第1話 はじまり 1
明天歴三二九年
― 鉱山付近にて…
その日は九月初旬だと言うのに妙に雨の多い季節だった。連日から降り続く雨は、止む気配さえ見せずザアザア…と降り続くける雨音だけを響かせていた。連日から降り続けている雨のせいなのか、その日は妙に朝から肌寒い日であった。雨天の為、朝6時頃を過ぎても、空は薄暗さを残していた。降り続けている雨は大粒で、激しく音を立てながら止む事のない空模様を、辺りに見せつけていた。降り頻る雨の中、早朝から雨具を身に付けず雨に打たれている一見風変りな、一人の男性の姿があった。
男性は十代半ば位で、背丈は、あまり高くなく細身の少年であった。その彼の行動は、まるで雨が降っている事さえ自分は気付いていないかの様にも見てとれた。
何か大切な物を追いかけているようにも思える、少年の駆けていく足取りは森林から、切り開いた平地へと出た時、緩やかな歩みへと変わり、走り続けて疲れた体を少し休ませた。
少年は、息切れをしながら顔を上げて辺りを見渡す、雨で少し視界が悪いが平地には少数ながら、民家が立ち並んでいるのが分かった。民家が建ち並ぶ、その少し先に小高い丘があり、その丘の上に一際大きなが見えた。少年は、その建物を見つけると、嬉しそうな表情で再び走り始める。
なだらかな平地に立ち並ぶ民家の中、雨で地面が泥濘し、時折躓きそうになる様な場所を潜りぬけて少年は、小高い丘へと目指して駆けて行く。周辺に見える民家の建物の造りは、少し古惚けた木材で作られた家々が立ち並んでいた。小高い丘を進んで行く先、一際大きく見える建物が、木材と石灰で造られた、大きな民宿であるのが分かった。建物の周りには、その周囲を取り囲む様に、柵がしてあり、周辺には辺りを照らすために、至る所に灯が数多く設けられていた。
少年は民宿の近くまで来ると
バンッ!
勢いよく音を立てながら入口の扉を押し開けて中へ入って行った。中で早朝の作業をしていた人達は突然外からの、大きな物音に驚いて目を丸くして視線を入口へと向ける。
多くの視線が自分に集中している事に気付いた少年は、少し照れながら、
「すみません…」
小声で謝る。早朝の作業を行っていた人達は、男性の姿に気付くと、また自分達の持ち場へと戻り、元の作業の続きを始める。
入口から少し中へ入った場所に大きな広間があった。少年は、その広間で立ち止まって何かを探し始める。そんな彼を見て「おーい」と呼ぶ声がした。
「よう、何処の誰が飛び込んで来たかと思ったら…遠方からお越しの学舎の生徒、軽和(ケイワ)君ではないか。一体どうしたと言うのだ、こんな朝早くから…血相を変えて宿へと走り込んで来て…。まるで、何かに必死に逃れるかの様な姿で…それにしても君、ひどい格好ではないか。まさか君は雨の中ここまで走って来たと言うのかね?」
軽和と呼ばれた男性は後ろを振り返る、そこには、自分よりも少し背丈の大きい男性の姿があった。
「お早うございます…。ちょっと急いでいたもので…」
「まあ…お互い堅苦しい挨拶は無しにして、どうかね君も一杯飲まないかい…?」
男性は軽和に近付いて彼の肩に腕を組んで酒を勧める。男性からは酒の匂いが漂っていた。ふと、軽和が視線を横へ向けると、広間に設けられている数台ある木製の食台には数人程の大人達が酔い潰れて眠っていた。
「すみません。今は、大切な用がありますので、また後でうかがいます」
「何だよ、つまらない奴だな…」
「大事な用なので…」
「呆れた奴だな…お前は、で…発掘の方はどうなのだ今は?」
「それを僕は、これから先生に言いに行くところです。とても良い吉報を持って来た事を知らせるのです。この辺に見当たらないとなると…先生は今寝室ですかね?」
「多分そうだと思うよ、だけど…まだ寝ているかもよ、昨夜結構遅くまで起きていた様だったし…それより吉報となると、どうやら発掘は上手く行ったのだな?」
「はい、そうです。とにかく先に先生を叩きお越してきます」
