第48話出撃
「師匠って、ほんとに私たちの師匠ですよね!」
出撃前の機器の確認を行っている中、反乱軍の青い制服とマッチした姿のアリスは、通信画面越しで唐突にそんなことをほざいた。
「はぁ?」
自分らで勝手の俺を師匠呼ばわりしておいてなに言ってんだ?
第3部隊空中戦艦ホーリックスとは連絡を取り合うことは出来たが、政府側の中央守備軍に執拗に食い下がられているらしいので、援護に向かうことになった。
そのために各自、魔導機に乗り込み出撃準備に取り掛かっていた。
魔導機に乗り込んでそんなことをほざいたアリスだけではなく、3人とも青い制服がよく似合っている。
俺も傭兵でありながら、なぜか隊服を支給された。
中尉待遇で正隊員扱いだ。
ペアルックだとアリスたちに踊りながら喜ばれてしまった。
これでペアルックなら、ペアルックが何百人いるんだよ……。
G耐圧のパイロットスーツなどもあるが、高価なのでせいぜい着たほうが良い、という程度だ。
魔導機というものは航空戦闘機にかかるような重力の影響は少ない。
それというのも、魔導機はパイロットの『概念』そのものが違うと言ったほうがいいかもしれない。
魔導共有システムに代表されるように、概念上、人そのものが魔導機と一体となる。
もちろん、戦闘機や戦車同様、機械としての操縦は行うのだが、人が発する魔導力とリンクさせてエネルギーを供給しているのだ。
なので外部エネルギーが不足した状況でも、サーベルや銃砲などのその魔導機固有の兵器は使用できるし、ブースターなどは無理でも動くことは可能だ。
なので、魔導機は肉体よりもその精神の強さが性能を左右するとも言われている。
女子供が神とすら呼ばれた魔導機で敵を押し返した、なんて話もあったりするぐらいだ。
魔導機自体も本質的にはオカルト部分があるということだ。
それはともかくアリスが再度、俺を師匠呼ばわりしたことについて聞き返す。
「どういう意味だよ?」
「どうもなにも、そのままの意味ですよ?」
モニターの向こうで逆にアリスが首を傾げる。
出撃許可が出るまで待ちなのだが変に緊張しても仕方がない。
なので、暇つぶしの雑談ということだろう。
実際の戦闘時の打ち合わせでもした方が良い場合もあるが、こういった急な対応の場合、想定通りに事が運ぶというというものでもない。
そもそも想定通りなら事前の訓練で十分だし、想定外なら事前の打ち合わせなどまず意味がない。
そうとはいえ、ゲームのときも同じように移動途中と敵部隊と交戦していたが、目立った敵ではなかったはずだ。
強いて言えば、なぜか西方守備軍のマドック大尉の部隊もいて、3人娘と長い因縁というか、マドック大尉の貧乏くじが続いている。
中途半端に優秀なのが運の尽きだ、おそらく今回もいるだろう。
そこにいつのまにか通信を繋げていたクララとセラも雑談に加わる。
「先生は戦闘のノウハウも教えてくれてますし、戦闘時になったら私たちを導いてくれてます。
そういうことですよ」
「……あとは夜の手ほどきを」
俺はため息を一つ吐いて、どうでもいいことを問い返す。
「それで手を出して面倒なことになったらどうする、3美姫」
スペランツァでもファンがいるということだから、今でさえやっかみの視線を感じるのに、実際に手を出せばどうなることやら。
それにセラが代表して答える。
「……そのドキドキを楽しんで、手を出された後のウキウキも楽しんで、2倍……3人分だから6倍お得?」
残りの2人もセラに同意するように頷いている。
ナニがだよ。
「さあ、無駄口叩いてないでそろそろ行くぞ。
空中戦だから、ついて来れないときは置いておくぞ」
ツッコミの代わりに俺はそう言って雑談を終わらせる。
3人とも重装パーツを外し、飛行パーツを取り付けたデルタ型で出撃する。
「ぶー、師匠いけずー」
「了解です、先生」
「……流された。このつれなさも恋愛の味」
各魔導機が射出ブースターに設置されていく。
この出撃直前の感覚がたまらない。
今回は空中戦艦ホーリックスの援護のため、飛行できる魔導機が優先で出撃する。
出撃は中隊15機。
オリバー大尉と中隊長1人が全体の指揮を取る。
合流したグレイルも小隊3機を率いている。
そのグレイルから通信が入り警告されてしまった。
「……姫を
わざわざ通信を入れてまで、そんなふうにグレイルから悔しそうに睨みつけられたので軽く流してやる。
でも、実はこういうヤツは嫌いじゃない。
キャンキャン吠える小犬みたいでな。
「助けてやったのに随分な言い様だな」
「ぐっ……、そのことは感謝している。
だが俺の目の黒いうちはキサマを姫の相手とは認めるわけにはいかない」
「お前の目、青だよな?」
言うだけ言って、グレイルとの通信を切った。
アリスと同じ澄んだ青い目なので、グレイルは血筋的には近いのかもしれない。
世が世なら高貴な生まれとして、アリスの婚約者とかにグレイルがなっていたのかもな。
まあ、別にそれは好きにしたらいいが。
ゲームでも主力の1人だけあって、なかなかの腕だが、マークレストに乗ったアリスたちほどではない。
機会があったらぶちのめそうと思う程度だ。
そんな話をしている間に出撃の順番が俺たちに回る。
「さて、ポンコツども。行くぞ」
「ポンコツじゃないですー!」
「はい、先生」
「……戦闘後はベッドにご案内?」
セラは自身のスタンスをぶっちゃけてから直接的な言い方が増えたよな?
それで本当にベッドに連れ込んだらどうする気だ。
戦闘後などは興奮が冷めないから、ややこしい状況とか無視で抱くぞ?
それについては追及しなかった。
もしも赤い顔で頷かれでもしたら、落ち着いて戦えなくなりそうだったからだ。
いよいよ俺の魔導機が出撃する番になる。
モニターの中で、3人が真剣な顔で出撃の瞬間を待っている。
その顔は普段のポンコツぶりと違って、3人とも戦闘前の緊張をはらんでいて、随分と色気のある綺麗な表情だった。
……普段からその顔をしてれば、俺もさっさと手を出したことだろうな。
「クロ、出るぞ」
「アリス、出ます」
「クラリッサ・シェフィールド、出撃します」
「……セラ、いく」
そして、俺たちは出撃する。
……ところでお前ら。
なんで俺と通信繋げたままで出撃してんの?
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