第59話旧都ラクトの戦い
「不味いわね、思ったように研究施設に近づけないわ」
補給のために帰還した俺をコーラルは艦橋に呼び出した。
俺は栄養補給の万能ゼリーを口にくわえながら、それを聞く。
それは俺にとってしてみれば、ある意味で分かりきったことではあった。
戦争で想定外は当然のことだ。
お気楽な政治屋などが人気取りのために戦争を吹っかけるという話は歴史上幾つもあるのだが、それが上手くいった試しなどない。
こちらが必死に考えているように相手も必死に考えている。
それを読み合い潰し合うのだ。
そこに内部の利権が必ずぶつかり合い、どうにか戦いの様相を出す。
そもそもにして、組織というのは内部のアレコレが1番ややこしいと俺自身は思う。
強いものが名乗り出て殴り合って終わりではない。
もっとも、それで物事を解決していた古代とも呼ぶ過去の歴史では負けた側は皆殺しだったりするので、シンプルが良いわけでもない。
時代が変わろうと戦争は殺し合いだ。
どこまでいっても最低な決着方法に過ぎない。
戦争を生業にする傭兵が考えることじゃねぇな、と俺は自身の内面にバツが悪くなって頭を掻く。
ふと横を見ると、従者のように控えるセラと目が合って首を傾げられる。
「……時間はあまりないけど、スッキリして行く?」
真っ赤な顔をしながら、ぎこちない手の動きでアレを示すセラ。
「なんでやねん」
若い娘が下ネタやめろ。
戦場ではこういうわかりやすいジョークを交わす方が肩の力が抜けて良いんだけどよ。
わしゃわしゃと乱暴に髪を撫でてやると、大人しくセラは赤い顔のままその手を下げた。
……ったく、無理にアリスみたいなマネしなくてもいいんだよ。
私みたいなマネってなんですかー、とどこかのポンコツ皇女の声が聞こえてきそうな気がした。
とにかく、この時点でこちらの中央側としては押されているとはいえ、決定的な敗北を迎えているわけでも敗北すると決まっているわけではない。
反乱軍全体としては敗北していることを知っているがな。
いずれにせよ、回収班のもう1人の手配も難しいぐらいには余裕がないそうだ。
俺とセラは回収班確定だから、臨時の小隊チームはただの一回の出撃で解散だ。
スーたち他の3人は損失のあった他の小隊と合流して、補給を完了したら再出撃するためすでに別行動だ。
「……回収それ自体を見直す必要もあるわ」
コーラルが搾り出すようにそう告げる。
こちらからは迎えには行かず、状況が落ち着くまで隠れてもらい、別ルートからの脱出をしてもらうということだ。
なるほど、俺を呼び出して告げたかったのはこのことか。
「……それは難しいだろうな。
すでに潜入組は動き出しているはずだ。
動いた以上、いまさら姿を隠したところであっという間に見つかりクララたちは処刑されるだけだ」
ゲームでは、クララたち潜入組はマークレストに乗り込んだアリスを残して死んでいる。
回収班が来るはずがない。
いや、クララ生存パターンならその後に回収されているから近くまで回収班がきていたはずだ。
クララ1人なら、別の味方が奇跡的に近くにいた可能性もある。
俺は万能ゼリーのゴミをダストシュートに放り込み、その考えを振り払う。
ゲームに考えをとらわれるなど、戦場では殺してくださいというようなものだ。
随分助けられた知識ではあるが、ゲームはどこまでいってもゲームでしかなく、いくつもの可能性に過ぎない。
それを可能性の一つととらえたうえでリアリストとして生き残るすべを見出していかなければならない。
そんな当たり前のことを忘れかけているようではな。
俺は大きく息を吐き、思考をまとめてコーラルに告げる。
「早いと思うかもしれないが、賭けに出た方がいい」
時間と共にこちらの戦力はすり減っている。現状、この戦場では全てにおいて敵が優ってしまっているからだ。
大きく後退するしかなくなる前に、逆に前に進み出ることを提案する。
どうせ、回収班は敵の主力をかいくぐり研究施設に向かうのだから、最初からある程度の無茶は必要だったのだ。
「第2部隊と第4部隊が大きく優勢です。
賭けに出る意味がないです。
ここで私たちが粘れば粘るほど我が軍は優位に立ちます!」
それまで俺たちの会話を黙って聞いていた副官のルーマリアが割り込んでそう言う。
「敵将リュカオンは奇策よりも堅実な方を選ぶ。
それが大胆にもこちらに戦力を多めに回している。
想定より苦戦しているならそういうことだ。敵は想定の何倍になりそうだ?」
「……およそ1.5倍ほど」
「問題なのはこちらよりも相手の数が多いことではない」
「どういうことです?」
ルーマリアが訝しげな顔で問い返す。
その数の差よりも問題なことが存在している。
戦場ではいかに相手よりも戦力を揃え的確に配置するか、それにかかっている。
それでもイレギュラーはあるが、戦力の優位がそれを押しつぶすこともできる。
一時的な数の優位に立って、こちらを潰して反転して迎え打つという手も十分にある。
だが、それでこちらが想定以上に粘りを見せて、北側からの反乱軍が間に合うなどとなれば政府軍としても目も当てられない。
「その分、旧都ラクトの北側の守りは手薄だ。
あるんだよ、そうしても大丈夫な策が政府軍……名将リュカオンにはな」
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