第2話 はじまり 2
二人は広間にある食堂で、少し遅い朝食を取っていた。太新は朝食を取りながら学舎宛てに手紙の文を書き綴っていた。その横に先程、袋に入れた赤い石が置かれていた。袋の中に入れても、その輝きは消える事が無く袋の中からでも輝いているのが分かる程であった。
「先生、早く食べないと食事が冷めますよ」
「ああ…」
太新は返事をするが、なかなか食事に手を付けずにいた。
既に軽和は食事を終えて、ずっと向い側の席で書き物をしている太新をみていた。
しばらくして太新は、ふと何かを思い出したかのように書き物をしていた筆を止めて軽和を見て話し掛ける。
「そう言えば…お主は学舎に入学をして、どの位になるのだ?」
「約半年になります」
「学年の現在の階級等は?」
「まだ初等部の一階級です」
「ふむ…」
太新は少し考え込む様な表情を見せる、しばらくして軽和に話し掛ける。
「学舎の近くに別棟がある事には、今まで気が付かなかったかな?」
「あるのは知っていました。ただ…その付近は生徒会長が学舎の生徒立ち入り禁止区域に指定しておりまして別棟に何があるのかは全く知りません」
「そうか…あの嬢さんの仕業か、全く困ったものだ…」
太新は少し溜息を吐く。
軽和は、袋に入った石を見て
「そう言えば、先程、先生は洞窟の中で呟いていた…全ては始まったばかり…とか、言っていましたが…あれは、どう言う意味ですかね?」
「そうだよ、全ての歯車は、まだ回り始めたばかりにしか過ぎない何もかもな…」
「それって…つまり、どう言うことなのですか?」
「これから、この赤い石が、広世(コウヨ)に新たな光を導く引き金へと、なるのかもしれないのだ」
「そうですか…」
軽和は答えるが、半分は太新の言っている事が分からなかった。
「それにしても、お主は本当に何も知らずに来たのだな…」
太新は溜息を付きながら言う
「ええ…まあ、ある意味同僚達にはめられた…と、でも言うべきでしょうか」
「確か…出発の日に、皆がお主に向かって手を振っていなかったかな?」
それを聞いた軽和は顔を赤くして、少し俯きながら…
「あれは、皆に嵌(は)められたのです!」
その言葉に太新は少し呆れた表情をした。少し間を置いてから軽和に話し掛ける。
「まあ…これから、様々な出来事が起こるかもしれないぞ。私等にとって信じられない様な出来事が起こるかもしれない」
太新は嬉しそうに言う。
その時、どこからか大きな物音がした。それと同時に多くの人達の騒ぐ声が周囲に響き渡った。
「キャアアー!」
女性の悲鳴らしき声が聞こえた
太新と軽和は辺りを見渡した。広間には多くの人達が立ち上がって何事かと周りを見回している。
その時、何かがとてつもなく素早い動きで駆けていくのが見えた。
「あいつだ!」
誰かが大声で叫ぶが、目でその姿を追うのが精一杯であった。
「来たぞ!」
大声で男性が言う、その時太新と軽和の前に何かが飛び去って行く。
「何だ?」
「あっ!」
太新が大声を上げた。軽和が振り返ると食台の上に置かれていた袋に入った石の姿が袋ごと消えていた。
「本当だ、いきなり起きた!」
「いや、これは違う!」
周りを見渡すと、大勢の人達は皆が外を見ている。その何かは既に民宿の中にはいないのが二人には感じられた。
一人の男性が近付いてきて、太新と軽和に話し掛けて来た。
「もしかして、今の奴に何か盗られましたか?」
「大事な物を盗られました」
「捕らえて来てやりましょう、あの異類人種の輩を…」
「え…今、何か通った、あれが異類人種なの?」
軽和は驚きながら言う。
「そうだよ、あれも異類人種…」
太新は、軽和の側で言う。
異類人種とは、洞窟に入る時に荷物を持ってくれた者だけかと軽和は思い込んでいた。
太新は、男性の側へ行き…
「今の、あの動きからして私は、あの異類人種は獣霊系(ジュウレイケイ)の猫狸人種(ビョウコウジンシュ)辺りの者だと思うのだが、貴方の見立ては、どうでしたか…?」
「そうですね、私も猫狸人種の者だと思っています…しかし、あの速さは並の者ではないです。その種の者の中でも極めて能力が特化(とっか)している奴だと考えられます」
