
どうしよう、ドキドキが止まらない。姉ちゃんから目が離せない。
いままで好きになった子たちと同じような感じだけど、それ以上に不思議な感じもする。
足りてなかったものが埋まっていくような。姉ちゃんのことを考えるだけで、満たされていくような。
ポカンとしていたら、目の前に着替えた姉ちゃんが現れて。
より、俺の全身が熱くなった。
「どう? 似合ってる?」
「好きだ……」
「え? なに、聞こえないんだけど」
「あっ、とその……! すげー似合ってる!」
「ふふっ、そう。ならこれ買ってくるわ」
姉ちゃんが嬉しそうに微笑んで、着替えに戻ってしまう。
見えなくなったことでちょっとだけ、冷静になることができた。
ぐちゃぐちゃになってた思考が、ひとつにまとまっていく。
俺はもう自覚してしまってたんだ。
「これがほんとの、人を好きになるって気持ち……」
俺が本気で恋をしたのは、実の姉でした。
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