第17話こいつらは俺が狩る

 お札を1枚2枚と数えながら視線をアリスに向ける。

「アリスのマルットを売れば……」


「ぎゃー!

 私のマルットをぉぉおお!?

 だめーヤメテー、この子を奪わないでー!」


「アリス、テンション高いねぇ〜……」

 ベッドに腰掛けた俺の膝を枕にするようにして、なぜかセラが寝転んだまま、そう言った。

 お前は調子乗ってるよな?


 セラはなんとなく黒猫のような感じがする。

 最初は懐かないがあるときから突然、懐きだして飽きたらどっか行くイメージ。


 猫はまあ、嫌いではないとさらさらの黒髪を撫でる。


「ふぉおぉおお……」

 なんだか悶えやがった。


 俺の膝にいるのはやっぱり人間ではなく猫だったらしい。


 ……いや、そもそもこの状況。

 絶対、なにか間違っている。


「そこのセラ!!!

 なんで師匠にもたれかかってるのです!

 羨ましいです、代われー!」


 ぎゃーすとアリスが飛びかかってくる。

 慌ててセラを放り投げて避けると、セラと一緒にアリスがゴロゴロと転がる。


「わーん、クロ師匠に捨てられたー!」

「師匠ー! 避けちゃダメー!」

「うるせー!!!」


 とにもかくにも、ポンコツ娘どもの俺への甘え方が酷い。

 甘え過ぎとかではなく、酷い。


 いつからライバルキャラの俺がこのポンコツ主人公娘どもをあやすことになったのだ?

 どうしてこうなった!?


 その横でクララは1枚2枚とお金を再度数え続けている。


「1枚、2枚……。

 入ったお金が16万に100万に今日が22万でこの宿が3万8000で晩御飯にアリスとセラがバカ喰いするもんだから8000……。

 私たちの着替えに美容品に携行食に荷物に6万2000……、服買い過ぎちゃった……。

 あと372万6000足りない……。

 500万ガルドの借金への支払いは先生へのご奉仕が500回……。

 ふっ、もはや事実上の嫁入りですわね……」


 1枚2枚数えたところで金は増えないと思うぞ?

 あと俺へのご奉仕ってなんだ?

 そして勝手に嫁入りを事実とするのやめろ。


 そんな3人娘を置いて俺はふらふらと部屋を出る。

 頭痛してきた。





 コカの港街はマークレスト帝国でも有数の港街だ。


 さらに東に大海へと繋がる港を持つケンギョウの街があるが、そこから積まれた荷は大河を通ってここに集められて西側や北部中央各都市に回っていくからだ。


 ケンギョウから南のカイエンの港までを南郡自治区と呼ばれ、この内戦時も半ば中立地帯として機能している。


 なのでマークレスト帝国は北部中央大都市群を含む東側、領土は広いが多数の山々に囲まれた西側、このマークレスト帝国の一大海運都市の南郡で分かれている。


 その中でも海運業を支配しているのがソンの一族だ。


 建前上、政府軍側になっているがその内心は虎視眈々と独立の機会を伺っている。

 ゲームでも後半には政府軍の横暴さをみかねて、表立って反乱軍に協力することになる。


 これは3人娘のうち2人が死亡してしまう戦いの後、反乱軍が半壊したことで政府軍が増長し南郡にも圧力をかけた。


 そのため今後に見切りをつけた南郡が反乱軍と本格的に手を組む。


 同時に弱体化した反乱軍はなりふり構わず、民間企業や組織、ハンターや中には義賊を気取る山賊などの協力を得ていった。


 南郡に限らず政府軍の横暴さに見かねていた様々な組織も反乱軍に協力していき、やがてそれが大きなうねりとなり政府軍打倒へと繋がる。


 その先鋒となる主人公がこの3人娘なのだが……。


 コカに程近い山脈のふもとに根付いている山賊を前にアリスが名乗りをあげる。

「我が名はマルット!

 覚悟しろ!」


 いつからお前は機械の身体になったアリスよ。


「シェフィールド家のいしづえとなりなさい!」


 クララ、政府軍の勢力圏で処刑された貴族名を名乗るのはやめなさい。

 なんでこっそり移動しているか忘れてないか?


「えーっと、えっと……セラいっきまーす!」

 セラ、1番正しい名乗りだが、そもそも山賊相手に名乗らなくて良いから。


「いっそ3人合わせてポンコツ娘としてアイドルグループでもやるか?

 プロデューサーになってやろうか?」


 俺は半ばヤケで口からそんな言葉を吐く。

 名乗りはともかく、調子も戻ってきたのか3人は危なげなく山賊をのしていく。


「なんでですかぁー!?」

「いえ、アリス。

 これは悪くない案かも……、そうするとお金が沢山……、いえ、きっとプロデューサーの先生に食い物にされて、あああ」


 あああ、じゃねぇよ。

 クララよ、家を再興する野望はどうした。

 アイドルで貴族家は再興できないぞ。


「……その場合、アイドルでのキャラクター付けはやはり百合!」

 セラ、その気になってんじゃねぇよ。


 山賊は魔導機5機と規模にしては多いが、主人公である3人娘が調子に乗れば負ける相手ではない。


 俺はときどき逃げ出そうとする山賊を牽制するだけでよい。

 そこでチラリと視界に入った砲台について注意を促す。


「砲台が狙ってるぞぉ〜?

 さっさと潰さないとやられるぞ」


 砲台というのは動かないが威力は決してばかにできない。

 空からの移動でも1番に警戒しないといけないのは曲射砲などの砲撃だ。


「ガッテンだ!」

 アリスはマルットを俊敏に操縦し、手近で見えている砲台に突っ込む。

 それをクララが無言で援護。


「アリス、そっちは任せた。

 山陰に隠れてた砲台は撃ち抜いたよ」


 セラが自慢げに魔導銃をフリフリ、その間に接近した山賊の魔改造作業用魔導機にも即座に反応してぶち抜いた。


 連携も随分良くなった。


 それでもいまのゲーム知識のある俺では、100回殺し合っても100回とも俺が勝つからな。


 これでさらに精神面でも成長するなら、ゲーム時の3人よりもずっと強くなる。


 その成長した3人を狩るのが、今から楽しみだ。

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