軽和は廊下を進み始める。木で作られた廊下は、進む度にギシギシと音を立てる。
まるで、すぐに壊れてしまうのでは…、と、思わせるような、雰囲気すら、感じられる。
廊下を進むと前方に二階へ上る階段が見えて来た。階段を上がって行くと民宿の寝室が見えて来る、軽和は寝室の廊下を早足で進む。その先に廊下を挟んで東西に部屋が並んでいた。廊下を曲がろうとした時、突然目の前に現れた荷車と激しく衝突した。
衝突した勢いで軽和は後方へと転倒した。
「あら、すみません、大丈夫でしょうか?」
荷車を押していた女性が心配そうに慌てた仕草で軽和に近づいて声を掛ける。
軽和は、すぐに起き上がり「平気。平気」と、明るい表情で答えて、そのまま廊下を進んで行く、西側にある真ん中の部屋へと来ると部屋の前に立ち止まり扉を軽く叩く。
「太新(タシン)先生、起きていますかー?」
少し待っていたが、中から、返事が無かった。軽和は、少し強く扉を叩いた。
「太新先生、起きて下さい」
声も大きく出して言う。
しばらく待っていたが、中からは今度も返事がなかった。今度は、さらに強く扉を叩いた。
「太新先生―!」
軽和は大声で言う。
すると扉の向こう側からドスドスと、足音が近づいて来て勢いよく扉が開き部屋の中から四十代位の男性が姿を現した。
男性は扉を開けて寝起きの表情で、
「誰じゃ朝早くから睡眠の邪魔をする奴は!」
不機嫌な表情で軽和の前に出て大声で言う。白髪交じりの髪をした中年の男性は寝間着の姿で軽和の前に現れた。軽和とあまり背丈が変わらない男性は、目の前の人物に気付くと少し気持ちが落ち着いたのか、穏やかな表情になる。
「おお…何だ、お主だったのか…頼むから、こんな朝早くから起こさないで欲しいの…」
「先生、お早うございます」
嬉しそうな表情で軽和は挨拶をする。
「で…一体どうしたのだと言うのだ朝早くから…」
太新は欠伸をしながら軽和に話し掛ける。
「発見されたのです」
「…何が発見されたのだ?」
「お探ししていた例のものです…」
軽和がそう言うと、太新の表情が一変した。
「おお…何と、それは真実か?」
太新の、その口調は驚きと不安が入れ混ざった様な言い方であった。それに対して軽和は一言
「はい」
自身に満ちた表情で答える。太新は、その軽和の顔を見て彼が嘘を吐いていない事を信じて
「よし…分かった、すぐに着替えて出掛けよう。お主も、その濡れた服を着替えて来なさい」
「はい」
軽和は返事をして、その場を立ち去る。太新は、扉を閉めて急いで着替えをする。
太新は着替えを済ますと民宿の広間で軽和が来るのを待っていた。しばらくして軽和が広間に来た。なかなか現れなかった事に少しばかり苛立った様子であった。
「着替えぐらいで、あまり時間を掛けるものではない」
「失礼しました」
軽和が礼をすると太新は外へと出る。二人が民宿の外に出ると外はつい先程までの雨が止み、雲の切れ間からは青空が広がっていた。
穏やかな気候に戻った台地には野鳥の群れが舞、遠くで獣たちの鳴き声が聞こえた。
「わあ…、雨が止んだ…」
軽和は嬉しそうに言う。
「ふむ、まあ…ここ連日ずっと雨だったし晴れてくれると、とても清々しい気持ちになれるな」
二人は、空を眺めながら雨が降り止んだばかりの外を眺めながら鉱山へと向けて歩き出す。
森の中へと進むと木々から雨粒が滴り落ち、辺りからは鳥達の囀りが響き渡っていた。
二人は、しばらく薄暗い森の中を進んで行く。やがて前方に光が差し込み大きな赤茶けた岩山が視界に広がって見えて来た。岩山の近くへ行くと寂れた小さな小屋に似た建物が幾つも立ち並んでいた。鉱山で働く作業員達の宿泊施設のようであった。現場で作業を行っている大人達は数十名程だった。
岩山に大きな穴を空けて、地下に眠る天然の鉱物の発見を夢見て開拓された鉱山は、一時期は活気に満ち溢れていたが…現在は勢いを失いつつあった。幾ら穴を掘り進んでも天然の鉱物は見当たらず、その上発掘機関が長すぎて、作業する人達にも疲弊が見えて来たのであったからである。