「成程…」
「先生、何を呑気に話なんかしているのですか早く後を追いかけましょう」
「まあ少し待て…相手が何者なのか分かれば、こちらは十分に打つ手はある」
「え…あるのですか?」
「少しばかり準備に時間が必要になるが…」
太新は、そう言って民宿で働いている者達の所へと行き何か話をし始める。
それを見ていた男性が軽和の側へ行き
「君の先生と言う方は一体何を考えて、おられるのだ?皆は、あの異類人種を捕まえようと外へと飛び出して行ったと言うのに…」
「僕も、時々先生の考えている事が分からない時があります」
少し呆れた表情で答える。
太新は民宿の人達などの協力を得て短時間で広間に仕掛けを用意した。それは異類人種…特に猫狸人種が好みそうな食べ物を天井から紐で吊る下げ、それを引っ張ると天井に仕掛けてある大きな網が落ちて来るという、あまりにも単純な仕掛けであった。
民宿に居る人達は皆、広間の隅に隠れて異類人種が再び現れるのを待つ事にした。
太新は広間が良く見渡せる様な場所に身をかくした。その隣には軽和が座って居た。
軽和は内心…まだ太新の考えに納得のいかない表情をしていた。
「先生…もし、これが上手くいかなかった場合僕達は笑い物になりますよ。それを承知でやっているのですか?」
「大丈夫…俺は学園長と共にいろんな体験をしてきたのだ。これ位の事は日常茶飯事だ。今さら、どうってことは無い」
太新は自身ある表情で答える。
(心配だなあ…)
隅で同じ様に隠れている民宿の人達は、それまで会話をしていたが…声を急に潜めた。
近くに居た人が小声で「来ましたぜ」と、太新達の耳元に囁くように言う。太新と軽和は辺りを見渡すと、広間の壁にある窓から人影が見えた。
「あの者だ…」
太新は声を潜めて言う。
その人影は辺りに誰もいないのを確認して、広間にある食べ物へと近付いて行く。
人影が吊るしている食べ物を思いっきり引っ張る。すると天井に仕掛けてあった網が頭上に落ちて来た。それに驚いた人影は逃げる間もなく網の中に閉じ込められてジタバタと網の中でもがいていた。
隅に隠れていた人達は皆、声を上げて捕まった異類人種の近くへと走り寄る。
あっさりと罠に掛った光景を、目の当たりにした軽和は、少し呆気にとられていた。
「何をぼさっとしておる皆の手伝いをしないか」
太新は軽和を見て言う。
「ああ…、はい」
軽和は答えて網に掛った異類人種を見に行く。
一行が進もうとした時、広い空間の一角にある小さな洞穴のような場所から一人の男性の姿が現れた。
男性は皇季に気付くと…
「あ…親方戻って来たのですか、お帰りなさい」
「うむ…で、例の物は変わりないな」
「変わりはありませんが、ただ…」
「どうした?」
「他で作業している連中も石を見に集まって来ていまして、とても今は中に入れそうに無いですよ」
皇季は、男性が出て来た洞穴から中を覗くと洞穴には、大勢の人や他の者達が集まっていた。
「こら!お主等、仕事をさぼって何をしておる!」
大声で一喝すると、その場にいた作業員達は皇季の怒声に驚き一目散に、その場から逃げ出す。
「なかなかの迫力ですな…」
その言葉に、皇季は苦笑していた。
誰も居なくなった洞穴を見て皇季は「どうぞ…」と、皆を先に進めるよう手を差し伸べる。
その洞穴の中に一行が入って行くと、その先には明かりが灯して無いのに眩いばかりの光が辺りを照らしていた。
まるで、暗闇の中に日の光が差し込んだかの様に、その光は赤く輝いていた。
太新は、その輝きの側へと近付いて腰を下してよく眺める、その赤々と辺りを照らす物…それは拳程の小さな赤い石であった。石は岩のなかに潜り込んでいて、まだ半分ほど掘り起こされたままであった。
「おおっ!これだ、まさしく聞いて来た通りの物だよ…」
太新は震える様な声で言う。
「不思議な物ですな。宝石の様な鉱物でも無い単なる岩石の物質が暗闇の中で、こうも光り輝いているなんて、この石は一体どんな構造で発光をしているのか…中を割って調べて見たい程ですよ」
皇季は首を傾げて言う。
