第50話わりぃな、敵は殺す主義なんだ

 俺の軽口と同時にバーゼルが鍔迫り合いをするサーベルで俺の機体を押し返し、言い返す。

「キサマはなんなのだ!?

 突然、現れて私の邪魔ばかりしおって!」


「あんたが俺の前に出てきてんだよ、邪魔すんなよな」

 ニヤッとした笑みを浮かべて、俺もそう言い返す。


 実際、バーゼルには後がないのだ。

 結果論でしかないが、バーゼル中佐率いる特務隊が西方守備軍を使ってまでスペレンツァを取り逃したこともそうだ。


 乾坤一擲けんこんいってきとなるはずの夜襲もマルットの尊い犠牲により阻まれた。


 さらには結果論だが、スペランツァが政府側の空中戦艦ブルーコスモにトドメを刺したことがそれに追い打ちをかけた。


 シーアを襲ったブルーコスモがスペランツァの主砲にぶち抜かれてあげた花火は、遠目でもよく見えたことだろう。


 もちろん遠目で確認できたとしても政府軍に、そこに至る過程まではわかることはない。

 不運にも空中戦艦同士の撃ち合いに負けたとしか見えなかったことだろう。


 それもあってスペランツァを特務隊が倒すか、せめて足止めさえできていれば。

 そんな声が政府軍ではあがったことだろう。


 バーゼルが悪いというより、人はどこかに責任を押し付けたがるものである。

 自分以外の誰かが悪いのであって自分は悪くないと。


 正しいことは快楽であるので、人は本能のままに『悪いやつ』を探してしまう。

 戦争に良いも悪いもないんだがな。

 まあそれ以前にバーゼル中佐たちのように民間人を襲うのは論外だな。


 政府軍は自らの組織以外を下に見る傾向が強い。

 戦争に巻き込まれただけの民間人にまで自らの主張だけを押し通すのだ。


 あの日、俺が隠れていた村を襲ったのもバーゼル中佐の特務隊だった。

 それを俺と白い魔導機が一緒に撃退した。


 多くに偶然と幸運が重なっての出来事だったが、そこからバーゼル中佐と特務隊のツキが落ち始めた。


 俺のせいといえば確かにそうだ。

 この間のスペランツァの襲撃も夜襲も失敗に終わったのだ。

 俺は俺だけが知る話をバーゼルに言い放つ。


「そういえばラクトの戦いでセラを殺したのはオマエだったな! 残念だったな! アイツらは俺が喰らうから今度は殺させねぇぞ?」

「わけのわからんことを!」

 俺だけが知る未来の話だからバーゼルには意味不明な言葉だ。


 ラクト攻防戦の中で味方への援護を行うセラをバーゼルは強襲して殺した。

 高速戦闘が得意なバーゼルだからこそ弾丸の飛び交う中を掻い潜りそれを行った。


 親しいと思った人を敵と思う相手に奪われるように殺される。


 それは無理にたとえていうならば、憎い相手に愛する女を寝取られるような絶望感といえば伝わるだろうか?

 例えが悪すぎるし、我ながらセンス無さ過ぎだな。


 まあ、なんだ。

 いずれにせよ、バーゼルはここで確実に殺す。


 少しずつ距離を取りながら毎秒数百発の機銃で威嚇。

 僅かにバーゼルと距離を取ったところで、連携してクララに迫ろうとしていた2機を銃砲を数発放ち牽制。


「他を見ている暇があるとは余裕だな!」

 追いすがってくるバーゼル。

「テメェらは俺だけで十分なんだがよ!」

 そう言い放つが実際にはそうではない。


 さすがに俺でも特務隊3機同時は骨が折れる。

 最初の遭遇も白い魔導機との連携して不意打ちかまして逃げただけだ。


 その追いすがるバーゼル中佐を後背につけたまま、俺は急落下するように加速する。

 戦闘機でこんなことをすれば、急激な加速度で意識がブラックアウトしてしまうだろう。


 だが、バーゼル中佐は元空軍凄腕パイロットで重力下で高速機動が得意だった。

 だからこそその加速度を大きく低減させる魔導機との違いに誤解が生じた。


 魔導機に戦闘機ほどの上下の空間の差はない。

 加速するスピードの中で俺は魔導機をバーゼル中佐の魔導機を中心にクルリと反転。

 そのままバーゼル中佐の背後を取る。


 当然、瞬時に反転して背後を取れる戦闘機など存在しない。

 その認識の齟齬が決定的な差を生んだ。


「あばよ」

 加速するままバーゼル中佐の魔導機に俺はサーベルを真っ直ぐに刺し込む。


「ば、ばか、な……」

「わりぃな、敵は殺す主義なんだ」


 バリバリと放電しながら、バーゼル中佐の魔導機はゆっくりと重力に引かれて落下して、その途上で爆散した。


「隊長ぉぉおおおおお!? あがっ!」

 隊長であるバーゼル中佐があっけなく爆散していくのを見て追従していた特務隊隊員が叫びをあげる。


 そして、その黄泉への道を追従するようにクララのサーベルに貫かれる特務隊魔導機。

 わずかな隙がその生死を分ける。


「俺たちは! 特務隊だぞ!?

 それが、こんなところで全滅、だと……!?」

 残った一機も現実が信じられないのか、呆然とした声をあげる。


「戦争はそんなもんだ」

 まるでそれを合図にするかのように、セラの遠距離ライフルが最後の特務隊を真っ直ぐに貫き、爆散させた。


 周囲にさらに接近する魔導機がないことを示す合図をアリスが送ってく来た。

 そう長いときはかからなかった。

 スペランツァの魔導機隊が残っていた残党を掃討して帰投する。


 損傷した駆動部は応急処置した上で一定の守備軍を基地に残し、第3部隊ホーリックスと直掩部隊はスペランツァと北部終結地に移動することとなる。

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