OLD WAR
あんこ文
第1話 紫煙と硝煙
暗転
ガキの頃大嫌いだった珈琲と煙草を飲めるようになったのはいつだったっけ?
一時間ほど前まで自分の身体だったはずの肉塊の、出来るだけ大きい部分がかき集められていくの感じながらふと考えていた。
『回収』が始まっているということは戦闘はこちらの勝利で決着したのだろう。既に制空権を抑えた状態での攻略戦。今回は左耳と膝から下を爆心地に落っことしたまま帰還する羽目にはならないだろうと踏んでいたのに、あの旧型のデカブツ野郎め。
ある程度の残骸が残っていれば再構築には問題無いとはいえ、『俺』がその辺の名前も知らない地方都市にまき散らされたままでは寝つきが悪い。
少し離れたがれきの陰に落ちてる前頭葉の欠片も拾っておいてくれよと回収部隊に念押しした後、俺は『俺』との回線を切断した。
「よお、ピース! また死にぞこなって脳みそとアソコ置いてきぼりにしてきたって聞いたぜ? お前もそろそろ医者に血流を増やす薬を処方してもらった方がいいな!」
「お前だってバイアグラの記事を最近熱心に読み込んでるだろうが。それに落としてきたのは前頭葉の一部だけだよ」
基地に併設されている大型チェーンのカフェに顔を出すと早速部隊の連中がはやし立ててきた。駆け寄ってきたウエイトレスにウインナーコーヒーを頼み、彼らの占領したテーブルに着くと途端に今回の戦闘の品評会が始まる。
「ま、今回はまぁまぁマシだったよな? 10年前の撤退戦に比べたらよぉ」スカンクと呼ばれる部隊員が煙草をくゆらせながら言うと、優に二席分は座席を占有した男がブクブクした両手を振りながら同調する。
「あぁ楽勝楽勝。毎度こうやってケリがついてくれりゃ助かるよな俺たちも」
「おいおい、君らは正規戦だけだったからだよスキニー。私たちが受けた被害は聞いてるでしょう? 今回は貧乏くじでしたねピース」眼鏡を神経質に押し上げながらマサイが言った。奴は今回の作戦で下あごと内臓を半分ほど置いてきたそうだから説得力も増すというものだ。
適当に同意してテーブルにとどいたウインナーコーヒーをすすると、“泌尿器科”に関するウェブサイトを熱心に読み込んでいたディッカーが急に大声を出した。
「おい見ろよ!今回発売する新薬は今までのような副作用もなく、しかもバイアグラをしのぐ効能が確認されたとよ!」
途端に戦闘の話などみなふきとんでしまった。これがとうに60を超えた我々の日常だった。
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