「良かったですね…先生、これで全て終わったのですから…」
「終わった?いや、それは違う…」
「え…?」
軽和は不思議そうな表情をした。太新は立ち上がり軽和を見つめていう。
「全ては、まだ始まったばかりだよ…。全ての歯車は回り始めたばかりに過ぎないのだからな…」
そう言うと皇季に「岩から、これを取り出してくれ」と、尋ねる。
皇季は返事をして手の空いている人を数人呼びよせて取り出しの作業を行う。
石が完全に岩から取り出され作業をしていた者が太新に石を手渡す。
太新は、しばらくの間じっと…無言のまま石を眺めていた。しばらくして異類人種の者に持たせていた自分の荷物を受け取り中から袋を取り出し石を袋の中へと入れる。
「しかし…貴方達は遠い国に住んでいる方達ですよね?しかも貴方は学舎の先生であられる方…それが、この様な遠方の…しかも辺境にまで来て何かと思えば…ただ石を見付けに来るだけなんて我々には、とても考えられないことですよ…。第一その石に一体どんな秘密が隠されているのかとても知りたいほどですよ…」
「いずれ…機会があったら、こちらからお話しをしますよ。今は時期を急ぐ身であるから…。これから帰国の手続きをしなければならないので、また…日を改めて連絡をしますよ…」
「ですな、まあ…その時は酒を酌み交わしながら、いろんな話が聞けるのを楽しみにしていますよ」
皇季が、そう言うと太新は微笑みながら「分かった」と、答える。
一行は、そのまま洞窟を出て行く太新と軽和は皇季達と別れて宿へと戻る。
二人は広間にある食堂で、少し遅い朝食を取っていた。太新は朝食を取りながら学舎宛てに手紙の文を書き綴っていた。その横に先程、袋に入れた赤い石が置かれていた。袋の中に入れても、その輝きは消える事が無く袋の中からでも輝いているのが分かる程であった。
「先生、早く食べないと食事が冷めますよ」
「ああ…」
太新は返事をするが、なかなか食事に手を付けずにいた。
既に軽和は食事を終えて、ずっと向い側の席で書き物をしている太新をみていた。
しばらくして太新は、ふと何かを思い出したかのように書き物をしていた筆を止めて軽和を見て話し掛ける。
「そう言えば…お主は学舎に入学をして、どの位になるのだ?」
「約半年になります」
「学年の現在の階級等は?」
「まだ初等部の一階級です」
「ふむ…」
太新は少し考え込む様な表情を見せる、しばらくして軽和に話し掛ける。
「学舎の近くに別棟がある事には、今まで気が付かなかったかな?」
「あるのは知っていました。ただ…その付近は生徒会長が学舎の生徒立ち入り禁止区域に指定しておりまして別棟に何があるのかは全く知りません」
「そうか…あの嬢さんの仕業か、全く困ったものだ…」
太新は少し溜息を吐く。
軽和は、袋に入った石を見て
「そう言えば、先程、先生は洞窟の中で呟いていた…全ては始まったばかり…とか、言っていましたが…あれは、どう言う意味ですかね?」
「そうだよ、全ての歯車は、まだ回り始めたばかりにしか過ぎない何もかもな…」
「それって…つまり、どう言うことなのですか?」
「これから、この赤い石が、広世(コウヨ)に新たな光を導く引き金へと、なるのかもしれないのだ」
「そうですか…」
軽和は答えるが、半分は太新の言っている事が分からなかった。
「それにしても、お主は本当に何も知らずに来たのだな…」
太新は溜息を付きながら言う
「ええ…まあ、ある意味同僚達にはめられた…と、でも言うべきでしょうか」
「確か…出発の日に、皆がお主に向かって手を振っていなかったかな?」
それを聞いた軽和は顔を赤くして、少し俯きながら…
「あれは、皆に嵌(は)められたのです!」
その言葉に太新は少し呆れた表情をした。少し間を置いてから軽和に話し掛ける。
「まあ…これから、様々な出来事が起こるかもしれないぞ。私等にとって信じられない様な出来事が起こるかもしれない」
太新は嬉しそうに言う。
その時、どこからか大きな物音がした。それと同時に多くの人達の騒ぐ声が周囲に響き渡った。
「キャアアー!」
女性の悲鳴らしき声が聞こえた