この発掘現場を先代から受け継いだ皇季(コウキ)と言う人物は、そろそろ発掘も潮時かな…と考えて鉱山の閉鎖を思っていた時だった。その時、彼等の前に現れて来たのが太新達であった。
彼は皇季に詳しい調査の場所を示した地図を見せて、その付近の発掘を依頼したのであった。皇季は顰めた面をして答えた。
「二週間だけ引き受けてあげましょう」
その言葉に太新は表情一つ変えずに
「では…その様に、お願いします」
そう言って交渉が成立したのは、ほんの数日前の事であった。
二人は、その場所を通り抜けて行く、その先の大きな岩山の側へと行く二人は岩山一角にある巨大な穴の側へと行く、まるで口を開けて入る者を飲み込むかのように大きな穴の手前に二人は辿り着いた。
穴の手前には木材で作られた橋が設けられていた。
「しかし…いつ来ても背筋が凍る様な場所だよ、ここは…」
「そうですか、僕は、もう慣れましたけどね」
「俺は、どうも慣れなくて…」
二人が話をしていると後ろから…
「おや…太新先生来ていたのですか」
二人が振り向くとそこには五十代位の一人の男性の姿があった。
「おお…、皇季殿、貴方も来ていたのか」
「はい昨夜から、そちらの軽和君と一緒に残っていました」
「なんだ、そうだったのか」
「そうです」
皇季は太新に向かって少し嬉しそうな表情で話し掛ける。
「実は私の部下が今朝早くに例の物を発見したのですよ。まあ…その場に私や軽和君も一緒でした。私が太新を呼びに行こうとしたら彼がどうしても、この吉報は自分がしたい…。と、言うので彼に貴方を呼びに行かせたのですよ…。しかし…正直、我々は皆驚いています。数日前に、この地に訪れた貴方達の指示で指名された場所を掘り進んだら本当に言われた様な石に出くわすなんて…それも、こんな短期間で狐に化かされたとしか思えませんね」
「まあ…正直、私自身驚いていますよ。とりあえず先に、その場所まで案内をして下さい。話は歩きながらしようではありませんか」
「そうですね、最初は目的の物をお見せしなければなりませんね…」
皇季は、側を歩いている背丈の大きな者を呼び呼び寄せる。
「おい、あの方達の荷物を、持ってやりなさい」
皇季の言葉に対して、その者は黙って二人の荷物を受け取り二人分の荷物を軽々と持ち上げた。
「では、中へ行きましょうか」
一行は穴の中へと進み始める。洞窟の中は、至る所に明かりが付けられていた。外の光が届かないため昼までも洞窟の中は暗く空気は冷たかった。
辺りの雰囲気は、水の滴る音が響き渡り何所かでまだ作業を行っている者が岩を掘り続けている音が響いて来るだけであった。
わずかな足場を気を付けながら進む一行…そんな中、軽和は先程から自分達と一緒に同行している者をチラチラと見て不思議に感じていた。
無言のまま自分達と同行している人物は、軽和達と比べると頭2、3個ほどの高さがあった。わずかに身の丈が大きく筋肉が付いていて硬そうな身体、それでいて肌の色が奇妙に灰色をしている、そんな妙な人物を眺めていた軽和は何気なく呟く。
「そちらの人は凄いよね、僕等の分の荷物を持っても平気で歩いている、なんて…」
その言葉を聞いて、皇季は少し笑い太新は溜息を吐いた。その二人の様子を見た軽和は二人に向かって訪ねる。
「どうしたのですか?」
「君は、今までどういった、環境で育って来たのかな?」
「え…と…、普通の家庭ですが…、それがなにか…?」
「いや、家庭でなく、どういった場所で住んでいたのかな…と、私は聞いているのだが…?」
軽和は、皇季の質問の意味が分からなかった。軽和が、どう答えようか迷っている時太新が二人の会話の中へ入って来た。
「この者に、その辺の事を言っても無駄ですよ…今まで外の事を知らずに育って来たのですから…」
「ひどいです先生、僕は箱入り息子ではないですけど」
「いや、君の事では無く…君の育った場所だよ…」
太新の言葉に軽和は、さらに意味が分からなくなって来た、二人が何を意味して話をしているのか…?