太新と軽和は辺りを見渡した。広間には多くの人達が立ち上がって何事かと周りを見回している。
その時、何かがとてつもなく素早い動きで駆けていくのが見えた。
「あいつだ!」
誰かが大声で叫ぶが、目でその姿を追うのが精一杯であった。
「来たぞ!」
大声で男性が言う、その時太新と軽和の前に何かが飛び去って行く。
「何だ?」
「あっ!」
太新が大声を上げた。軽和が振り返ると食台の上に置かれていた袋に入った石の姿が袋ごと消えていた。
「本当だ、いきなり起きた!」
「いや、これは違う!」
周りを見渡すと、大勢の人達は皆が外を見ている。その何かは既に民宿の中にはいないのが二人には感じられた。
一人の男性が近付いてきて、太新と軽和に話し掛けて来た。
「もしかして、今の奴に何か盗られましたか?」
「大事な物を盗られました」
「捕らえて来てやりましょう、あの異類人種の輩を…」
「え…今、何か通った、あれが異類人種なの?」
軽和は驚きながら言う。
「そうだよ、あれも異類人種…」
太新は、軽和の側で言う。
異類人種とは、洞窟に入る時に荷物を持ってくれた者だけかと軽和は思い込んでいた。
太新は、男性の側へ行き…
「今の、あの動きからして私は、あの異類人種は獣霊系(ジュウレイケイ)の猫狸人種(ビョウコウジンシュ)辺りの者だと思うのだが、貴方の見立ては、どうでしたか…?」
「そうですね、私も猫狸人種の者だと思っています…しかし、あの速さは並の者ではないです。その種の者の中でも極めて能力が特化(とっか)している奴だと考えられます」
「成程…」
「先生、何を呑気に話なんかしているのですか早く後を追いかけましょう」
「まあ少し待て…相手が何者なのか分かれば、こちらは十分に打つ手はある」
「え…あるのですか?」
「少しばかり準備に時間が必要になるが…」
太新は、そう言って民宿で働いている者達の所へと行き何か話をし始める。
それを見ていた男性が軽和の側へ行き
「君の先生と言う方は一体何を考えて、おられるのだ?皆は、あの異類人種を捕まえようと外へと飛び出して行ったと言うのに…」
「僕も、時々先生の考えている事が分からない時があります」
少し呆れた表情で答える。
太新は民宿の人達などの協力を得て短時間で広間に仕掛けを用意した。それは異類人種…特に猫狸人種が好みそうな食べ物を天井から紐で吊る下げ、それを引っ張ると天井に仕掛けてある大きな網が落ちて来るという、あまりにも単純な仕掛けであった。
民宿に居る人達は皆、広間の隅に隠れて異類人種が再び現れるのを待つ事にした。
太新は広間が良く見渡せる様な場所に身をかくした。その隣には軽和が座って居た。
軽和は内心…まだ太新の考えに納得のいかない表情をしていた。
「先生…もし、これが上手くいかなかった場合僕達は笑い物になりますよ。それを承知でやっているのですか?」
「大丈夫…俺は学園長と共にいろんな体験をしてきたのだ。これ位の事は日常茶飯事だ。今さら、どうってことは無い」
太新は自身ある表情で答える。
(心配だなあ…)
隅で同じ様に隠れている民宿の人達は、それまで会話をしていたが…声を急に潜めた。
近くに居た人が小声で「来ましたぜ」と、太新達の耳元に囁くように言う。太新と軽和は辺りを見渡すと、広間の壁にある窓から人影が見えた。
「あの者だ…」
太新は声を潜めて言う。
その人影は辺りに誰もいないのを確認して、広間にある食べ物へと近付いて行く。
人影が吊るしている食べ物を思いっきり引っ張る。すると天井に仕掛けてあった網が頭上に落ちて来た。それに驚いた人影は逃げる間もなく網の中に閉じ込められてジタバタと網の中でもがいていた。
隅に隠れていた人達は皆、声を上げて捕まった異類人種の近くへと走り寄る。
あっさりと罠に掛った光景を、目の当たりにした軽和は、少し呆気にとられていた。
「何をぼさっとしておる皆の手伝いをしないか」
太新は軽和を見て言う。
「ああ…、はい」
軽和は答えて網に掛った異類人種を見に行く。
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