「つまり、どういう意味ですか…先生?」
「君は、そちらに居る者を人と呼んだのだが彼は人では無いのだ」
「ええ!」
軽和は驚いて、荷物を持っている者を見上げる、
「人の姿をしているのに人では無いって、どう言う意味ですか?」
「彼は、異類人種(イルイジンシュ)なのだよ」
皇季が静かに言う。
「人の姿を、していながら人とは異となる者を…指して言う言葉だよ」
「…今まで、そんな者が居たなんて知らなかった…」
軽和は力無く言う。
「まあ…簡単に見分ける方法は…ほれ、彼の耳元を見なされ」
そう言われ軽和は異類人種の者の耳元を見る、その者の耳先は奇妙に尖っていた。
「何か、変わった形の耳をしていますね」
「角耳(カクジ)と一般的に言われている。これが異類人種を、見分ける簡単な方法だ。彼は、地霊系(チレイケイ)の鉄皮人種(テッピジンシュ)と呼ばれる種族だよ。一般的には、ほとんどの異類人種は特殊な能力を、操る事が出来ると言われているが…、彼の場合は、人並外れた肉体を持っていていることが特殊な能力等といわれている…」
それを聞いた軽和が鉄皮人種の肌を触る「わ…、凄く堅い…」と、驚きながら言う。
「彼が本気で私等を殴れば、たった一撃で、あの世へ行きますよ。まあ…その前に彼の能力が封印されているから、命だけは助かるかもしれないけどね」
「それは、どう言うことですか先生?」
「基本手に異類人種達は皆、浄園諸国(ジョウエンショコク)同盟の元、呪霊縄(ジュレイジョウ)を使って能力を封印し、姿や形を人間に近付ける様に義務付けられているのだよ。理由も無くむやみに封印された能力を開放する者は、同盟国の定めにより処罰が課せられるのだよ」
「厳しい規則ですね」
「まあね…この規則のおかげで、我々は彼等と諍いなく平和に生きているのだが…それでも、この法を破って人に危害を加えようとする輩が多いのだよ」
「いわゆる罪害種(ザイガイシュ)と言われる連中の事ですな」
皇季が声を潜めて言う。その言葉に太新は黙って頷く。
「ところで、彼の両腕には呪霊縄が取り付けて無いですが、何処に巻き付けてあるのですか?」
「首元に掛けてありますよ」
それを聞いた太新と軽和は鉄皮人種の首元を見ると、半透明の紐がぶら下がっているのに気付く。
「この縄、自分で解いたりしないですか?」
「多分出来ると思う…が、彼は縄を掛けてから一度も自分で、それを解いたことは無いよ」
「どうしてですか?」
軽和は興味深そうに聞いてきた。
「お互い信頼関係で結ばれているので…。まあ…異類人種の事を話し出したら、きりが無いですし…。今は、それよりも大事な事がありますから…。そちらを優先しましょうか」
一行は会話を終えて再び歩き出す。長い地下道の横には激しい地下水が音を立てて流れていた。地下水の近くを通って行くその時、異類人種の者が、何か呼びかける、
「何だね、君?」
太新は後ろを振り向いて、言う。
その時、太新は足下が滑って尻もちをついた。
それを見た、皇季は笑いながら、
「彼は足下が滑りやすいから、気を付けた方が良いと言っていたのだよ」
「へえ、言っている事、分かるのですか」
軽和は感心しながら言う。
「まあ…一緒にいるとね少しずつ分かってくるものだよ、相手が何を言おうとしているのかね…」
「いいなあ…」
軽和は、そう言って、異類人種の者を見上げる、相手も軽和を見て、少し微笑んでいた。
一行が、洞窟の中へと入り出して、小一時間近くが、過ぎようと、していた。
入り口付近と比べ、奥に進むに連れて、道が狭くなって来ていた。途中、一人ずつでなければ通れない道などもあった。
太新は、この道で本当に大丈夫なのか?と、途中何度も聞きたくなってしまったが…相手を苛立たせない為に、それは控えておいた。
しばらくして皇季の歩みが止まった。他の者たちも同じように足を止める。
皇季は後ろを振り向き太新に向かって一言「この先だよ」と、言う。太新は、それを聞いて胸の底から、嬉しさがこみ上げて来る感じでいた。
「この先か…」
そう言って辺りを見渡す、そこは少しの間続いていた狭い空間から切り離されたかの様に幅の広い大きな空間が広がっていた。
一行が進もうとした時、広い空間の一角にある小さな洞穴のような場所から一人の男性の姿が現れた。
男性は皇季に気付くと…
「あ…親方戻って来たのですか、お帰りなさい」
「うむ…で、例の物は変わりないな」
「変わりはありませんが、ただ…」
「どうした?」
「他で作業している連中も石を見に集まって来ていまして、とても今は中に入れそうに無いですよ」
皇季は、男性が出て来た洞穴から中を覗くと洞穴には、大勢の人や他の者達が集まっていた。
「こら!お主等、仕事をさぼって何をしておる!」
大声で一喝すると、その場にいた作業員達は皇季の怒声に驚き一目散に、その場から逃げ出す。
「なかなかの迫力ですな…」
その言葉に、皇季は苦笑していた。
誰も居なくなった洞穴を見て皇季は「どうぞ…」と、皆を先に進めるよう手を差し伸べる。
その洞穴の中に一行が入って行くと、その先には明かりが灯して無いのに眩いばかりの光が辺りを照らしていた。
まるで、暗闇の中に日の光が差し込んだかの様に、その光は赤く輝いていた。
太新は、その輝きの側へと近付いて腰を下してよく眺める、その赤々と辺りを照らす物…それは拳程の小さな赤い石であった。石は岩のなかに潜り込んでいて、まだ半分ほど掘り起こされたままであった。
「おおっ!これだ、まさしく聞いて来た通りの物だよ…」
太新は震える様な声で言う。
「不思議な物ですな。宝石の様な鉱物でも無い単なる岩石の物質が暗闇の中で、こうも光り輝いているなんて、この石は一体どんな構造で発光をしているのか…中を割って調べて見たい程ですよ」
皇季は首を傾げて言う。
「良かったですね…先生、これで全て終わったのですから…」
「終わった?いや、それは違う…」
「え…?」
軽和は不思議そうな表情をした。太新は立ち上がり軽和を見つめていう。
「全ては、まだ始まったばかりだよ…。全ての歯車は回り始めたばかりに過ぎないのだからな…」
そう言うと皇季に「岩から、これを取り出してくれ」と、尋ねる。
皇季は返事をして手の空いている人を数人呼びよせて取り出しの作業を行う。
石が完全に岩から取り出され作業をしていた者が太新に石を手渡す。
太新は、しばらくの間じっと…無言のまま石を眺めていた。しばらくして異類人種の者に持たせていた自分の荷物を受け取り中から袋を取り出し石を袋の中へと入れる。
「しかし…貴方達は遠い国に住んでいる方達ですよね?しかも貴方は学舎の先生であられる方…それが、この様な遠方の…しかも辺境にまで来て何かと思えば…ただ石を見付けに来るだけなんて我々には、とても考えられないことですよ…。第一その石に一体どんな秘密が隠されているのかとても知りたいほどですよ…」
「いずれ…機会があったら、こちらからお話しをしますよ。今は時期を急ぐ身であるから…。これから帰国の手続きをしなければならないので、また…日を改めて連絡をしますよ…」
「ですな、まあ…その時は酒を酌み交わしながら、いろんな話が聞けるのを楽しみにしていますよ」
皇季が、そう言うと太新は微笑みながら「分かった」と、答える。
一行は、そのまま洞窟を出て行く太新と軽和は皇季達と別れて宿へと戻る。
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